フライング・ウィッチーズ 4

 私は、今日まで何回もうそをついて、お手数をおかけしてすみませんでした。

 私がうそをついたわけは、魔法を使っている最中の人間に対して、魔法で危害を加えても事件だと思われないと考えたためです。

 しかし、魔力痕ですっかりバレたので、隠してもムダですから、本当のことを正直にお話しする気になったのです。

 それでは、改めて初めからお話しします。

 私と

   和 田 貴 明 19歳

 及び

   千 船 柚 木 19歳

は高校1年生からの知り合いであり、お互いに気が合い、そのころからよく一緒に行動するようになりました。クラスが変わったりしても、3人揃ってグループで休みの日などもよく遊んだりしました。

 本11月15日の昼頃でした。私は和田の家を尋ねました。

 私は和田と千船君との3人グループでYouTuberとしての活動を本6月28日より始めており、和田の家を尋ねたのは新しい投稿動画の内容を決定する話し合いのためです。

 YouTuber活動を始めようと提案したのは和田です。

 家に入ると、和田と千船君がいました。

 しばらく和田の家で雑談をしておりましたが、話の中で「投稿した動画の再生数が伸び悩んでいる」と私は和田から相談を受けました。

 和田が重力操作の魔法が使えることと、千船君が魔力誘導ができることから、私は和田に

「落ちてみた動画を撮影してはどうか。」

と提案しました。私たちYouTuberの間で「落ちてみた動画」というものは

 高い建物から飛び降り、最後に魔法を使って地面の手前で止まる様子をヘッドマウントカメラで撮影した動画

 のことを言います。

 私は再生数を引き合いに出せば和田が話にすぐ乗ってくると思ったので、数ある題材の中から「落ちてみた」を選びました。

 千船君は

「不法侵入になるからやめよう」

と制止しましたが、和田はこの話に食いつき、落ちてみた動画の撮影を決心したようでした。

 そのまま、話し合いは動画撮影の段取りを決めるための会議になりました。

 段取りは、本11月21日の午前10時に私と千船君が和田の家のあるマンションの駐車場にカメラを持って集まり、私が和田の様子を撮影し、和田がヘッドマウントカメラを装着して重力操作で屋上に登り、千船君が和田に誘導魔法をかけたところで、和田が屋上から飛び降りる、というものに決まりました。

 本11月21日は平日ですが、会議の日から直近で3人の都合がいい日だったことから、撮影日が本11月21日になりました。

 段取りを決めている途中、重力操作の魔法に話が及んだところで、私も非精密ながらも重力操作の魔法が使えること、千船君による魔力の誘導があることから、事故を装って和田を殺害することができるのではないかと思い始めました。

 同時に、和田が事故で死んでしまえば千船君の気が私に移るかもしれない、とも思いました。

 私は昨5月ごろから千船君に対して好意を抱いておりました。

 しかしながら、和田は私を差し置いて本7月ごろからグループを積極的に仕切り出し、千船君の気を引くようになりました。

 そして、いつごろからかは分かりませんが、2人は付き合う仲になりました。

 付き合っていると言われたわけではありませんが、2人の普段の様子から私は本10月の末ごろに、この事実に気が付きました。それ以来、私は和田を疎ましく思うようになりました。

 和田は専門学校に通う一方で、私はフリーターです。和田と比較して、私に人間としての魅力がないことは十分に分かっておりました。だからこそ、もしも和田がいなければ千船君が私に振り向いてくれるのではないかと考えるようになりました。

 本11月21日の午前10時ころに、先に述べましたとおりの段取りで撮影を始めました。

午前9時30分ごろに、最後の事前打ち合わせのために和田の部屋で集まった際、千船君はここでも

「やはり不法侵入になるから、やめよう」

と私と和田に対して制止しましたが、

「撮れ高があるから」

と私は説得しました。

 和田も

「責任は俺が取るから」

と説得に加担し、最終的に千船君は納得したようでした。

 そして、段取りに従って和田が屋上から飛び降りたのを見たところで、ここで魔法をかけても本人の魔法の誤りによる事故として処理されるものと考え、撮影をしながら、和田に対し重力操作魔法を力いっぱいかけ続けました。

問 この写真に示す魔力の痕跡に覚えはあるか。

 この時、本職は本11月21日司法巡査助松千秋が撮影した、事件現場の魔力痕の写真2点(別添)を示した。

答 ただ今見せていただきました写真のとおり、先に述べた撮影地点から、当該マンションの和田が飛び降りた位置を起点に地面の方向に魔法力をかけたことは間違いありません。


 もし捕まらなければ、私は事実を隠し通すつもりでした。

 今になって、たいへん身勝手なことをしたと反省し、後悔しております。


井 原 颯 斗


 以上のとおり録取して読み聞かせたところ誤りのないことを申し立て署名押印した。


前同日

南港警察署

司法巡査 橋 下 恭 一

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る