絆の力で、未来を掴む!

「『『飛刃・回転斧』!!』」


「ぐえおっ!?」


「ぎゃっ!?」


 ブーメランが如く飛来した片手斧が数名の魔剣使いたちを吹き飛ばす。

 自分の手元に戻ってきた得物を強く握り締めた銀髪の男子は、文字通り切り開いた道を悠々と歩みながらユーゴの下にやって来ると、彼へと言った。


「ようやくあんたに借りを返せそうだな、ユーゴ。俺も混ぜてもらうぜ!」


「ヘックス! お前も来てくれたのか!」


「学園に警備隊の連中が来たかと思ったら、大慌てで飛び出していくあんたたちの姿を見たって話を聞いてな。んで、空を飛ぶデカい蝙蝠を目印に来てみたら、まあこんな感じだったってわけだ。怪我も治ったし、休養も十分! これまでの借りを返すくらいの働きはさせてもらうつもりだから、期待してくれ」


 マルコスに続いて駆け付けてくれたヘックスの肩を叩き、感謝を伝えるユーゴ。

 心強い援軍はそれだけに留まらず、また別方向から聞き覚えのある女性の声が響いてくる。


「皆さん、慌てちゃダメです! ルミナス学園の生徒さんたちが戦ってくれてますし、警備隊もじきに到着します! こういう時こそ手を取り合って、お互いに助け合いましょう!」


 ウエイトレス姿のその呼びかけに、パニック状態になっていた人々がわずかに落ち着きを取り戻す。

 彼女の傍に控える屈強な男たちは人々を守るようにして魔剣使いたちの前に立ちはだかっており、その姿もまた見る者に安心感を与えているようだ。


「ユーゴ、久しぶり! この人たちの護衛と避難誘導は私たちに任せて!」


「エーン! それにサンガとお店のマスターさんまで!」


 人々への呼びかけを行った後、振り向いたエーンがVサインを見せながらユーゴへと叫びかける。

 一般人ながらも自分にできる手助けをしに来てくれた彼女と、おっかなびっくりしながらも魔剣使いたちを牽制するサンガと、なんとまあフライパンを武器に大立ち回りを繰り広げている(!?)マスターの姿に笑みを浮かべたユーゴの横を、一人の少女が擦り抜けていった。


「大丈夫ですか? すぐに怪我を治してあげますからね……!」


 そう、ユーゴが助けた子供の頭を撫でながら語り掛けた金髪の少女……クレアが回復魔法でその子を治療する。

 優しく微笑んだ彼女は立ち上がると共にユーゴへと向き直り、彼へと小さく頭を下げてから口を開いた。


「遅れてしまい申し訳ありません、ユーゴ様。ゼノン様もお連れしようと思ったのですが、残念ながら部屋に引きこもったままで……」


「いや、助かるよクレア。助けに来てくれてありがとう」


「お礼を言われるようなことはしておりません。私たちは皆、ユーゴ様に助けられた者たちです。むしろ、あなたに恩を返す機会が訪れたことを喜んでいるのですから」


 僅かに微笑みながらのクレアの言葉に、ヘックスが大きく頷く。

 ここまでのやり取りを見ていたマルコスもわざとらしく鼻を鳴らすと、ユーゴへと言った。


「どうやら私が街を離れている間もお節介を焼き続けていたらしいな。実にお前らしいことだ、我が友よ」


「あれ? てかマルコスじゃん? なんでお前、ここに居んの?」


「今さら気が付いたのか!? いいか、よく聞け! 私は友であり好敵手であるユーゴ・クレイを救うためにこの危機に駆け付けたんだ! お前たちの中で誰よりも早くにな!!」


「ふふふ……! では、マルコス様も私たちと同じですね。お友達として、ユーゴ様をお助けしに来た、と」


 クスクスと笑うクレアの言葉に調子を狂わされたマルコスがわずかに唸ると共に押し黙る。

 その間にメルトたちもユーゴの周囲へと駆け寄っており、一同は迫る暴徒たちと空中を飛ぶイザークと対峙しながらお互いに頷き合ってみせた。


「ユーゴ、ここは私たちに任せて、あなたはネイドを追って! これだけの援軍が来たんだもん、もう大丈夫だよ!」


「急げばまだ間に合うはずだよ! 魔剣の製造方法を知ってるあの人を逃がさないためにも、早く!」


「メルト、フィー……!」


 暴徒たちの鎮圧、および避難誘導のために必要な人員は確保できた。

 この状況ならばネイドを追うためにユーゴが離脱しても問題ないという二人の言葉に続いて、マルコスが言う。


「行け、ユーゴ。あの魔鎧獣の相手は私が引き受けた。案ずるな、友よ。栄誉あるボルグ家の誇りにかけて、この私が人々を守り抜いてみせよう!」


「何一人で盛り上がってんだ! 戦うのはお前だけじゃなくって、俺たち全員だろうが!」


「まあまあ、落ち着いてください。人々のために戦うという気持ちは、皆同じなのですから」


 絶体絶命のピンチから一転、どこか余裕のあるムードすら漂うようになったメンバーがそんなやり取りを繰り広げる。

 頼もしい仲間たちの姿に頷くユーゴへと、最後にアンヘルが声をかけた。


「ユーゴ……頼む、ネイドを止めてくれ。あいつは、技師としての力を間違った方向に使っちまった。あいつの暴走を止めなきゃ、沢山の人たちが苦しむと同時に技師たちの誇りも傷付けられることになる。それだけは、絶対――!!」


