処刑、執行

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!?」


 すさまじいまでの威圧感を放つロストの言葉に、強いプレッシャーを感じたエゴスの呼吸が荒くなる。

 相手が巨大化しているような、あるいは自分が小さくなってしまっているかのような感覚を覚える彼は、半ばパニック状態に陥りながらがむしゃらな攻撃を繰り出し始めた。


「く、来るなっ! 来るなっ! 来るなぁっ!!」


 適当に近くにあった斧を持ち、それを振り回す。

 技もなにもあったものではない、ただ相手の接近を防ぐためだけに巨大な斧を振るい続けるエゴスを一瞥したロストは、緩く両腕を振ると共にその手の中に赤い双剣を生み出した。


「うん、武器生成も問題ないな。私は剣なんて使ったことないけれど……」


「ひっ!? あひぃっ!?」


 一歩、前に足を踏み出しながら手にした剣を一振り。

 それでまずエゴスが振り回す斧の柄と頭を分離させたロストは、そのままもう片方の剣を振るい、彼の右手首に浅い傷を負わせる。


「ひぎゃあっ! ぐわあああああっ!!」


 切られた手首から血が噴き出し、猛烈な激痛がエゴスを襲う。

 重量のある大斧を振り回すだけの握力を生み出せなくなった彼が悶え苦しむ様を見つめながら、ロストは楽し気に言った。


「実験に付き合ってくれてありがとう。お陰でこいつにも慣れてきたよ。お礼にじっくり痛めつけてあげよう。その間に自分自身の愚かさを悔いるといい」


「う、う……うわああああああああああああああっ!?」


 ロストの異質さを目の当たりにしたエゴスの心は、その脅しで完全に折れた。

 彼我の実力差を否応なしにわからされてしまった彼は情けない悲鳴を上げると共に血を噴き出す手首を抑えながら、一目散に逃げだそうとしたのだが――


「逃げないでくれよ。もう少し、楽しもうじゃないか」


「あがっ!? がべべべべべ……!?」


 ――逃げ出した先に出現した緑と黒に輝くエネルギーの壁に触れた瞬間、エゴスの全身に痺れが走った。

 身動きができなくなり、その場で静止してしまった彼へとロストが手を伸ばせば、小さく宙に浮いたエゴスの体が引き寄せられていく。


「ふんっ! はっ! ふははっ!!」


「ぎゃあっ!? ぐげえっ! ごばあっ!!」


 ……そこからは、一方的な蹂躙が続いた。

 引き寄せられたエゴスをロストが殴打すれば、攻撃を受けた彼はそのままエネルギーの壁に吹き飛んでいき、それに触れてダメージを受けると共にその場に静止する。

 そんなエゴスを再びロストが引き寄せ、また攻撃を加えて吹き飛ばし……その繰り返しだ。


 殴られる度に鈍い音が響く。壁に叩きつけられる度に苦悶の叫びが飛び出す。

 ロストは、エゴスの耐久力を彼よりも理解していた。故に、彼が気絶も死んだりもしないギリギリのダメージを与え続け、苦しませ続けている。


 何度も何度も、エゴスを嬲り、叩きのめし、折れた彼の心を粉砕するかのように攻撃を加え続けたロストは、やがてそれにも飽きたかのように手を止めた。


「さて……そろそろ終わりにしようか」


「ま、まっで……! お、俺は、まだ、死にたくな――ぎゃああああっ!」


 エネルギーの壁に叩きつけられ、自分の意志とは関係なく無理矢理その場に立たされるエゴス。

 少し離れた位置からそんな彼の姿を見つめるロストの両脚に、禍々しいエネルギーが収束していく。


 渦を巻くように緑と黒の闇のような光が脚部に集まり、力の高まりを見せる中、ロストは静かに宙に舞った。

 無重力の空間に浮かび上がるかのように飛び上がった彼は、そのまま身動きできず、命乞いの言葉を繰り返すエゴスの胸へとエネルギーを纏った両脚でのドロップキックを叩き込む。


「ロスト・スマッシュ」


「あ、がっ……!?」


 派手な悲鳴は飛び出さなかった。代わりに、静かな呻きが口から洩れた。

 叩き込まれた両脚での飛び蹴りを胸に受け、エネルギーの爆発も加わった一撃によって背後の壁をぶち壊しながら吹き飛んだエゴスが地面を転がっていく。


 ヒーローが怪人を倒す時のような爆発も絶叫も必要ない。自分には、これが相応しい。

 静かなる決着に満足した笑みを浮かべながら、ロストは完全なる処刑を執行するために地面に倒れて呻くエゴスの下へと近付いていった。


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