急襲、クロトバリ
「ぬうっ……!?」
ブラスタを纏いながら繰り出したユーゴの一撃がクロトバリの顔面を捉える。
鋭い足先の爪で乗っている屋根の一部を抉りながら、そのまま背後へと吹き飛ばされていく魔鎧獣へと、サクラの追撃が飛んだ。
「飛刃・水龍波!!」
刀身に纏わせた水を圧縮。薄く鋭い刃へと変えながら薙刀を振るい、それを相手へと打ち出す。
横薙ぎからの振り下ろしという二連撃で水の刃を繰り出したサクラは、自身の攻撃が壁に激突したクロトバリへと降り注ぐ様を目にすると共に、それが生み出した衝撃で砂埃が舞う様を確認してから地上へと降り立った。
「ユーゴ、手応えは?」
「いや、ダメだ。あいつ、殴られる瞬間に自分から背後へ飛び退きやがった」
強襲の手応えを確認してきたリュウガへと、拳を握り直しながら答えるユーゴ。
自分の一撃は確かにクロトバリの顔面を捉えたが、同時に相手は自ら背後へ飛び退くことでその衝撃を逃したと、決定打には至らなかったことを伝えると同時にクロトバリの戦闘センスは並ではないということを告げた彼の前で、漆黒の魔鎧獣が上空へと飛び立つ。
「正義は朽ちぬ。正義は負けぬ。正義は壊れぬ。故に、正義なのだ」
「ちっ、やっぱり仕留められてなかったか……!!」
大きく広げられた黒い翼は盾としても使えるようだ。
サクラの攻撃はあれで防いだのだろうなと、そう考えるユーゴたちに対して、クロトバリが上空から言う。
「悪は、屠る。世界に蔓延る悪がどれだけ多かろうとも、我は全ての悪を処断するまで戦い続ける。始まるのだ、真の正義による世界の変革が。我が正義を、世界に示す時が来たのだ」
「なに言ってんだ、お前は? 世界の変革だと? いったい何を考えている?」
「じきに、わかる。その時にこそ、お前たちも真の正義の意味と我が正義の正しさを知ることになるだろう」
意味深な言葉を口にしたクロトバリが、大きく翼を羽ばたかせる。
次の瞬間にはその姿は夜の闇に消えていて、辺りには静寂が戻った。
「……気配が消えた。どうやら逃げたみたいだね」
「リュウガ殿、ライハ、怪我は!?」
「わ、私は平気……リュウガさんが、守ってくれたから……」
クロトバリの撤退を感じ取った一同が安堵すると共に互いの安否を確かめ合う。
誰も怪我はしていないことを確認した一同が更に安堵する中、クロトバリが消えた夜空を見つめながらサクラが口を開いた。
「まさか、こんなにも早くルミナス学園の学生狩りが始まるだなんて……完全に予想外でござる」
「クロトバリ本人が襲ってきたこともそうだけど、私たちの想像以上に事態が悪い方向に向かってるよね。急いで報告して、警戒を強めるべきだよ」
「そうでござるな。ユーゴ殿、リュウガ殿、急いで学園に帰るでござるよ……お二人とも?」
夜の友の会、並びにクロトバリの動きが自分たちの想像を超えて迅速な上に、過激だ。
警備隊や教師たちにこのことを報告し、警戒を強めるべきだと結論付けたサクラがユーゴとリュウガに声をかければ、二人は難しい表情を浮かべながら何かを考えこんでいた。
「ユーゴ殿、 リュウガ殿、どうかしたでござるか?」
「なんか、変だな……上手く言えないけど、違和感がある。クロトバリはどうしてこのタイミングで俺たちを襲ったんだ……?」
「警告と宣戦布告のようなものではござらぬか? 集会を邪魔したルミナス学園の人間は許さないという意思表示にように思えたでござるが……」
「それはわかるんだけど、なんだろうな……なんかもやもやするんだよ。こう、検索ワードが足りないっていうか、脳細胞がイマイチトップに入らないっていうか……」
「???」
言っている意味がわからないとばかりに首をかしげるサクラの横で、ユーゴは唸り続けている。
ライハもまた彼同様に何かを悩んでいる様子のリュウガへと、意を決して声をかけてみた。
「あの……リュウガさんもクロトバリの行動に違和感を覚えてるんですか……?」
「あ、いや……そうじゃなくって……」
ライハに声をかけられたリュウガが気まずそうに視線を逸らす。
彼の珍しい反応にライハが驚く中、リュウガは申し訳なさそうに彼女へと言った。
「……襲われる前、君は僕に話しかけてただろう? だけど僕、感じ取った殺気の出所を探るのに集中してたせいで、ほとんど何も耳に入ってなくって……何か、大事な話でもしてたかい?」
「あ……! い、いえ! 大丈夫です! そう大した話じゃないですし……!!」
気まずそうにそう告白したリュウガへと、両手を振りながら大丈夫だと答えるライハ。
少しだけ安堵した表情の彼を見ながら、もしかしたら先の話を聞かれていなくて本当に安心しているのは自分の方かもしれないと考える彼女の前で、サクラが言う。
「お二人とも、考え事は学園に帰ってからにするでござるよ。今はこのことを報告するのが優先でござる」
「……だな。女の子が二人もいるんだ、早く安全な場所に移動しよう」
窮地は脱したが、油断するわけにもいかない。
クロトバリが戻ってこないとも限らないし、今は急いでルミナス学園に戻った方が良さそうだ。
ユーゴたちはこれ以上遅くなる前にと急ぎ、学園へと続く道を歩いていく。
その最中、リュウガのライハを見る目に僅かな鋭さが宿っていたことに気付く者は、誰もいなかった。
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