露見する本性、やって来た珍客

「どういう意味だ? まだ何かあるのか?」


 意味深なヘックスの言葉を聞いたユーゴがそう問いかければ、彼は重々しく頷いてそれに応えた。

 そして、少し前のとある出来事について話し始める。


「ユーゴ、前に俺があんたに助けられた時のことは覚えてるか? ほら、誰かに闇討ちされて道端に転がされてた、あれだ」


「ああ、あれか。もちろん覚えてるぜ……って、おい、まさか!?」


「そのまさかさ。俺を襲ったのもイザークの野郎である可能性が高いんだ」


 こうして自分たちが交流することになった大きな要因である、ヘックスの闇討ち事件。

 ユーゴとの決闘後の彼を襲い、素材を奪った上で見つかりにくい場所に放置したというあくどいあの事件の犯人がイザークであるという彼の言葉に、ユーゴだけでなくこの場に集まった全員が驚きを露わにする。


「どういう意味なんだ? 何か証拠があるのか?」


「そういうわけじゃない。だが、似たような事件が最近多発してるんだ。その被害者は全員、イザークの奴から決闘を持ち掛けられても拒んだ連中で、野郎も脅す材料がなくて決闘に引っ張り出せなかった奴らばかり。これでイザークを疑わないわけにはいかないだろ?」


「……限りなく黒に近いグレーだね、こりゃあ」


「でも、そんなに素材を集めて、どうするつもりなのかな? もう十分過ぎるくらいのものが集まってるでしょ?」


 強引に標的を決闘の場に引き摺り出すだけでなく、闇討ちまでして素材を集めるイザークの行動には、様々な意味でやり過ぎだという印象を覚える。

 そうやって集めた素材をどうするつもりなのかというメルトの疑問に対して、ヘックスとユーゴがそれぞれの意見を述べた。


「聞いたところによると、工業科のネイドに貢いでるらしいぜ。イザークの野郎、性格が悪い者同士気が合うのかネイドのことは懇意にしてるみたいだ」


「……もしかしたら、イザークは他の生徒たちが強くなるのを妨害するためにそんなことをしてるのかもな。さっきフィーも言ってたけど、素材が無ければ魔道具を強化したり、新しく作ることはできない。そうなるとイザークと他の奴らとの差はどんどん広がっていく一方だ」


「それはあるかもしれねえな。今、工業科の連中も疲れがピークになってダウンしまくってるだろ? その中でもネイドの野郎はぴんぴんしてるし、腕もいいってことで、あいつの評価と需要が高まってるって話も聞いた。そして、そのネイドはイザークから貢がれた素材を大量に所持してて、魔道具も作りたい放題だ」


「素材を持ってない生徒たちはお金を出して欲しい魔道具を買うしかない。その価格も、今はほぼ唯一の生産者であるネイドが自由に設定できる。素材をイザークが、お金をネイドが搾り取る仕組みだって考えたら……」


「えげつないね。なんか、そこまでする? って思っちゃうな」


 怒るでもなく、引くというメルトの反応が全てを物語っている。

 自分を強くするために必死になっているのではなく、他人の足を引っ張ることに喜びを見出しているとしか思えないイザークとネイドの行動にドン引きするメルトへと、ユーゴが言う。


「なんにせよ、注意しておいた方がいい。メルトもアンもフィーも、イザークには気を付けてくれ。俺に決闘を申し込むためにみんなに手を出そうとするかもしれないし、そうじゃなくてもこういう状況なんだ。警戒はいくらしておいても無駄には――ん?」


「……どうしたの、ユーゴ?」


 言葉の途中で自分たちではなく、草むらの向こうへと視線を向けて押し黙ったユーゴの様子に、メルトが首を傾げながら彼へと声をかける。

 そこで彼女もこちらへと近付いてくる何者かの足音が響いていることに気が付き、ユーゴと同じ方向へと視線を向けた。


 もしかしたら、話題の人物であるイザークがまたしてもユーゴに決闘を申し込みに来たのでは……と警戒する一同であったが、ややあって姿を現した人物と対面した彼らは、ユーゴを除いて驚きの反応を見せた。


「……お久しぶりです、ユーゴ様」


「あ、あなたは……!?」


 ウェーブがかった金色の髪。優れたプロポーションとエルフを思わせる整った顔立ち。

 清楚な美少女という表現がぴったりの彼女は、姿を現すなりユーゴへと物憂げな表情を浮かべながら恭しく頭を下げ、挨拶をした。


 一応、彼女とは初対面であるユーゴであったが……その容姿と仲間たちの反応から、彼女が誰であるかを何となく感じ取ると共にこう言葉をかける。


「お前……クレア、か?」


「……覚えてくださっていたのですね。記憶喪失になったと聞いていましたが、思っていたよりもお加減が良さそうで安心いたしました」


 皮肉でも何でもなく、本当にユーゴを心配していた雰囲気の金髪の美少女……クレア・ルージュが、口元に頬笑みを浮かべながら言う。

 そうした後で彼女はその場に正座すると、驚きと戸惑いを混在させた表情で自分を見つめるユーゴに対して、目に涙を浮かべながら口を開いた。


「……今日、私は……貴方様にお願いがあってこの場に参りました。恥知らずだと罵られることも当たり前だと思います。しかし、もう……私たちには、ユーゴ様しか頼れる方はいないのです……このクレアにできることならばどんなことでもさせていただきます。ですから、どうか――」


 そう言いながら、クレアが額を地面に擦り付ける。

 貴族であり、名家の令嬢である彼女がその誇りを投げ打つかのように土下座したことにユーゴたちが驚く中、クレアは顔を伏せながら必死の懇願を口にした。


「――どうか……ゼノン様を、お助けください」


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