工房と嫌われ者とおっぱい
「ほへ~! ここが工房かぁ! 学園内にこんな施設があるなんて、本当にすげえな!」
それから暫くして、無事に工業科の専用工房に辿り着いたユーゴは、中の光景を目の当たりにして感嘆の声を漏らしていた。
どうやって動いているかわからない炉や剣などをはじめとする武器を製造するための鋳造・鍛造用の作業台。他にも仕上げたばかりであろう武器や防具なんかも置いてあって、ゲームや漫画の世界に飛び込んだような気分を味わえる。
これが学園内にある施設で、しかも扱っているのが同じ学生だというのだから驚くしかないと素直にユーゴが感心する中、傍を歩くフィーが小さな声で話しかけてきた。
「兄さん、テンションが上がる気持ちはわかるけど、勝手に触ったりしちゃダメだよ? ここにある物は全部、工業科の人たちが作ったり手入れしてる品なんだから」
「わかってるって! 俺だってそこまで馬鹿じゃあねえよ。それより、ブラスタの改良について相談するんだろ? どうすりゃいいんだ? 適当にその辺の人を捕まえて、話しかければいいのか?」
どうやらユーゴはしっかりと目的を覚えていたようだ。テンションが変になって忘れているのではないかと思っていたフィーは、彼の反応に安堵のため息を吐きながら自身もその目的を果たすために行動しなければと思い直す。
自分も詳しいことはわからないが、とりあえずは兄の言うように誰かに声をかけてみるべきかもなとフィーが考えていると……?
「よう、元クレイ家の嫡男さんじゃあねえか。どうしたぁ? ガキと女を連れて、社会科見学でもしに来たのか?」
「んぁ……?」
不意に声をかけられたユーゴが間抜けな声を漏らしながらそちらへと顔を向ける。
そこに居たのは青いつなぎ服を着た男子生徒で、発した言葉からもわかる通り、彼はユーゴたちへの敵意を感じさせる表情を浮かべていた。
「あんた、工業科の生徒さんか? なあ、ちょっと相談に乗ってくれよ。魔道具の強化について、専門家の意見が聞きたいんだ」
「相談? はっ、こいつは傑作だ! パパに宝剣ガランディルを没収されたから、それに見合った剣を用意してくれってか? 残念ながら元貴族様のお眼鏡に適う品なんてここにはねえよ。とっとと帰りな」
「いや、違うんだって! ちょっとこいつについて相談を――っ!?」
「に、兄さんっ!?」
ぞんざいな扱いをしてくる男子生徒の態度にも挫けずに話を続けようとしたユーゴであったが、急に胸倉を掴んできた彼によって壁に押し付けられてしまった。
小さく呻きを漏らした彼が困惑する中、男子生徒は怒りの形相で唸るようにしてユーゴへと言う。
「帰れって言ってんのが聞こえねえのか? 俺たちにはお前のために何かしてやろうだなんて気持ちはこれっぽっちもねえんだよ」
「あ~……もしかしてなんだけどさ、俺って昔、あんたたちになんかしたりした?」
またこのパターンかと、そう思いながら引き攣った笑みを浮かべたユーゴが男子生徒へと問いかければ、彼は憎悪を込めた眼差しを向けながら吼えるようにこう答えた。
「ふざけんじゃねえぞ。俺たちはな、お前が先輩たちが魂を込めて打った剣のことを粗悪品だ低級の品だってボロクソに言ってる様を何度も見てるんだよ。そりゃあ、超一流の魔道具であるガランディルと比べたら、俺たち学生が作った剣なんて玩具みたいなもんだろうさ。だがな、こっちは一本の剣を作るために全力を尽くしてるんだ。それをコケにしておいて、いざ困った時には俺たちに頼るってか? 俺たちを舐めるのも大概にしろ!」
そう吼える男子生徒に同意するように、工房で作業をしていた他の生徒たちもこちらへと敵意を込めた視線を向けている。
この男はどこまで人の恨みを買っているんだと転生する前の自分自身のやらかしにユーゴがツッコミを入れる中、一触即発の空気を感じ取ったフィーが大慌てで男子を止めるべく声をかけた。
「あ、あのっ! ごめんなさい、兄さんは記憶喪失なんです! 色んな事を忘れちゃってて、今の質問もあなたを怒らせるつもりがあったわけじゃ――」
「うるせえ! 関係ねえ奴は引っ込んでろ! とにかくだ、俺たちはお前のために何かしてやろうだなんて気持ちは毛頭ない! わかったらとっとと帰れ! 次は手が出るぞ!」
いや、もう手を出してるじゃん。というツッコミを入れても間違いなく彼の怒りを煽るだけなので黙っておくことにした。
工業科の生徒たちにここまで嫌われているとは思わなかったユーゴは、完全に困り果ててどうするべきか悩んでいる。
このままここに居れば自分だけでなくフィーとメルトにも危害を加えられる可能性があるし、一旦退散した方が良さそうだ。
そう考えたユーゴが工房から出て行こうとした、その時だった。
「ちょっと待てよ。その魔道具、アタシに見せてみな」
「えっ……!?」
突如として響いた声に顔を上げたユーゴは、工房の入り口に立つ一人の女性の姿を目にしてはっと息を飲んだ。
メルトも、フィーも、工業科の生徒たちも全員が驚いた表情を浮かべているが……その理由の大半はおそらく、今の彼女の格好にあるのだろう。
男子生徒が着ている物と色が違う赤いつなぎ服を着ている彼女は、そのチャックをへそのところまで降ろしている。
そこから黒いビキニのような下着と思わしき物に包まれた二つのたわわな山を放り出している彼女は、その山をゆっさゆっさと揺らしながらこちらへと歩み寄ってきた。
「あわわわわわっ! わわっ!?」
「フィー! 見ちゃいけません! 良い子には刺激が強過ぎるっ!!」
あまりにもアダルトなその光景をフィーに見せるわけにはいかないと、ユーゴが彼の目を両手で覆う。
そうこうしている間に一同のすぐ近くまで歩いてきたつなぎ姿の女子へと、男子生徒が忌々し気な表情を浮かべながら尋ねる。
「アンヘル……! てめえ、どういうつもりだ?」
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