友達ができた!
「近隣街道の警備任務……仕事期間は一日のみ、か……」
「そうそう! それでこの報酬って、結構割がいいと思わない!?」
依頼書の内容を確認したユーゴが報酬の欄に書いてある数字を見て、難しい表情を浮かべる。
正直な話、この世界の物価やら貨幣価値に関してはあまりよくわかっていないのだが、メルトがそう言うのだから割のいい仕事なのだろう。
今後もこの依頼というシステムにはお世話になるだろうし、とりあえずお試し感覚で一度仕事を受けてみた方がいいかもしれない。
「わかった。俺もこの仕事を受けさせてもらうよ。よろしくな」
「ありがと~! これ、受付が明日まででさ~! このままコンビを組んでくれる人が見つからなかったら見逃すことになってたし、本当に助かったよ!」
メルトと組み、この依頼を受けることを承諾してみせれば、彼女はユーゴの手を取ってぶんぶんと上下に振りながら感謝の気持ちを伝えてくる。
良くも悪くも真っ直ぐでわかりやすいメルトの様子に苦笑したユーゴが、どうやったら彼女は止まってくれるかなと思案していると……?
「兄さん? その人、誰?」
「お、おお、フィー。この人は、あ~……」
食券を手に席に戻ってきたフィーからの問いかけを受けたユーゴは、その質問に答えようとして言葉を詰まらせてしまった。
嫌われ者としての立場もそうだが、ほんの数分前に出会ったばかりの異性を友達と言うのはちょっと図々しいかもなと考えた彼がメルトを弟にどう紹介したものかと悩む中、そんなユーゴの心配をよそにメルトはあっさりとフィーに対してこう言ってのける。
「はじめまして! 私はメルト・エペ! 君のお兄さんのお友達だよ!」
「友達……? 兄さん、本当なの……?」
「あ、ああ、まあ、そうだな」
笑顔を浮かべながら、堂々と大きな胸を張りながら、ユーゴの友達だと自分に告げてきたメルトの言葉に驚きを隠せなかったフィーが兄へと確認の質問を投げかける。
若干戸惑いながらも否定する理由はなかったユーゴが彼女の言葉を肯定すれば、フィーはぱあっと笑顔を浮かべると共にメルトの手を取り、自分もまた挨拶をした。
「は、はじめまして! 僕、フィー・クレイです! よろしくお願いします!」
「おお! 元気な子だ! こっちこそよろしくね!」
「うぅっ……! あの兄さんにお友達ができるだなんて、夢みたいだ……! 本当に良かった……!」
「……なあ、フィー? 地味に今の言葉で傷付いたんだが? お前、俺のこと馬鹿にしてないか?」
兄に友達ができた……その事実を聞いただけで涙を浮かべるフィーの反応に、若干のモヤつきを感じるユーゴ。
だがまあ、学園一の嫌われ者と呼ばれ、家からも追い出されて全てを失った今の自分の状況を考えると、友人ができたことは素直に喜ぶべきことなのは間違いない。
涙を流すくらいに兄を心配し、兄の幸福を喜んでくれているのだろうと考えることにしたユーゴがそれでも口を真一文字に結んだ真顔になる中、兄弟のやり取りを見守っていたメルトが愉快気に笑うと共に彼へと言う。
「好かれてるんだね、弟くんに。さっきのやり取りを見てた時も思ったけど、あなたって聞いてた人物像と全然違うって感じがする」
「あ~……そこはほら、さっきも言った通り、俺ってば記憶喪失だからさ。人格も変わってるんだよ、多分」
「それもあるかもしれないけど、本当に悪い人間だったら弟くんからここまで好かれたりなんかしないよ。自信持ちなって! あなたは自分が思ってるほど悪い人じゃあないと思うよ!」
いい笑顔を見せながらユーゴのことを褒めるメルト。
久しぶりに、本当に久しぶりにフィー以外の人間から褒められたユーゴは、彼女の言葉と笑顔に言いようのない喜びを感じていた。
(なんか、あれだな……正義の魔法少女に心を動かされる悪の幹部みたいな気分だ……)
日曜日の朝に放送されているアニメ番組で時折見かける展開。
凍てついた悪の心を光り輝く正義と愛の心が溶かし、同じ魔法少女として並び立つ存在へと変わる一歩目ってこんな感じなんだろうなと思いながら、どうせなら悪役令嬢に転生してればエモい百合シーンになったんじゃないかなとか余計なことも考えつつ、ユーゴはメルトへと感謝を告げる。
「ありがとうな。あ~……ごめん、なんて呼べばいい?」
「普通にメルトでいいよ~! そういうところ気にするなんて、ユーゴってやっぱ悪い人っぽくないね! こっちでの友達第一号がユーゴで良かったよ!」
そう言いながらメルトが差し出してきた手を取り、彼女と改めて握手を交わすユーゴ。
明るくて真っ直ぐで、周囲の人たちを笑顔にしてしまうような不思議な魅力にあふれる笑みを浮かべる彼女を見つめながら、ユーゴは思う。
(プ○キュアでいったら主人公タイプだよな~……実質転校生みたいな境遇も第一話の設定でよくあるパターンだし、髪色的にもぴったりだ)
コミュ力高め、性格明るめ、友達をすぐに作れる屈託のないキャラクター性をしているメルトには、日曜朝に放送されている魔法少女ものアニメの主人公っぽさがある。
そんな彼女の友人第一号になった自分は、さしずめ赤かオレンジ色担当の親友キャラかなと思いながら、ユーゴは異世界に転生してから初めて友達ができた喜びを強く噛みしめ、微笑むのであった。
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