レイニー・メモリー

「えっ……!?」


 苦し気にそう言ったジンバへと、驚きで丸くなった目を向けるユーゴ。

 ジンバは握り締めた拳を額に当てながら、そんなユーゴへと話を続ける。


「言っただろう? トーマスはレーゲンと撃ち合った際、人質を取られていたと……その内の一人が、俺だったんだ」


「どうして、そんなことに……?」


「……奴を追い詰める戦いの場に、逃げ遅れていた子供が入り込んできたんだ。レーゲンはその子をトリカゴの中に捕まえようとした。俺は、その子を庇ったつもりが、一緒に取っ捕まっちまったのさ」


 小さく首を左右に振ったジンバが、その際のことを思い返し歯を食いしばる。

 己の取り返しのつかないミスを責めるような雰囲気にユーゴが言葉を失う中、彼は自分を責めるように話を続けていった。


「レーゲンが子供を人質に使うことなんて、俺たちもわかっていた。トリカゴを持っている時点で、想定できる行動だったはずだ。俺が余計なことをして、トーマスの前で捕まったせいで……あいつは、普段の冷静さを失った。じゃなきゃ、あいつが相打ち覚悟の射撃なんてするはずがねえ」


 思い出す、あの日のことを。破壊されたトリカゴから子供たちと一緒に脱出した瞬間に目にした、相棒の姿を。

 致命傷を負い、自分の前で崩れ落ちるトーマスの下へと、ジンバは一目散に駆け付けた。死ぬなと必死に呼びかけ、逝かせないようにと叫ぶ自分の前で……トーマスは、静かに息を引き取った。


「俺のせいだ。俺があいつの言う通り、冷静に動いてさえいれば……きっと、トーマスは死なずに済んだ。かけがえのない相棒を殺しちまったのは、他でもない俺なんだよ」


「ジンバさん……」


 相棒を死なせてしまったジンバの無念は、そこまでして追い詰めた犯人を逃がしてしまった時の悔しさは、ユーゴの想像を絶するものなのだろう。

 もしもあの時、普段から言われていた通りに無謀な行動を顧みていたら……トーマスは死なずに済んだかもしれない。


 そんな悔しさを抱えたまま生き続けていたジンバの下にようやく訪れた、相棒の仇を討つ機会。

 この街の人々を守るためにも、この弔い合戦に負けるわけにはいかないと表情で語るジンバが、ユーゴへと言う。


「その後、逃げたレーゲンの行方を追って色々と無茶な捜査をしたせいで、異動する羽目になっちまったが……こうして俺が街に戻ってきたタイミングで奴も姿を現したとなれば、運命が決着をつけろと言っているに違いねえ。今度こそ、あの野郎を捕まえてみせる。絶対にな」


「……無茶はしないでくれよ。これでも、ジンバさんのことを心配してるんだからな?」


「はははっ! ありがとうよ。だが……俺にとって、この事件ヤマは文字通り命懸けで解決しなくちゃならねえもんなんだ。多少の無茶は許してくれ」


―――――――――――――――


―――――――――――――――


「そっか……ジンバさんにとって、この事件は相棒の敵討ちでもあるんだね……」


「熱くなる気持ちもわかるわね。だけど、ユーゴの言う通り、彼が心配だわ」


 ジンバとの話を終えてから少しして、騒動を聞いて駆け付けた仲間たちに自分の知っていることを話したユーゴは、彼らと共に考えに耽っていた。

 メルトとセツナの声を聞きながら頷いたユーゴへと、マルコスが口を開く。


「ジンバ捜査官にとって重大な事件であることはわかったが、それと同じくらいに街の被害についても考えなければなるまい。ここでレーゲンを好き勝手させれば、この街に魔鎧獣がはびこることになるぞ」


「警備隊もそれはわかってる。だから、全力を挙げて犯人グループの行方を追っているらしい。襲撃されそうな場所にも隊員を配置済みだってよ」


「しかし、向こうには連れ去られた子供たちがいる。その子たちを人質に取られたら、こちらの動きも制限されそうだね」


「幼子を盾にするとは、卑怯な奴らめ! 武士の風上にも置けない連中でござる!」


「子供たちを助け出そうにも、相手はトリカゴの中にある亜空間をアジトにしてる。こっちから仕掛けるのは無理でしょうね」


「どうしたって相手に先手を打たれちゃうってことか……厳しいね」


 状況を整理すると、ユーゴたちにとって最大のネックは捕まっている子供たちだ。

 レーゲンたちの下から彼らを助け出さない限り、向こうは常に切り札を持っていることになってしまう。


「でも、魔道具を破壊すれば中の子供たちは無事に脱出できるんでしょ? ジンバさんがそうだったわけだしさ」


「問題はトリカゴをどう破壊するかだ。向こうは組織で動いている。戦いになれば、大人数が入り乱れる混戦は必至だ」


「接近して破壊しようにも、相手は蝙蝠の魔鎧獣ですもんね。飛んで逃げられてしまう」


「私やメルトが狙撃するにしても、混戦の中で狙いを付けられるかどうか……」


 考えれば考えるほどに、トリカゴの破壊が困難であるという事実に直面した一同が頭を捻りながら唸る。

 今、ここで話をしていてもいい案は浮かばなそうだと判断したユーゴは、膝を叩くと仲間たちへと言った。


「ここで話をしててもしょうがねえ。今は、相手が動いた時にすぐに反応するための準備をしておこうぜ」


「そうだな。先手を取られることが決定的なら、それに対処するための準備をしておくべきだ。今日は私も警備隊の詰所に泊まろう。そうすれば、いざという時に動きやすくなる」


「なら、私は入院してるリュウガさんにこのことを話しておきます。もしかしたら、お力を借りることもあるかもしれませんし……」


 今、できることはほとんどない。ならば、いざという時のための準備をしておくべきだ。

 しっかりと休むこともその一つであると話し合った仲間たちはここで解散し、ユーゴとマルコスは警備隊の詰所で一夜を明かすことにするのであった。


――――――――――――――

今年も一年、ありがとうございました!

連載からあっという間にコミカライズ、更には単行本発売までいけたのは、皆さんの応援のお陰です!


来年は小説はもちろん、漫画の方も面白い内容にできるよう、全力を尽くしていきます!

2024年もよろしくお願いします!という年末のご挨拶でした!

皆さん、よいお年を!

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