ヒーローは子供に好かれるべし!

「……で、これはどういうことだ!?」


 それから数時間後、マルコスは明るく賑やかな声が響く屋内にいた。

 きゃっきゃっ、わーわー、おぎゃあおぎゃあ、ある意味では戦場じみた慌ただしさと騒がしさが満ちた屋内で、子供たちに囲まれているユーゴが笑顔で彼に答える。


「え? これが今回の仕事内容だけど? 幼稚園の子供のお守り、頑張ろうな!」


「何故こうなる!? あの流れだったら、魔鎧獣の討伐や危険区域の調査なんかで勝負をするはずだろう!!」


「馬鹿だな~! そんな危ない仕事にフィーを連れて行くわけないだろ~! おっちょこちょいさんめ~!」


「ええい、じゃれつくな! どうして学園もこんな仕事を依頼として提供している……?」


「なんか地域住民と関わることも大事だからってことらしいぜ。ほら、こんな話してないで子供たちと遊ばないと! 仕事が終わった時にどっちが子供たちに好かれてたかで勝敗を決めるからな!」


「……どうしてこうなった? 何故、誇り高き貴族である私が、こんな仕事を……?」


 半泣きになりながら、がっくりと肩を落としたマルコスが呻くように自身の現状を嘆く。

 汚名返上の機会を与えられたかと思ったら、こんな養護施設で保育士の真似事をさせられるだなんて……と、貴族である自分に相応しくない仕事の内容にげんなりしていた彼であったが、その背を力強く叩かれて、思い切り咳き込んでしまった。


「えほっ! ごほっ! な、何をするっ!?」


「もう、サボらないの! 依頼として受けたんだから、しっかりやることやってよね!」


 突然の暴力に抗議しようとしたマルコスであったが、自身と同じ依頼を受けているメルトからの叱責に何も言えなくなってしまった。


 彼女の周りには楽しそうに笑いう女の子たちの姿があって、メルトもこの仕事を責任を持って遂行していることがわかる。

 フィーの方も珍しくお兄さん扱いされているのが嬉しいのか、恥ずかしそうにはにかみながらも子供たちの相手をしていた。


 そして、ユーゴはというと……?


「いいか~、よく見てろよ~! 腕をこう! こう動かしてからの~……ここで止める! で、変身っ! トウッ!」


「うわ~っ! カッコイイ~っ!!」


「どうやったの!? もう一回見せて見せて!!」


 ……謎のポーズを取ってはブラスタを装着するという、これまた謎のショーを子供たちに披露していた。

 妙にキレッキレの動きからの格好いい鎧型魔道具の装着シーンというのは子供心をくすぐるようで、彼の周りには大勢の子供たちが集まっている。


 男子も女子も目を輝かせてユーゴの変身ショーを見守る中、くすくすと笑ったメルトが呆然とその様を見つめるマルコスへと言った。


「ほら、あなたも頑張らないとユーゴに負けちゃうよ? 子供たちと仲良くならないと!」


「ぬ、ぐぅ……!!」


 からかうような言葉に呻くマルコスであったが、これがユーゴと自分との勝負であることに間違いはない。

 それに、この依頼を仕事として請け負った自分には責任を果たす義務がある。


 自分は誇り高きボルグ家の嫡男、マルコス・ボルグ。たとえそれがどんな仕事であろうとも、完璧に遂行してみせる……と、彼が考えたところでユーゴからのお呼び出しがかかった。


「お~い、マルコス~! ちょっとこっち来てくれ!」


「気安く呼ぶな! 命令するな!」


 ぷんすかと怒りつつも、しっかりユーゴの言うことに従ったマルコスが子供たちに囲まれるユーゴへと近付けば、彼は笑顔とサムズアップを見せながらこんなことを言ってきた。


「あのさ、子供たちがお前の魔道具を見たいんだって。というわけで、見せてやってくれよ」


「何故そんな話になった!? 私のギガシザースは子供たちの玩具じゃないんだぞ!」


「わかってるって! でも見てみろよ、子供たちの顔を……! みんな期待に満ちた、いい顔してるだろ?」


「ぬぅ……」


 そう言われて子供たちの方を見てみれば、確かに全員が全員、こちらへとキラキラと輝く瞳を向けてくれている。

 なんだかその視線がプレッシャーに思えなくもないが、こんなことで怯んでいられるかと気合を入れたマルコスは息を吸うといつも通りの不遜な態度で子供たちへと叫んだ。


「ふっ、いいだろう……! 我がボルグ家に伝わる魔道具ギガシザースが放つ、黄金の輝きを刮目せよ!」


 叫び、左腕を掲げ、魔力を込め、魔道具を展開。

 金色の輝きを放った左腕を覆い尽くしていく装甲と先端の鋏を見せつけるようにポーズを取ったマルコスへと、歓喜の声を上げた子供たちが殺到する。


「すっげぇ! 金ぴかだ~!」


「キラキラしててカッコいい!!」


「ふっはっはっはっは! ギガシザースの高貴さがわかるとは、お前たち、中々見る目があるじゃないか! あっ、鋏に触れるのは止めろ! 怪我するぞ!!」


「この鋏で紙を切って遊ぼうよ~!」


「何作る!? 僕、金色の折り紙持ってくるね!」


「……なんか、人気だね。意外だなぁ……」


「そうか? 俺は割と向いてると思ってたぞ?」


 やいのやいのの大合唱をしてくる子供たちに囲まれているマルコスを見つめながら、楽しそうに話すユーゴとメルト。

 あのマルコスが、子供たちからあんなに慕われるだなんて……と意外そうに呟くメルトへとどこか得意気にも見える笑みを見せたユーゴは、再びマルコスへと視線を向けながら言う。


「ラッシュと違ってさ、あいつの取り巻きって決闘に負けたあいつのところに真っ先に駆け寄ったんだよな。利害関係とか烏合の衆みたいなのじゃない、本当に慕われてるんだってことがそこからわかった。俺への対抗心でその辺のいい部分が出てこなくなってたんだろうけど、素はあんなもんなんじゃね?」


「ほぇ~……!」


 メルトの目から見ると高慢ちきな貴族そのものとしか思えなかったマルコスであったが、確かにラッシュと比べると彼のまともな部分が浮き彫りになってくる。

 二人と決闘して、それぞれの違いのような部分を見つけ出したユーゴの話に納得したメルトが頷く中、彼は楽し気に笑いながらこう言った。


「追加戦士ポジションだな、あいつ。出てきた当時は嫌な奴だったけど、途中からギャグもやるようになって人気出るパターンだ」


「……どういう意味?」


「気にしなくていいぞ、こっちの話だから」


 その言葉の意味はわからない。というより、時々ユーゴは自分には理解できないことを言う。

 

 とにかく仕事が思っているよりもスムーズに進んで何よりだと思いながら、メルトもまた自分を取り囲む女の子たちとのおままごとに勤しむのであった。

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