Eの脅威/バグズ・パニック!
ユーゴ一行、初等部の社会科見学に同行する!
「気に食わんっ! まったくもって気に食わ~んっ!!」
ここはルミナス学園からやや離れた場所にある昆虫館。その入り口付近で、声を荒げる男が一人いた。
何かに憤慨しているその人物ことマルコスの様子に苦笑を浮かべながら、ユーゴは彼を宥めていく。
「落ち着けって、マルコス。別にそんな怒ることじゃねえだろ?」
「貴様ぁ……! 原因の片割れがよくもまあぬけぬけと……!!」
「落ち着きなよ、マルコス~。気持ちはわかるけど、男の嫉妬は見苦しいよ?」
「誰が嫉妬などしているものか! 私はな! 私という友であり好敵手がいながら、出会って間もない他国の生徒と相部屋になった挙句、二人でチームを組んで相棒などと呼ぶこの馬鹿の薄情さに憤慨しているだけだ!」
「……それを嫉妬っていうんだよ。ったく、あんたって奴はねぇ……」
どうやらマルコスはユーゴと急速に仲良くなったリュウガに対して、嫉妬の感情を抱いているようだ。
実に悔しそうな表情を浮かべながらユーゴに当たる彼の態度には、メルトとアンヘルも呆れてしまっており、二人して大きなため息を吐いている。
苦笑しているユーゴはというと、そんなマルコスをどうにか落ち着かせるために話を続けていた。
「リュウガはいい奴だし、お前もすぐに友達になれるって! それに、友達ってのは増えれば増えるだけ嬉しいものなんだし、そんなに気にするもんじゃねえだろ?」
「そうそう。恋人ならともかく、相部屋してるだけの友達でしょ? そんなカリカリしてたら、器の小さい男だって自分から言ってるみたいなものだし、自分がユーゴの一番の友達だって思うなら、ド~ンと構えておくべきだって!」
「ぬぬぬぬぬ、ぐぐぐぐぅ……!!」
メルトの意見を尤もだと思ったのか、マルコスが言いたいことを我慢するかのように口を閉ざす。
しかし、やはり込み上げてくる言葉があるのか、それを唸りとして漏らす彼の様子に呆れたアンヘルは少しうんざりとしながらマルコスへと声をかけた。
「気持ちはわからなくもないけど、少なくとも今はその感情を抑えときなよ? 初等部の子たちに茹でた蟹みたいに赤くなったあんたの姿を見せるくらいだったら、今からでも帰ってもらった方がマシだね」
「わかっている! 子供たちに醜態を見せるほど、私も馬鹿ではない!」
「……いまいち信用できないんだよなぁ。本当に大丈夫かなぁ……?」
……さて、この辺りでどうしてユーゴたちが昆虫館などという場所にやって来たのか、その理由を説明しておこう。
これはウノ直々の頼みであり、彼らは今日、初等部の子供たちの社会科見学に付き合う形でここを訪れているのだ。
ただ、引率のために一緒にやってきたというわけではない。彼らの役目はルミナス学園ご一行の警備が主軸だ。
ユーゴたち以外にも結構な数の生徒たちが駆り出されており、なんだか物々しい雰囲気が漂っている。
その雰囲気を感じ取っているメルトが頭の後ろで手を重ねると、半ば呆れた様子でユーゴたちへと言った。
「この社会科見学さ、ヤマトの戦巫女さんたちも来てるんでしょ? だからこんなに生徒たちを駆り出して、警備に充ててるわけだ。それに関して文句はないけどさ……そこまでするくらいだったら、そもそも同行させない方がいいんじゃない?」
「どうやらこれはヤマトの学園側が要望したことらしい。本来、この時期の初等部の社会科見学は、歴史を見る博物館に行くのが通例だったが……今回はあちらの強い要望でこの昆虫館に変わったというわけだ」
「博物館が昆虫館にねぇ……? どういう意図があるのか全くわからんけど、どっちも退屈な上に女の子って虫が苦手なんじゃないか? せめて動物園とかなら話はわかるけど、昆虫館っていうのは……ねぇ?」
急な見学先の変更についての疑問を口にするアンヘルであったが、ユーゴは何となくヤマトが行き先を変えた理由について、見当が付いていた。
多分これは、目が見えないユイへの配慮なのだろう。
リュウガが言っていたが、彼女は視力の代わりに魂で物を視る。そこから推察するに、ユイは物よりも生物の方が詳細にその情報を受け取ることができるのではないだろうか?
博物館で展示されているのは物だけだろうし、その長い説明文を目が見えないユイが素早く読むことができるかもわからない。仮にできたとしても、結構負担がかかるだろう。
そういった事態を避けるために、展示されているのが生物である昆虫館を選んだのだろうが……アンヘルの言う通り、ユイや戦巫女たちの中に虫を好き好んで鑑賞する奇特な趣味を持った人間がいるかどうかは、彼にはわからなかった。
「まあ、俺たちは俺たちの仕事に集中しようぜ! 上手くいけば休憩中にフィーと一緒に中を見て回れるかもしれねえし、マルコスとアンにリュウガたちを紹介するいい機会だ!」
「ふん……! ちなみにそのリュウガはどこにいるんだ? 相部屋なんだし、一緒に来たんじゃあないのか?」
「妹のユイちゃんを迎えに行くからって別行動になったんだ。俺はみんなに話を通しておきたかったし……って、話をしてたらちょうど来たみたいだぜ。お~い、リュウガ~!」
マルコスの言葉を受けて周囲をぐるりと見回したユーゴが、こちらへと向かって歩いてくるリュウガの姿を見つけて手を振る。
相棒に対して同じく手を振って応えた彼は、妹のユイとフィーを連れ添って、ユーゴたちの下へとやってきた。
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