頼むぞ!一番弟子!

「というわけで、本日から暫くこの部屋で生活することになりました。ミザリー・ピムです。どうぞよろしく」


「は、はあ……よろしくお願いします……」


 数時間後、ネリエスは自室にやってきて早々にそんなことを言うミザリーと対面しながら、若干ぽかんとした表情を浮かべ、彼女に挨拶をしていた。

 ユーゴから話は聞いていたが、いまいちよくわからない人選だな……とは思いつつもミザリーを部屋に上げた彼女は、荷解きをしている彼女を見つめながら思う。


(初対面ではない、けれども……少しだけ気まずいな……)


 何を隠そう、ネリエスはミザリーと話をしたことがある。といっても、友人と呼べるような親密な関係ではない。

 少し前にシアンが声をかけ、一時的にパーティの仲間として活動していたこともあったが……いつの間にか彼女が呼ばれることはなくなっていた。


 ネリエスもそうだが、ミザリーの方もあまり積極的に他者と関わるような性格をしていなかったせいもあったし、彼女と活動している間は主に訓練をしていただけだったということもあり、二人の関係は『顔と名前を知っている相手』程度に留まっている。

 そんな相手であるミザリーをルームメイトにするだなんて、ユーゴは何を考えているんだろう……? とネリエスが考える中、不意にこちらを向いたミザリーが声をかけてきた。


「ネリエスさん。短い間ではありますが、ルームメイトとして共に生活する以上、ルールのようなものがあった方がいいかもしれません。私の方は特にありませんが、ネリエスさんには私に守ってもらいたいルールはありますか?」


「え? いや……特にはない、かな……?」


「そうですか。では、何かあったら話し合って決めていく、ということにしましょう」


 そう言うとミザリーは再び振り向き、荷解きに戻っていった。

 急に声をかけられてびっくりしたところもあるが、平坦な彼女のしゃべり方には取っつきにくさを感じるところもある。


(あれ……? でも、今のって私のことを気遣ってくれた……のかな?)


 いまいち何を考えているかわからないミザリーだが、今の発言を振り返ると自分のことを気遣ってくれたような気がする。

 よくわからない相手だが、ユーゴの紹介ということもあるし、悪い人間ではないということも何となく理解しているネリエスは、思い切ってミザリーに話しかけてみることにした。


「あっ、あの!」


「はい、なんでしょうか?」


「え、え~っと……」


 思い切って話しかけたはいいが、肝心の何を話すかを決めていなかった。

 視線を泳がせ、必死に脳を働かせたネリエスは、真っ先に思い付いたことをそのまま彼女へと投げかける。


「み、ミザリーさんは、嫌じゃなかったんですか? いきなり私のルームメイトになるだなんて……」


(なんでこんなネガティブな話題しか出せないの、私!?)


 自分で言っておいてなんだが、話がネガティブ過ぎる。こんな話題を振られたら、ミザリーだって困るだろう。

 というより、この質問に対してミザリーに「はい、とても嫌でした」なんてあの無表情で答えられたら、心が完全に折れる。

 初手の話題選びとしては大失敗じゃないかと、こんな話題しか出せない自分にツッコミを入れるネリエスに対して、ミザリーはこう答えた。


「いえ、特には。むしろユーゴ師匠のお役に立てると聞いて、嬉しかったですね」

 

「ユーゴ、師匠……?」


 特徴的なその呼び方を繰り返すネリエス。

 ユーゴのことを師匠と呼ぶミザリーはこくんと頷いた後、ネリエスへとこう話を続けた。


「はい、師匠です。ユーゴ師匠には様々なことを教えていただきました。ファイトスタイルの変更も、師匠からの提案です」


「そう、なんですか……」


「本当に……師匠にはお世話になりました。見ず知らずの私の頼みを快く引き受けてくださって、色々とアドバイスをしていただいて……今の私があるのは、ユーゴ師匠のお陰です」


 そう語るミザリーの表情には、とても強い感謝の感情が浮かんでいた。

 無表情な彼女がこんな顔をするだなんてと驚いていたネリエスは、顔を上げたミザリーが頬笑みを浮かべながら自分に向けて放った言葉を聞き、息を飲む。


「こういう言葉は不適格かもしれませんし、安い同情かとも思われてしまうかもしれませんが……私は、ネリエスさんの気持ちがわかります。今のあなたは、ユーゴ師匠に出会った時の私とそっくりですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る