怪奇トンネルの謎!消えた乗客と怪物を追え、ユーゴ!

登場!笑顔満天メルト・エペ!!

「よう、ユーゴ・クレイ。おっと、勘当されたからもうただのユーゴだったっけか~?」


「寮からも追い出されて、野宿してるんだって? これまでの振る舞いのツケが回ってきたみたいだな! ざまぁ!」


 マルコスとの決闘の翌日、食堂でユーゴを見つけた男子生徒の一団が彼に対して暴言を吐き掛け、ちょっかいをかけていた。

 名門一族であるクレイ家という後ろ盾を失い、強力な魔道具であるガランディルをも失った今の彼の没落っぷりを嘲笑いながら、男子生徒たちはこれまでの鬱憤を晴らすかのようにユーゴを馬鹿にし続ける。


「食堂なんかに来ちゃってさ、今のお前にここで食事できるだけの金があるのかよ!?」


「どうせ弟に集ってるんだろ? まだ初等部の弟に食事の面倒まで見てもらうだなんて、本当に恥ずかしい野郎だな!」


 人目をはばからずに大声を出す男子生徒たちは、周囲からの注目を集めているようだ。

 もしかしたら自分たちに馬鹿にされるユーゴをの姿を周りの生徒たちに見せつけるためにわざとそうしているのかもしれない。


 大勢の生徒たちの前で、彼らに思い切り馬鹿にされたユーゴは男子生徒たちに視線を向け、口を開くと――


「いやぁ、そうだよなあ……流石にこの状況は情けねえよなあ……」


「へ……?」


 ――大きく頷くと共に、彼らの意見に同意してみせた。


 怒るでもなく、自分たちを無視するでなく、自分を馬鹿にする意見を肯定するユーゴの反応に男子生徒たちがぽかんとした表情を浮かべる中、彼は相談を持ち掛けるように話を続けていく。


「生きていくためにも先立つものが必要だし、やっぱ自分の食い扶持くらいは稼げる様になんねえと駄目だよな……野宿するにしたって雨風を凌ぐためのテントくらいは欲しいし、そのためにも金を稼がなきゃ。なあ、どっかいい感じの働き口とか知らねえ? あっ、そもそもこの学校ってバイトとかしても大丈夫なのか?」


「え、ええっと……?」


 自身の情けなさを認めつつ、平民である自分たちに働き口の紹介まで求めてきたユーゴの態度に面食らった男子生徒たちは完全に戸惑っていた。

 あのユーゴが、最低最悪のクズとまで言われたあの男がここまで控えめな姿を見せるだなんて……と彼らが困惑する中、同じようにどう反応していいかわからずに成り行きを見守っていた周囲の生徒たちの中から、一人の女子が飛び出してくる。


「ねえ、あなた! お金が欲しくて働き口を探してるの!?」


「えっ? ああ、まあ、そうだけど……?」


「やった! じゃあさ、私と組まない!?」


 ざわっ、と周囲の生徒たちが驚きにざわめいたのがユーゴにもわかった。

 学園一の嫌われ者である自分にコンビを組もうと持ち掛ける生徒がいたことも驚きなのだろうが、それ以上に彼らを驚かせているのはこの女子生徒が飛び切りの美少女だという部分だろう。


 かわいらしさと美人さを併せ持った整った顔立ちをしている彼女は、ウェーブがかかったタフィーピンクの長髪を揺らしながら、期待の感情を宿してキラキラと輝く紫色の瞳にユーゴの姿を映して、話を続ける。


「私はメルト・エペ! 高等部からこの学園に通うことになった編入組だよ! よろしく!」


「あ、ああ……俺はユーゴ・クレイだ。勘当されちまってるから、クレイの方は名乗っていいのかわかんねえけどな」


「知ってるよ~! 何日か前に私と同じ編入組の男の子に決闘で負けて、家を追い出されちゃったんでしょ? それで、生活のためのお金を稼ごうとしてるんだよね?」


「うん、まあ、そんな感じかな……」 


 中々にエネルギッシュというか、人の触れにくい部分に堂々と踏み込んでくるメルトに押され気味になっているユーゴ。

 言葉を選ばず、遠慮もせずにずけずけとものを言うメルトの態度にユーゴの怒りが爆発するのではないかと怯えながら生徒たちが二人を見守る中、彼女は明るい声で話を続けていった。


「いや~、本当に助かるよ~! いい感じのが来てたから受けようと思ったんだけど、二人以上のチームを組まないと受けられない仕事らしくってさ~! 私、この学校に編入したばっかりだから友達もいないし、今回は諦めるしかないかな~って思ってたんだよね~!」


「な、なあ。その、依頼って何なんだ? 俺、現在大絶賛記憶喪失中でさ、色々なことを忘れちまってるんだよ」


「あ、そうなんだ。じゃあ、簡単に説明するね。とは言っても、私も本当に最近知ったことなんだけどさ」


 依頼、というワードに引っかかったユーゴがそれについて詳しい説明を求めれば、少し得意気な表情を浮かべたメルトが嬉々として解説をしてくれた。


「依頼っていうのは、近隣住民からこのルミナス学園に寄せられた仕事の協力要請のことだよ。学園側は生徒たちの自主性を促したり、人々を守る魔導騎士としての自覚を持たせるために、こういった仕事を学生課に掲示して受けてくれる人を募集してるんだ。依頼を達成した生徒には報酬が支払われることになっててさ、それで生活費を稼ぐ生徒もいるみたい。私もその一人で、今日いい感じの仕事を見つけたんだよ~!  だけどその依頼が一人じゃ受けられないやつで困ってたんだ!」


「なるほどなぁ……! で、同じく金に困ってそうな俺に声をかけたってわけか」


 依頼についての話を聞き、その中でメルトが何を考えているかも理解したユーゴがふむふむと唸りながら頷く。

 要するにこれはゲームのクエストみたいなものかと、完璧に近い答えを出したユーゴは、そのまま続けて彼女へと尋ねた。


「それで、どんな依頼を受けるつもりなんだ? 仕事の内容を教えてくれよ」


「オッケー! えっとねえ……これ!」


 自分と組んで仕事を受けることに対して前向きな態度を見せているユーゴの反応を喜びながら、制服のポケットから一枚の紙を取り出すメルト。

 彼女から手渡されたそれを広げたユーゴは、そこに書かれている文字を声に出して読み上げた。

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