二つの姿の理由
「ええ~っ!? なにこれ!? どういうことなの!?」
封鎖されている牧場の納屋に、メルトの素っ頓狂な叫びが響く。
彼女が驚くのも無理はなく、納屋に入った途端に骸骨状態から黒い馬へと姿を変えたスカルには、フィーもアンヘルも驚いているようだ。
「なんでなんで!? さっきまで骨だけだったよね!? っていうか、どっちが本当の姿なの~!?」
「昨日の夜に会った時はこっちの姿だった。多分だけど、こっちがスカルの本来の姿なんじゃねえかな?」
「夜……ってことは、姿が変わる条件は強い光を浴びることか?」
「そうだと思います。時間的に、今はまだ夕方にも差し掛かってないですし……」
目の前の事象とユーゴの話から、一同が推察を深めていく。
魔物であるスケルトンホースとしての姿と、今、自分たちの目の前にいる黒い馬としての姿。どちらがスカルの本来の姿なのかはわからない……というより、そのどちらも彼の本来の姿なのだろう。
「でもさ、どうしてこんなことが起きてるの? 私には全く意味がわからないんだけど……?」
スカルの姿が変わる理由について、頭にハテナを浮かべたメルトが根本的な疑問を口にする。
どうしてスカルには二つの形態があるのか? これまでの彼を見るに、本人(人ではなく馬だが)が意識的に姿を切り替えている雰囲気はない。
ということはつまり、スカル自身もその理由はわかっていないのだろうな……とメルトたちが考える中、ユーゴがフィーへとこんな質問を投げかけた。
「なあ、フィー。スカルは魔鎧獣じゃなくって、スケルトンホースっていう魔物なんだよな?」
「え……? あ、うん。そうだよ」
「それって有体に言っちまえば、スケルトンって魔物の馬バージョンってことで合ってるか?」
「うん、そうだけど……?」
「……良ければスケルトンって魔物がどう生まれるのか、俺に教えてくれ。お前が知ってる範囲で構わないから」
ゲームや漫画では定番の敵であり、この世界にも存在している骸骨の魔物……スケルトンについての情報を求めるユーゴが弟へとそう尋ねる。
兄の言葉に頷いたフィーは、必死に記憶の書庫を漁って、ユーゴが求めているであろう情報を引き出していった。
「えっと……スケルトンの誕生についてだよね? だったら、確か――」
スケルトンというのは、所謂『アンデット系』と呼ばれる分類に属する魔物だ。
ゴブリンのような生物としての魔物とは違い、生殖行為によって誕生するわけではない。
十分に供養されないまま白骨化した遺体に土地の穢れや怨念が宿った結果、肉が削げ落ちた骨のみの魔物としてスケルトンは誕生する。
要するに死体に強い負のオーラが組み合わさったことで生まれる魔物なのだというフィーの説明を受けたユーゴは、少し考え込んだ後にこんなことを言う。
「……例えばの話なんだが……その強い負のオーラを持つ怨念っていうのが、元々自分のものだった体に宿ることってのはあるのか?」
「え……? あっ!?」
兄の言葉に訝し気な表情を浮かべたフィーであったが、すぐにその意味を理解するとスカルへと顔を向ける。
何かを察した彼に続いて、アンヘルもまたユーゴが思い至った可能性に辿り着くと、それを言葉として呟いた。
「少し前にこの近辺で何者かに殺害された馬たち……スカルもその中の一頭だったってことか?」
「そう考えると色々と辻褄が合うんだ。アンもそう思わねえか?」
同意を求めるユーゴの言葉を受けたアンヘルが、その可能性を検討するように考察を深める。
スカルが二つの形態を持っているのは、魔物として転生したばかりだから。
夜の闇の中では生前の自身の姿が浮かび上がり、強い光の下では魔物としての姿が照らし出されてしまう。
時間をかけて穢れや怨念が蓄積した結果生み出されるスケルトンと違って、スカルは死後間もなくして自身の遺体へと魂を宿らせて魔物へと転生した。
理性や肉体が残っているのも、まだ魔物としての在り方に完全に染まっていないからだと考えれば、確かに辻褄は合う。
そして、彼を魔物として復活させるに至った強い負の感情に関しても、簡単に答えが見つけ出せる。
答えは全て、少し前に起きた事件の中にあった。
「……復讐か。こいつは、自分を殺した何者かを倒すために蘇ったんだな」
何日か前に発見された馬たちの遺体……スカルはそのグループの中の一頭だった。
仲間たち共々何者かに命を奪われた彼はその襲撃者に憎しみと恨みを募らせ、死した自分の肉体へとそれを宿らせ、命を失った骸骨馬として蘇った。
そして今、襲撃者たちを探してこの平原までやって来たのだ。
数々の疑問に答えが出る考えに至ったアンヘルであったが、ユーゴはそんな彼女の言葉の一部を否定するために首を振る。
アンヘルと、スカルを順番に見つめた彼は、仲間たちへと呟くような声量でこう言った。
「ちょっとだけ違うな。確かにスカルは復讐のために犯人を追ってるんだろう。だけど、それは自分のための復讐じゃあない」
そう言いながら、ユーゴが炎が燃え盛るスカルの首をそっと撫でる。
優しさと共感を示すようにスカルに触れながら、彼は目の前の黒馬の真の目的を口にしてみせた。
「スカル、お前……
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