side:シアン&エゴス(敵の能力と邪悪さに直面した男たちの話)

「待て~っ! このクソ女~っ!!」


「お前だけは絶対に許さねえぞっ!」


「あら~っ! 王子様たちってば、そこまで熱心に私たちを追ってきてくれるだなんて、すっごく嬉しいわ~! 情熱的なお誘いは嬉しいけど、暴力的なのは止めてほしいわね~!」


 一方その頃、ナルルを追って飛び出したシアンたちは、トレントの間近まで逃亡した彼女に追いついていた。

 普段の主人公然としたムーブをかなぐり捨て、怒りのままにナルルに詰め寄るシアンとエゴスであったが、彼女はトレントという切り札があるお陰かまだまだ余裕たっぷりだ。


 料理部員たちがこれからあの巨大な魔物との戦いが始まる予感に緊張しながら戦闘態勢を整える中、ナルルは再び自身の体を液状化するとトレントの内部へと入り込んでみせる。


「これがこの魔鎧獣の完全体よ! 大量の魔力を含んだスライムたちを吸収しまくって誕生したトレントに私の頭脳が加わった究極の存在! これであなたたちを倒して、私の理想の世界を取り戻すの!!」


「何が究極の存在だ! お前の残念な頭が加わった程度の魔鎧獣なんて、簡単にぶっ倒せるに決まってるだろうが!!」


「俺たちを弄んだ罪! しっかりと裁いてやる!!」


 スライムの力を活用し、自らをトレントに吸収させることで意のままに魔鎧獣を操ることを可能にしたナルルへと怒りのままに叫ぶシアンとエゴス。

 自身の武器である槍と大斧を構えた二人は、そのまま太い枝を鞭のように振るって攻撃を仕掛けてきたナルルに反撃を行う。


「せやあっ! たあっ!!」


「ふんっっ!!」


 シアンが鋭い突きを連発して迫りくる枝を振り払う。エゴスが巨大な斧を振るって枝を切り落とす。

 性格は自己中心的であるものの、転生特典として与えられた高いステータスと武器適正によってナルルを圧倒する二人は、得意気に彼女へと言う。


「どうした? 究極の魔鎧獣の実力ってのはこんなもんか?」


「よく切れる木だ。俺の斧でぶった切って、薪にしてやるよ!」


「流石ねぇ! やっぱり王子様は強くなくっちゃ! ……でも、あんまり調子に乗っちゃだ・め・よ!」


 トレントの木の幹に浮かんでいる巨大な顔を歪ませ、笑顔のような表情を浮かべるナルル。

 余裕たっぷりな彼女の態度に違和感を抱くシアンとエゴスであったが、次の瞬間にその体をすさまじい衝撃が襲った。


「ぐああっ!?」


「ぐはっ!? なっ、なにぃ!?」


 ほんの少し前にエゴスが斧で切り落とした木の枝。途中からすっぱりと切り落とされたはずのそれが……再生している。

 まさかの事態に油断していた二人は丸太でぶん殴られたようなダメージを負い、地面に叩きつけられる中、ナルルがゲラゲラと笑いながら彼らへと言う。


「ど~お? 自然由来の強い生命力を持つトレントにスライムを大量吸収させて、あふれんばかりの魔力を注ぐと、こんなこともできるのよ!?」


「ちっ……! ちまちま攻撃しててもすぐに再生されちまうってことか」


「だが、問題ない。弱点はまだまだあるんだからな」


 いくら枝を切り落とそうとも、あるいは軽傷程度のダメージをナルルに与えようとも、それは即座に充填された魔力によって回復されてしまう。

 ちまちまとダメージを与えていても意味がないことを悟ったシアンとエゴスは、また別の弱点を突こうとしたのだが……ナルルは彼らを超える邪悪な悪知恵を働かせ、その対策を整えていた。


「うふふふふふ……! わかるわよぉ! あなたたち、火属性の攻撃を繰り出そうとしてるでしょ? 確かに体全体を燃やされたら私の再生能力も意味を成さないわ。でもね……これを見て、私を燃やそうと思える?」


「あっ……! あああっ!?」


 ガサッと音を立て、トレントの体の上部を覆う葉を退かすナルル。

 ここまで彼女とシアンとエゴスとの戦いを見守り続けていたプレシアが、そこにあったものを目にして驚きに悲鳴を上げる。

 彼らを追ってようやくこの場に辿り着いたフィーもまたその光景を目の当たりにして言葉を失いながらも、喉の奥から絞り出すようにして声を漏らした。


「し、シロイ……! そんなっ!?」


 ナルルが見せつけたもの。それは、村人たちの中で唯一行方不明になっているシロイだった。

 ぐったりと気を失った状態でトレントの体に縛り付けられている彼の姿にフィーやプレシアがショックを受ける中、ナルルは邪悪な笑い声と共に叫んだ。


「あはははははっ! ど~お? これでも私のことを燃やせる? 別にいいわよ、やれるのならやっても! でも、そんなことをしたらこのガキも私と一緒に燃え尽きちゃうわよ~!」


「ひ、卑怯者めっ! その子を解放しろっ!!」


「あっはっは! 嫌に決まってんじゃな~い! ほらほら、どうするの? どうするのよ~!?」


 悪知恵を超えた邪悪な思考を働かせ、万が一のために保険をかけておいたナルルが煽るような口調で言う。

 シロイが人質に取られている以上、彼女の弱点である炎属性の攻撃を繰り出すことはできない。そんなことをすれば彼も一緒に焼き尽くされてしまうからだ。


 ダメージを積み重ねていく戦法も、弱点を突いて一気に倒し切る戦法も使えない。

 プレシアやフィー、ハオたちがナルルの邪悪さに怒りを燃え上がらせながらも手出しができないことに歯噛みする中……顔を見合わせたシアンとエゴスは、特に迷うことなく信じられないことを口にした。


「……残念だったな、クソ女。俺たちはそんな脅しには屈しない!」


「その子には悪いが……お前を燃やさせてもらうぜ!!」


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