「ああ、わかってる。止めるてやるよ、アン。俺と、お前と、みんなの想いが込められたこのブラスタで、ネイドの奴を止めてみせる」


 変身を解除したユーゴが、真っ直ぐにアンヘルを見つめながら言う。

 固い決意と確かな信頼を感じさせる彼の眼差しにアンヘルが頷く中、遠くから大地が鳴る音が響いてきた。


「なっ、なんだ、この音は!? 新手の魔鎧獣か!?」


 遠くから、何かが近付いていることを悟った面々が警戒を強め、そちらの方向へと視線を向ければ、真っ黒な何かがこちらへと猛然とした勢いで突き進んでくるではないか。

 その姿を目にしたマルコスが、慌てた様子でユーゴへと叫ぶ。


「ユーゴ、下がれ! どんな相手が来ようとも、このギガシザースで跳ね返してやろう!」


「いや、大丈夫だ。心配ねえよ」


 突然の乱入者に警戒心をMAXにするマルコスであったが、ユーゴはそんな彼を笑って制止すると共にこちらへと向かってくる何者かに手を挙げて応えてみせた。

 その黒い何かも力強く大地を蹴っての跳躍を見せ、地響きを鳴らしながら彼の傍へと着地してみせる。


「……お前も来てくれたんだな、スカル。どいつもこいつも、俺にはもったいない最高のダチばかりだ」


「バフッ!!」


 魔鎧獣でありながら理性を持つスケルトンホース……もとい、黒馬のスカルがユーゴに応えるように鼻息を吹く。

 かつて自分の敵討ちを手伝ってくれた彼への恩を返すため、友であるユーゴの危機を救うために駆け付けたスカルは、首を振って背中に乗れと無言で伝えてきた。

 その指示に従ってスカルに跨ったユーゴは、仲間たちの顔を見回しながら口を開く。


「みんな、ここは任せたぜ! それと、無茶はすんなよ!」


「その言葉、そっくりそのままユーゴに返してあげる! ユーゴってば、すぐに無茶するんだから……!」


「気を付けてね、兄さん。僕たちも警備隊が駆け付けてくれたら、応援に向かうから!」


「おう! 任せろ! ……ああ、そうだ。マルコス! 大事なことを言うから、これを肝に銘じておいてくれよ!」


「ん? んん? な、なんだ? その、大事なことというのは?」


 唐突に名指しで呼ばれたマルコスが若干状況に追いつけない状態に陥りながらもユーゴへと応える。

 てっきり、強敵と戦おうとしている自分へと助言でもしてくれるのかと思った彼であったが……ユーゴが口にしたのは、全く意味不明のアドバイスであった。


! マジで、命取りになるぞ!!」


「は、はぁ? おい、それはどういう意味だ!? まるで意味がわからんぞ!?」


「そのままの意味だよ! と戦うんだから、そこだけは絶対に気を付けるんだぞ! わかったな!?」


「あっ、おいっ! 本当に意味がわからないんだが!? 私にもわかるように説明しろ! ユーゴっ! 戻ってこ~い!!」


 特撮オタクならば即座に理解できるアドバイスではあるが、そんなものと無縁なマルコスがその言葉の意味を理解できるはずもない。

 完全に意味不明なアドバイスを残して走り去ったユーゴの背に叫びかける彼の姿はとても滑稽で、そのお陰でメルトたちは残っていた緊張感を解すことができたようだ。


「何なんだ、あいつは!? 私を戸惑わせるだけ戸惑わせて去っていったぞ!?」


「本当に読めないよね、ユーゴって。そういうところも面白くって好きなんだけどさ」


「あんまり気を抜き過ぎるなって言いたかったのかもな。それにしたって意味がわからなかったけどよ」


 ネイドを追ってユーゴが走り去った後、口々に感想を言い合う仲間たちが改めて自分たちの敵へと向き直る。

 それぞれの魔道具を構え、戦いに挑む寸前……一瞬だけユーゴの背中を見つめたアンヘルが、笑みを浮かべながら呟いた。


「アタシたちの想い、確かに託したぞ……世界を救ってこい、ヒーロー!」

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