裏エピローグ・エゴス・カットマンの終わり
side:主人公(逃亡中のエゴスと彼を追ってきた黒幕の話)
「くそっ! くそっ! くそっ! 何もかもが上手くいかねえ! ゼノンの野郎、絶対に許さねえからな……!!」
病院での騒動の後、どうにかゼノンを振り切ったエゴスは、人気のない林の中で怨嗟の呟きを漏らしていた。
ルミナス学園を退学になり、ゲームオーバーを告げられ、どうにか復讐をしようとしたのにそれすらも同じ転生者であるはずのゼノンに邪魔をされ……全てが自分の思う通りになっていない。
主人公としてそれなりにハッピーな人生を送るつもりが、今や自分は学園を追放された上に脱走という犯罪をしでかしたお尋ね者だと……思い描いていた展開とは
真逆の状況に陥っているエゴスは、唐突に悲しみを抱くと共に呻く。
「どうしてこうなったんだ……? 俺は、あのクソみたいな日々から脱却して、幸せになるはずだったのに……!」
江越桐夫として生きていた前世では、絵に描いたようなブラック企業に勤めていたせいで魂を摩耗し続けていた。
数少ない楽しみがネット小説を読むこととゲームで、こつこつプレイしていた『ルミナス・ヒストリー』の世界に転生できた時は最高の気分だった。
自分が操っていた主人公のように誰からも愛され、尊敬され、幸せな日々を送る。
クソみたいな上司も死んだ目をしている同僚もいない、最高の人生を送れると……そう信じていた。
「それがどうしてこうなるんだよ……!? 俺は、俺は……主人公だぞ!?」
主人公、ゲームの中でメインとなる人物。
いわばこの世界の中心にして、絶対的な存在。他のゲームキャラとは一線を画す存在のはずだ。
その自分がどうしてモブキャラ以下の扱いを受けている? どうしてこんな惨めな目に遭わなければならない?
自分が送るはずだった幸せな人生は、どこに消えた?
「全部、全部……ユーゴのせいだ。あのクズさえ、余計なことをしなければ……!!」
料理部のイベントで自分の活躍を邪魔したのも、自分が退学になるきっかけを作ったのも、警備隊に逮捕されることになったのも……全て、ユーゴのせいだ。
ユーゴさえいなければ、自分はヒロインに囲まれて楽しい学園生活を送っていた。幸せな人生を送れていたはずだった。
絶対に許さない……この不幸は全て、ユーゴのせいだと考えたエゴスがギリギリと拳を握り締める。
どんな形でもいい。奴に復讐し、必ずや破滅に導いてやると……そう、彼が考えた時だった。
「君はさぁ……何をしてくれてるのかなぁ……!?」
「えっ……!?」
突如響いた声を耳にしたエゴスが驚きに顔を上げれば、そこに黒フードの人物……ロストが立っていた。
彼と初めて対面したエゴスは、突然の事態に驚愕しながらも警戒の構えを取りつつ、声をかける。
「お前、何者だ? いったいどこから……?」
「君は自分が何をしようとしたのかわかっているのか? 既にゲームオーバーになった分際で、彼に手を出そうとするだなんて……!!」
エゴスの問いかけを、ロストは全く聞いていないようだ。
逆に、エゴスは彼が発したゲームオーバーという単語を耳にして、抱いていた驚きの感情を更に強める。
「お前、どうしてそのことを……!? まさかお前も俺と同じ転生者なのか!?」
「ぐだぐだとうるさいんだよ、ゴミが。君は今、最高のドラマを壊しかけたんだぞ?」
ロストの声には、想像を絶する怒りの感情がにじみ出ていた。
話をするごとに強まっていく憤怒を目の当たりにしたエゴスが言葉を失う中、彼は憎悪を剥き出しにしながら言う。
「彼が、マイヒーローが迎えるラストは、劇的なものでなければならないんだ! 強大な敵に力及ばず敗れる悲劇的なバッドエンド! 全ての障害を破壊して迎える大団円のハッピーエンド! それらを超える想像も絶するエンディング!! 彼ならそれを見せてくれる! 彼は、呉井雄吾は、最高の逸材なんだよ! それを、お前は……! お前のようなクズが、身勝手に終わらせていい物語じゃないんだ。お前と彼とでは、人生の価値が違うんだよ……!」
「何だ、お前……何を言ってる? どういう意味……!?」
混乱するエゴスの頭では、ロストの言っていることが全く理解できない。
辛うじて彼が自分と同じようで別の存在であることだけを理解したエゴスへと、ロストが冷たく言い放つ。
「お前が何かを理解する必要なんてない。お前はここで死ぬ。誰にも知られないまま、惨めな最期を迎えるんだ」
「なっ、何っ!?」
ロストが言い終わると共に、エゴスの周囲に幾つもの斧が落ちてきた。
自分のメイン武器であり、現時点で手に入れられる中でも最高峰の武器である両手斧の数々を目にして驚く彼へと、ロストが言う。
「好きなものを使え。全力を出しても敵わない相手に完膚なきまでに叩きのめされる末路こそ、お前のエンディングに相応しい」
「てめぇ……! 舐めるなよ! 俺は、主人公だぞ!?」
自分が徹底的に舐められていることを理解したエゴスが、最適な武器を選択すると共にそれを構える。
流石はゲーム知識を持つ転生者というべきか、最良の武器を選んだ彼はロストに怒りを燃え上がらせているが……逆にロストの方は氷点下の怒りを抱えながら、エゴスのことを見つめていた。
「主人公、主人公とうるさいんだよ。それしか誇るもののない脳無しが」
「なんだとっ!?」
最早、エゴスの叫びはロストに一切響いていなかった。
主人公であることのみを誇りとしている、その立場すら失っていることにまだ気付けていない……いや、そもそもその主人公という立場の意味すら理解していないエゴスのことを嘲笑いながら、ロストが口を開く。
「……本来、私たちはお前たちに手を出すことを禁じられているんだ。転生時にボーナスを与えられたお前たちと比較すれば、戦闘能力も低いしね。だが……何事にも例外はある、そういうことだよ」
ゆっくりと、ロストが右腕を掲げる。
顔の前で両手を広げた彼の腕に、緑色に光る宝石が埋め込まれた腕輪が嵌められていることに気が付いたエゴスの前で、ロストが静かに呟いた。
「変……身……!!」
地の底から噴き上がるような緑と黒の奔流がロストを包む。
想像を絶する魔力の強さにエゴスが愕然とする中、闇の光を開いてロストが彼の前に姿を現した。
「どうだい? マイヒーローを参考にさせてもらったんだ。なかなかいいだろう?」
シンプルな銀色の鎧。兜には、緑色の巨大な複眼が妖しく光を放っている。
両腕をはじめとした様々な箇所に存在する棘を鋭く輝かせながら、その目にエゴスの姿を捉えたロストは、彼へと冷たい声で言い放った。
「江越桐夫、君にペナルティを与えよう。ゲームオーバーを宣告されても身の程を弁えない君は、ここで退場だ」
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