4章・AtoZ!?運命の修学旅行!!

コンダクター・アビスによる開幕の挨拶

「レディース&ジェントルメン! スリリングかつスペクタクル! 最高のドラマとエンターテイメントをお届けする、コンダクター・アビスのショーへようこそ!」


 どこまでも続く暗闇の中に差す、一筋の光。

 開演前の舞台、そこに立つ演者を照らすスポットライトを思わせる光の下に、彼は立っていた。


 大きなハットに綺麗なスーツを合わせた、紳士のような出で立ちをした男性。

 今、このシチュエーションでは、紳士というよりも劇団の座長という表現の方が相応しいだろう。


「さあ、今宵のショーは普段とは一味違います! どこが違うのかって? そうですね……まず、舞台が違います! 物語の舞台は狭い学園を出て、風の島と呼ばれるウインドアイランドへ! 美しい自然と人工物が調和するこの島こそが今宵、転生者が醜態を晒す最高の舞台なのです!!」


 気取ったように、あるいは何かを演じるように……アビスが誰かへと語る。

 一つ、また一つと自身が彩るショーの内容を説明する彼は、尋常ではないほどに楽しそうに見えた。


「今回のショーに合わせ、コンダクターである私はとあるアイテムを用意しました! これこそがショーを盛り上げる切り札です!」


 そう言いながら、アビスが懐から四角い何かを取り出す。

 幾枚にも重なったそれを高く掲げながら、彼は高らかに語り続けた。


「【ルミナス・ヒストリー】における修学旅行編……つまり、このウインドアイランドでは、特殊なアイテムを入手することができます! その中の一つに、こういったアイテムがあるのです!」


 説明を続けるアビスは、空いているもう片方の手に真っ白な四角いプレートを持つと、それを見せつけるようにゆっくりと一回転した。

 その最中も、彼は見せている四角いプレートについての説明を行っていく。


「これは、『クリアプレート』と呼ばれるアイテムで、名前の通り空白なこのプレートには好きなスキルを習得させることが可能! そうしてスキルを覚えさせたクリアプレートと好きな装備を合成することで、オリジナリティあふれる装備を作ることができる……というわけです!」


 単純に攻撃力や防御力を上昇させたり、元々の装備が持つ特性を強化するスキルを習得させたり……そういった面白い使い方ができるクリアプレートを紹介したアビスが、ニヤリと口元を歪める。

 ここからが面白いところだと、そんな笑みを浮かべた彼は今度は大量のプレートを手に持ちながら両腕を上げると、実に楽しそうな口調で語り始めた。


「今回、私はそのクリアプレートを大量に入手し、とある装備を完成させました! 自分の力を最も引き出せる人間の下へ飛び、その人物にすさまじい力を与える魔性のプレート! その数、二十六枚!! このプレートを手にした者がどんな力を発現させるかは、この私にすら予測不可能! まさにスペクタクル&スリリング!! この力を前に、主人公気取りの転生者たちは成す術なく叩きのめされることでしょう!!」


 アビスのその言葉に、僅かに空気がざわついたことがわかった。

 熱狂……そんな雰囲気を感じられる揺らぎを見せた暗闇の中、アビスはそれを煽るように話を続ける。


「しかし! それだけではありません! この私が、その程度のエンディングを皆様にお見せして、満足するはずがない!! 必ずや皆様の期待に応える、最高のエンディングをお見せしましょう。そのための準備は、既に済んでおります」


 そう言いながら恭しくアビスが頭を下げれば、彼の横に丸いポータルが開いた。

 そのポータルから見えるのは、どこかの塔の天辺。随分と高い位置に開いた穴を一瞥したアビスが、期待を煽るような口調で言う。


「さあ! 舞台は整いました! キャストたちが織り成す物語と、最後に迎えるエンディングを存分にお楽しみください! 絶対に損はさせない、最高のショーをお約束いたしましょう!!」


 穴に向き合ったアビスが、芝居がかった動きを見せる。

 ゆっくりと腕をクロスさせ、そこから大きく開きながら手にしていた大量のプレートをポータルへと投げ込んだ彼は、最後に再び正面を向くと、邪悪な笑みを浮かべながら挨拶を締めた。


「コンダクター・アビスが脚本、演出を手掛ける、転生者全滅ショーの開幕です。最後まで、是非お楽しみください」

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