月明かりの下、青春
自分の過去……というと物々しいが、要するに地元ではどんな毎日を送っていたのかが知りたいというユーゴの質問を聞いたメルトが再び頷く。
少し考えた後、彼女はこう話を切り出していった。
「どんな生活かあ……普通かな? 魔導騎士を目指して訓練を重ねて、地元の警備隊の人たちからも話を聞いたりして……これでも私、地元では秀才って呼ばれてたんだよ? まあ、こっちには私程度の実力の持ち主なんてごろごろいるし、誇るものでもないんだけどさ……」
「いいじゃん、地元の期待の星! ご家族も、メルトのことを応援してくれてるんだろ?」
「うん! 私の家は貧乏でもないけどお金持ちってわけでもないびみょ~な感じだったんだけど……それでも、名門って呼ばれてるルミナス学園に私を送り出してくれた。スワード・リングの力を引き出せるお前にはそれだけの才能があるって言ってくれてね、だから頑張らないとなって思うんだ」
地元での日々をそう語るメルトが目を細める。
まだこちらに来てから間もないが、遠い故郷での日々を思い返して懐かしんでいるんだろうなと思うユーゴへと、彼女はこう続けた。
「……私ね、王都にある本部直属の魔導騎士になりたいんだ。女の子な上に田舎者な私が何を夢見てるんだって思われちゃうかもだけどさ……信じてみたいの、自分のことを。やってもいないのに諦めるのなんておかしいでしょ? こんな私がルミナス学園に通えてること自体が奇跡なんだもん。だったら、もう何回か奇跡が起きてもおかしくないじゃない?」
「奇跡なんかじゃないだろ。メルトがルミナス学園に入学できたのは、メルト自身の努力のお陰だ。俺はメルトが地元でどんなふうに過ごしてたのかはわかんねえけど、ご家族が一生懸命に応援してるんだ、すげー頑張ってたんだろうなっていうのは想像できるぜ。俺も応援するよ、メルトの夢。絶対に叶えてくれよな!」
「ありがとう、ユーゴ! ……でもまあ、さっきも言った通り、こっちのレベルの高さにぶち当たって凹んだりもしてたんだけどね。いつも頑張るユーゴの姿を見てたら、私も負けれない! って思えるんだ。だから……うん。ユーゴには感謝してる。ユーゴと会えて、友達になれて、本当に良かったよ」
少しだけ顔を赤くしながら、ユーゴへと感謝の気持ちを伝えるメルト。
彼女の言葉にユーゴが気恥ずかしそうに微笑みながら小さく頭を下げて応える中、メルトは彼にこう質問してきた。
「ねえ、ユーゴに夢はないの? 私もユーゴの夢を応援するよ! だからさ、教えてくれる?」
「う~ん……俺の夢、ねえ……? どうなんだろうな? 強いて言うなら、フィーと約束した立派なヒーローになるってやつかな? でも、もしかしたら記憶を失う前の俺には別の夢があったかもしれない。それも含めて、自分自身の目標ってやつを探していくよ」
「そっか……でも、それでいいのかもね。まだ入学したばっかりだし、記憶を取り戻すことも含めて、焦る必要なんてないよ! 私たちはこれから、これから! でしょ!?」
そうだな、と頷きでメルトの言葉を肯定してみせれば、彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
どこまでも明るくて、フィーと共に自分の苦境を忘れさせてくれるメルトの存在に感謝しながら、苦笑を浮かべたユーゴはこう続ける。
「でもまあ、そろそろ住処がないことに関しては焦った方がいいかもな。流石にいつまでも野宿ってのはマズいし、雨が降った時も大変だったしなあ……」
「あはは、確かにそうだね! ラッシュの件とかの功績もあるし、学校に相談してみたら? 便宜を図ってくれるかもしれないよ?」
「それもありっちゃありかもしれねえけど、今は学校側もばたばたしてるしな。それに、そういう自分の功績を盾に何かを要求するのってヒーローっぽくねえから、あんまりやりたくないって気がする。俺、そういう顔してるだろ?」
「うん。今のユーゴ、そういう顔してる! フィーくんとの約束も守らなきゃいけないし、自分の生活もしっかりしなきゃいけない。やることが多くて大変だ!」
将来の夢も大事だが、明日の生活もこれまた大切。
とりあえず、早く屋根のある家に住みたいというユーゴの言葉を聞いて爆笑した後、指で笑い涙を拭うメルトが口を開く。
「……ねえ、ユーゴ。もしもの話なんだけどさ――」
「うん?」
どうしたんだ、といった表情をメルトへと向けながら、その先の言葉を待つユーゴ。
そんな彼と暫し見つめ合った後、メルトは首を左右に振ると笑みを見せながら言う。
「……ごめん、なんでもない。今のは忘れて。さてと、そろそろ私もお風呂に入らなくっちゃ! 明日も早いし、ユーゴそうした方がいいんじゃない?」
「お? おお、そうだな……そうするか!」
珍しく歯切れが悪いなと思いつつも、無理に何を言おうとしたのか聞き出すのも良くないと判断したユーゴが前言を撤回したメルトの意見に同意する。
タッタッ、と小走りでユーゴから距離を取ったメルトは、月明かりにピンク色の髪を輝かせながら彼へと言った。
「じゃあ、また明日ね! おやすみ、ユーゴ!」
「ああ、おやすみ。明日は頑張ろうな」
挨拶にそう返事をしてくれたユーゴに見送られながら、自身の宿泊先である民宿へと向かうメルト。
その最中、彼から見えない位置で足を止めた彼女は、深く息を吐いてから赤くなった頬を手で押さえ、口を開く。
「あっぶな……! 流石にあれは行き過ぎだよ、私……!」
もしも卒業後に行く場所がなかったら、自分の家に婿入りすればいい……それが、先ほどメルトがユーゴに言おうとした止めた言葉だった。
そんな逆プロポーズをこのタイミングでされても困るだけだろうと自分自身にツッコミながら、夜空を見上げたメルトがため息を吐く。
「……ちょっとだけ、顔を冷ましてから戻ろう。変な誤解されても困るし……」
民宿には他の女子たちもいる。彼女たちにユーゴとの関係を邪推されるのは嫌だし、彼に迷惑をかけるのはもっと嫌だ。
この赤くなった顔を見られることを避けるためにも少し時間を潰してから戻ろうと考えたメルトは、どくんどくんと鼓動を打つ心臓を抑えるように左胸に手を当てながら、熱っぽい吐息をこぼすのであった。
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