炎の決闘!ユーゴVSイザーク!!

新機能と技師の役目

「ふぃ~……こんなもんか? 思ったよりヘヴィーだな、これ」


「……おいおい、マジかよ。試作段階の機能だぞ? それをここまで使いこなすなんて、化物か?」


 誰もいない工房、その試用スペースに人の影が二つ。

 その正体はブラスタを解除して深いため息を吐くユーゴと、そんな彼の姿を見つめながら驚きが七割、歓喜が三割の表情を浮かべるアンヘルの二人だ。


「いいデータは取れたか? 新機能の実用化に役立ちそうか?」


「ああ、バッチリだ! 想像以上の収穫だったよ!」


 珍しく疲労を感じさせる足取りを見せながら試用スペースから出てきたユーゴがアンヘルへとそう問いかければ、彼女は興奮を露わにしながらそう答えてみせた。

 今までで一番はしゃいでいる彼女の様子に笑みを浮かべるユーゴであったが、そこで立ち眩みに襲われて前のめりに倒れかけてしまう。


「うおっ、っと……」


「ゆ、ユーゴっ!? 大丈夫かい!?」


「悪い、でもそこまで心配されるような状態じゃねえよ」


「無理すんな。暫く掴まってろって!」


 前のめりに倒れかけたユーゴを正面から抱き締めて受け止めたアンヘルが自分から離れようとする彼をホールドしながら言う。

 単純に抱き締められていることだけでも恥ずかしいのだが、つなぎ服に覆われている彼女のたわわな胸が当たっていることに気まずさを感じているユーゴはできたら放してほしかったのだが、アンヘルにはそのつもりはなさそうだ。


「……すまん。お前に無茶をさせ過ぎた。まだまだあの機能には改良が必要だ」


「まあ、かもな。でもいざって時の切り札としては十分使えるんじゃねえの?」


「それでも危険過ぎる。正直、発動して十秒もてばいいと思ってたくらいだ。お前が想像を超えた適応性を見せてくれたお陰で長い時間、データ収集に付き合わせちまったが……その結果こうなってるってことは、まだまだ実用には程遠いってことだよ」


 ぽん、ぽん……と子供をあやすようにアンヘルがユーゴの背中を優しく叩く。

 抱き締められながらそういうことをされると気恥ずかしさが加速するので止めてほしいとは思うユーゴであったが、先の興奮を後悔にひっくり返した彼女の表情を見て、何も言えなくなってしまった。


「ユーゴ……アタシは技師として、お前の命を預かってる身だ。ブラスタを強くすることばかりを考えて、お前にかかる負担を無視するだなんてのはあっちゃならないことなんだよ。その意識が、お前の活躍を目にして頭から吹き飛んだ。お前がこうなっているのはアタシの責任だ。本当にすまない」


「気にすんなって。俺も調子に乗り過ぎた。本当にすげえよ、この新機能。完成したらとんでもなくパワーアップすること間違いなしだぜ」


「ああ、そうだな。だけどまだまだ道のりは遠いよ……さて、そろそろお詫びのハグも終わりにしようか。アタシの乳の感触は堪能できたかい?」


「別に詫びなんて必要ねえよ。ハグされても緊張し過ぎて感触なんてわかんなかったし」


 暫く体を預けていたお陰で、体力も十分に回復できた。

 自分を抱き締めるアンヘルの腕が緩んだことを感じたユーゴは彼女に寄りかかった状態から身を離すと、首と肩を回して軽くストレッチをする。


 そうした後でまだ完全に疲労が抜けたわけではないが別に体を動かすぶんには支障はないと目線でアンヘルに伝えれば、彼女も微笑んだ後で先の演習で得たデータを解析しながら話をし始めた。


「……性能の上昇率は想定の約二百パーセント、他の機能も問題なく機能してる。問題はやはりタイムリミット……お前の体にかかる負担だな」


「う~ん……そこは俺が訓練するしかねえか。負担とか問題とかも、鍛えてますから! の一言でどうにかできるくらいにさ」


「馬鹿言え、そういう問題じゃあないんだよ。さっきも言っただろ? アタシは技師としてお前の命を預かってるんだ、って……多少は仕方がないかもしれないが、お前の体に負担をかけることを前提とした機能を取り付けること自体が問題外なんだ。しかし、これをどう調整するかね……?」


 得たデータとにらめっこをしながら、新機能の調整について考え始めるアンヘル。

 そんな彼女の横顔と自分には理解できないデータを交互に見つめたユーゴは、暫し黙った後にこんな質問を投げかける。


「なあ、現時点でこの機能を使うとしたら、最大何分まで使用可能なんだ?」


「あ? なんでそんなことを聞くんだよ?」


「別に、ちょっと興味があるだけだって。俺の体に負担なくこの機能を使うとしたらどのくらいが限度なのかってことも知っておくべきだろ?」


 ジロリと横目でユーゴを睨みながら、疑うような視線を向けるアンヘル。

 そうして彼を睨み続けた後でため息を吐いた彼女は、小さな声でその問いに答える。


「……戦闘に使うとして、お前の負担を考えたら……五分だ。それ以上は使うなって警告しておく」


「五分……なるほど、五分ね。了解」


「言っておくが、これはもしもこのまま使うとしたらの話だからな? 当たり前だがこの機能は使うべきじゃあないし、使うことを念頭に戦略を組み立てるのも止めろ! データ収集のためにちょくちょく使うからこのままにしてあるが、アタシがその気になればいつでもこの機能を外すことができるってことを忘れるなよ?」


「わかってるって。専属技師の言うことに逆らうつもりはねえよ。さ~て、汗かいちまったし、シャワーでも浴びてきますかね!」


「あっ!? ユーゴ! お前、本当にわかってるんだろうな!? おい!」


「わかってる、わかってる! 大丈夫、自己犠牲の精神で突っ走っても誰も喜ばねえっていうのは身を以て理解してるよ! お前を泣かせるような真似はしないから、安心しろって!」


「誰が泣くか、この馬鹿が! 調子のいいこと言ってんじゃないよ!」


 そう言って、逃げるように工房を去っていくユーゴの背中に怒声を浴びせ掛けたアンヘルが憤慨しながら椅子に座る。

 ドガッという大きな音が響いたのは、決して彼女の尻が大きいからという理由だけではないだろう。


 難しい表情を浮かべながらデータとにらめっこをする彼女は、悩ましい声でこう呟く。


「危険な機能ではあるが……そのリスクに見合った性能があって、しかも使えちまうってのが問題なんだよな……」


 本当は起動実験程度で済ませるはずだったのだが、ユーゴがこの機能に適応してしまったが故に結果としてこれは使えるという結論が出てしまった。

 しかし、やはり使い手の身に多大なる負担とリスクを強いるこの機能は、このまま使い続けるわけにはいかない。


 ブラスタの弱点であった遠距離への攻撃手段を補うために、炎属性の魔法結晶を使って設計した新プランであったが……良くも悪くも、想定以上の効果が出ているということが悩みの種だ。


「どう調整するべきか、本当に難しい問題だな……」


 魔道具技師としてはやり甲斐のある課題だが、そこに自分を信用してくれている人間の命がかかっているとなると大きなプレッシャーになる。

 今までとは段違いの重圧を覚えながら、アンヘルはデータを確認し、ブラスタの強化計画について懸命に頭を悩ませていくのであった。


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