風呂場にて、女子三人

「むむむ……! で、デカい……!!」


 メルトが住んでいる女子寮。その大浴場には今、彼女を含めて三人だけの姿しかない。

 全裸になった恋敵の胸を凝視するメルトへと、どこか余裕めいた笑みを浮かべたセツナが言う。


「あら、どうかしたの? もしかして、サイズを詐称してるんじゃないかって期待してた? だったら残念だったわね」


「ぐぅぅ……っ! 別に~! 残念でもなんでもないし! さっきも言ったけど、私の方がおっぱいおっきいもん!!」


「むっ……!?」


 挑発じみたセツナの言葉に負けじと、自身の胸を彼女の胸に押し当てて対抗するメルト。

 所謂乳合わせ状態になった二人はお互いのの大きさや重さ、質感などを互いに確認し合うと共に険しい表情を浮かべる。


「……どうやら、あなたもなかなかの強者のようね。ユーゴとの距離の近さも含めて、油断できない相手だわ」


「そっちこそ、みたいだね。だけど、私だってそう簡単に負けたりなんかしないから!」


 至近距離から睨み合い、自分たちの誇り(胸)をぶつからせるメルトとセツナ。

 互角の勝負は決着がつかず、双方の顔に焦りの色と汗が浮かんできたところで、第三者がその争いを止めに入る。


「はい、そこまでにしとけって。風呂場でしかできないとはいえ、不毛な争いをしてんじゃないよ」


「うっ……!?」


「っっ……!!」


 ぶつかり合うメルトとセツナを強引に引き剥がしたアンヘルが、呆れた表情を浮かべながら二人にツッコミを入れる。

 それと同時に自身の胸を堂々と見せつけた彼女の行動には、メルトもセツナも毒気を抜かれてしまったようだ。


 ……というより、明らかに自分たちよりもを持っている彼女にそれを見せつけられて、戦意が萎えたと言った方が正しいだろう。


「乳と尻のデカさで張り合うってんなら相手になってやるぞ? まあ、どっちもアタシが勝つだろうけどな! はっはっはっはっは!!」


「あ、アンのレベルは反則でしょ!? じゃなくて、だもん!!」


「……自分の武器を堂々と振りかざす姿勢、嫌いじゃないわ」


 セクシーポーズを取りながら、ウインクと同時に飛んできたアンヘルからの挑発の言葉に各々の反応を見せるメルトとセツナ。

 若干おっさんくさい印象を受けるくらい豪快に笑ったアンヘルは、そんな彼女たちへとこう続ける。


「胸と尻のデカさを競ったって意味ないって。ユーゴがそこを基準に恋人を選ぶってんなら、まず最初にアタシが手を出されてるわけなんだからな。アタシが手を出されてないってことは、まあそういうこった。馬鹿みたいな争いはやめて、親睦を深めようや」


「……まあ、そうね。そう言われたら確かにこれも無駄な争いね」


「ここはアンの顔……いや、おっぱいに免じて素直に引き下がることにするよ……」


 ふざけているように見えて割と真面目というか、まともなことを言ってきたアンヘルの言葉に納得したメルトとセツナは、素直に彼女に従うことにした。

 そのまま、揃って湯船に浸かった三人は、ほかほかと湯気が立ち上る中、話をし始める。


「ん~っ、やっぱ風呂っていいねぇ! 心の洗濯とはよく言ったもんだよ!」


「まあ、それには同意するけどさ……どうして急にお風呂に入ろうだなんて言ってきたわけ?」


「そりゃあ、これから同じパーティの仲間になるんだし、親睦を深めようと思ったからさ。女同士裸の付き合いをすれば、距離もぐっと縮まるってもんだろう?」


 風呂に入ろうと提案したのはアンヘルだ。一応、ライハとクレアも誘ったが、二人には断られてしまった。

 そうして残ったユーゴ組とでもいうべきメンバーの三人で入浴することになったのだが、メルトとセツナはそんなアンヘルの言葉に納得していない様子である。


 自分へと向けられる猜疑の眼差しに苦笑を浮かべながら、アンヘルは二人へと言う。


「この時間ならアタシらの他に誰もいないだろうし、手元に魔道具もないから熱くなったとしても戦いになることもないだろう? お互いに知りたいこととかもあるだろうしさ……ギスギスしないためにも、ここらで色々ぶっちゃけちまった方がいいんじゃないかい?」


「……なるほどね。理解したわ」


 要するに、文字通り裸のまま思う存分話し合えということだ。

 秘匿性もあるし大きな喧嘩にもつながりにくい状況を作るのに、風呂というシチュエーションが最適だったということなのだろう。


 アンヘルの意見を聞いて納得したセツナが頷く中、そんな彼女へとメルトが質問を投げかける。


「あのさ……あなたは本当にユーゴが好きなの? 自分の目的のために利用できるから、今のうちに囲い込んでおこうって考えの方が強いんじゃない?」


「……そういうあなたはどうなの、メルト・エペ? あなたは、ユーゴのことが好き?」


 ド直球の質問に対して、自分は答えずに質問を質問で返すセツナ。

 それに対してメルトは顔を赤らめながら、されど逃げずに堂々と答える。


「私は……ユーゴが好きだよ。勢いでキスしちゃったりしたところもあるけど、傍でユーゴのことを見続けて、今では胸を張って好きだって言える。強いからとかじゃなく、誰かのために一生懸命になって、傷付いた人に優しく寄り添ってあげられるユーゴが好き。だから私は、そんなユーゴに寄り添える強くて優しい人間になりたいって思ってる」


「そう……いいわね、本当に真っ直ぐで。嫉妬しちゃうわ」


 恥ずかしそうにしながらも、はっきりとそう言い切ったメルトへと賞賛の言葉を送るセツナ。

 その言葉は皮肉でもなんでもなく、彼女の本心から出ているものだ。


「私はあなたみたいに彼を好きだと言い切ることはできない。多分に打算を含んでいる部分もある。だから、そんな私が何を言ってもあなたを怒らせてしまう気しかしないわ」


「怒ったりなんかしないよ。ライバルが何を考えて、結婚しようとまで言ったのか……あなたが何を考えてるか、私は知りたい。だから、話してみて。全部聞くから」


 少しだけ怯えたようにそう言うセツナへと、真っ直ぐに視線を向けながら話すことを促すメルト。

 真剣に自分を見据える彼女の眼差しに小さく息を飲んだセツナは、自分の中にある感情を静かに言葉にしていく。


「好意と言えば好意だと思う。でも、今の私がユーゴに抱いている感情をもっと正確に表すなら……だと思うわ」

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