子供たちに迫る危機!戦え、嫌われ貴族コンビ!

おはよう、蟹貴族!

「私と戦え、ユーゴ・クレイ!」


「ま~たお前かよ、しつこいなあ……」


 ユーゴが自宅(野宿なので家ではない)にやって来たマルコスの顔を見てげんなりとした表情を浮かべたのは、ある休日の朝のことだった。

 鼻息も荒く、戦闘意欲満々といった様子でこちらを見つめる彼に対して、兄を迎えに来てくれたフィーが言う。


「マルコス・ボルグさん。あなたは兄さんとの決闘に負け、僕たちに近付かないという約束を交わしたはずです。トンネルでの一件は仕方がないにしても、今回のような真似は約束に反しているのでは?」


「わかっている。だが、私にも無視できない事情ができてしまった」


「へえ? なんだよ、話してみろよ。あ、この後出掛けるから手短にな?」


 以前の決闘の際に交わした取り決めを持ち出されたマルコスがバツの悪い表情を浮かべるも、それでも食い下がる彼の態度に興味を持ったユーゴは話を聞いてやることにした。

 憮然とした表情を浮かべながら、マルコスは無視できない事情について語っていく。


「……先日、お前はラッシュ・ウィンヘルムとの戦いに勝利したな? そして、そこで不正を働いたと――」


「兄さんは不正なんて働いてない! それはあいつらが勝手に言っているデマだ!」


「その部分に関してはどうでもいい。問題は、その話に私も巻き込まれているということだ。魔鎧獣との戦いの場には私もいた。あのトンネルでの一件がメルト・エペを騙すためのお前の仕込みだという噂が広がった結果、私もお前の悪事に加担しているという話になっている……どうしてそうなった!? 誇り高きボルグ家の嫡男である私がそのような悪事に手を貸すわけがないだろう! あいつらは阿呆なのか!?」


「あ~……なるほど。なんかごめんな、余計な二次被害が出ちまったみたいでさ」


 苦笑しながら、自身のプライドを傷付ける噂を耳にしてしまったマルコスへと謝罪するユーゴ。

 まさかあの時の話が二転三転してこうなるとは……と思いつつも、多分、マルコスも自分に負けず劣らずの嫌われ者だからそんな噂に発展しちゃったんだろうな~とも考える彼に対して、鼻息を荒げたマルコスが言う。


「だからもう一度私と戦え、ユーゴ・クレイ! 前回は油断したが、今回はそうはいかんぞ! 今度こそお前を叩きのめして――」


「う~ん……あんまり乗り気になれねえなあ。それに、そもそもそれってあんまり意味ないと思うぞ?」


「……なに?」


 ビシッと自分を指差しながら決闘を申し込んでくるマルコスへと、頬を掻きながらユーゴが応える。

 それはどういう意味だと怪訝そうな表情を浮かべるマルコスに対して、彼は説明をしていった。


「ぶっちゃけさ、俺たちの二回目の戦いって誰も注目なんてしないだろ。ギャラリーからすれば結果はわかり切ってるし、そんなもんわざわざ見る必要なんてないって思われる気がしないか?」


「私が負けるとでもいうのか!? 前回は油断しただけで、同じことは二度と繰り返さん!」


「わかってる、わかってる。でも、一回目の戦いを見てた連中からすれば、俺にワンパンで倒されたお前が勝つ可能性なんて一ミリもないと考えるわけじゃん? それに、仮に勝てたとしてもだから何? って思われねえ? 仲良し嫌われ者貴族がプロレスやった結果だと思われたら意味ないだろ」


「誰がお前と仲良しだ!? お前と私は敵同士だろう!!」


 どうどう、と両手を軽く動かしてヒートアップするマルコスを抑えるユーゴ。

 このまま決闘なんてしても意味がないと言った理由を話した後、彼は不敵に笑うとマルコスへとこんな話を持ち掛ける。


「まあ、そういうわけで俺は決闘に乗り気になれねえ。それに、またお前をワンパンで倒しちまったら弱い者いじめしてるみたいで気分も悪くなるしな。だが、まあ……お前の気持ちもわかるよ、マルコス。やっぱり貴族としては自分に対する悪評ってのは見過ごせねえよな。家の名誉にもつながるわけだしさ」


「……その通りだ」


「そこで、だ……お前との決闘を受けてやってもいいが、一つ条件がある。見ての通り、俺はこの後フィーとメルトと依頼を受けることになっててな……お前もそこに同行しないか?」


「なんだと……?」


 怪訝な表情を浮かべ、目を細めてこちらを見やるマルコスへと試すような視線を向けたユーゴは、不敵な笑みを浮かべながら決闘を受ける条件を話していった。


「この依頼で勝負をしよう。俺とお前、どちらが成果を挙げられるか……もしもお前が俺より成果を挙げられたら、その言葉が口だけじゃないってことで決闘を受けてやる。お前が負けても別に俺は何のペナルティも課すつもりはねえよ。ちょっと働くだけでいい。報酬も分割して渡してやる。どうだ? いい条件だろ?」


「ふん、なるほどな……! この私の真の実力を見たいと、そういうことか。いいだろう、ユーゴ・クレイ! お前のその挑戦、受けてやろうじゃあないか!」


 やる気を漲らせた表情を浮かべ、一歩ユーゴへと近付いたマルコスが大声で応える。

 その瞳に爛々と戦意を燃やしながら、彼は堂々とこう吼えてみせた。


「勝負だ! どんな依頼でも、私はお前以上の成果を挙げてみせるぞ!!」

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