瞬殺

「え~っと、確かこんな感じで……」


「……何をしている? また無駄な動き満載のパフォーマンスか? よくもまあ飽きずにそんなことができるものだな。魔導騎士を目指すのを止めて、ピエロにでもなったらどうだ? ははっ!」


 ――その場から移動せず、まるでアキレス腱を伸ばす準備運動でもするかのように足を前後に広げたユーゴが何やら妙な動きをし始める様を見て、盛大に彼を嘲笑し始めた。


 そんなマルコスの言葉を無視しつつ、むしろ相手が油断して動かないでくれるのはありがたいなと思いながら、ユーゴは頭の中でイメージを膨らませつつ、謎の動きを続けていった。


「拳を握って、腕を引いて、そんで~……」


 固く拳を握り締めながら右腕を引き、緩く体を捻る。

 その状態で右手に魔力を集中させるイメージを膨らませていったユーゴは、自身の右拳に力が集まっていく感覚に兜の下で笑みを浮かべた。


「よっしゃ! あとはこいつを……こうだっ!!」


「は……?」


 集中、凝縮、更に集中からのまた凝縮。

 注げるだけの魔力を拳で握り固める感覚で集中させたユーゴが、それを十分に行ったと判断すると同時に攻撃に打って出る。


 前に出している左腕を引き、前へと力強く踏み込みながら引いていた右腕をマルコスへと伸ばす。

 空手の突きのような、両腕が滑車で繋がっているような感覚で右拳を前方へと突き出した彼は、そこに集中していた魔力を巨大な弾丸として相手へと放ってみせた。


「なっ!? 馬鹿なっ!? うおおおおおっ!!」


 完全に油断していたマルコスは自分へと飛来する魔力弾を目にして咄嗟にギガシザースでの防御を試みるも、その一撃を防ぐことはできなかった。

 左腕の装甲に紅蓮の魔力がぶち当たり、その勢いに負けて体を押し込まれ、体が宙に浮いたところで魔法弾が爆発を起こしたことで、彼は悲鳴を上げながら後方へと大きく吹き飛ばされてしまう。


 綺麗に決まったその一撃は観客たちの度肝を抜き、フィーも含めて彼らは驚きに言葉を失ってしまっていた。


「おお、いけたいけた。昨日練習したとはいえ、ここまで上手くいくとはなぁ……」


 そんな観客たちをしり目に、拳に溜めたエネルギーを光弾として放つ、というヒーローの必殺技としてポピュラーなそれを試してみたユーゴが想像以上の完成度に仕上がった今の一撃を振り返りながら呟く。

 似たような技を持つヒーローたちの動きをトレースし、イメージしながらやってみただけなのだが、こんなにも上手くいくとは思わなかった。


 マルコスのことを若干心配しつつも、憧れのヒーローたちと同じ技を出せたことに感動するユーゴは、心の中で参考にしたヒーローたちへの感謝を述べる。


(ありがとう龍○、イ○サ……! あなたたちへの感謝を示して、この技を『ドラゴンファングブラスター』と名付けさせていただきます……!)


 ぶっちゃけ、技がクリーンヒットしたのはマルコスが完全に油断していたお陰であって、普通に使ったら魔力弾を放つまでの隙を突かれて止められてしまうだろうが、そこは今後の改善点だと考えることにしよう。

 とりあえずは先制攻撃に成功したユーゴは、ここから反撃に出るであろうマルコスへと警戒を払い、迎撃の構えを取っていたのだが……?


「あ、ぐがっ、ぐ、え……っ。ま、まさか、この私が、こんな……ぐふっ」


「ま、マルコス様~っ!!」


「……あれ? あっれぇ……?」


 そのマルコスが地面に倒れ伏し、そのまま気絶してしまった彼へと取り巻きが駆け寄る光景を目にして、間抜けな声を漏らした。


 どこからどう見ても彼がこれ以上戦えるとは思えなくて、観客たちも瞬殺にもほどがある決闘の決着に先ほどまでの盛り上がりが嘘であるかのように静まり返っている。


 お通夜のように静まり返った決闘場の中央に立つユーゴは、ぎこちない動きで自分の唯一の味方であるフィーの方へと顔を向けると、彼へとこう問いかけた。


「な、なあ、フィー? あのさ、もしかしてなんだけどさ……俺、やり過ぎた?」


「えっと……ちょっとだけ意外な展開ではあった、かも……」


「ああ、やっぱり? そっか、やり過ぎたか……」


 やっぱり初っ端から必殺技を撃つのは止めた方が良かったかもしれない、もっと普通に格闘戦とかした末に撃つから盛り上がるのであって、そのルールを破るとこんな事態に陥ってしまうらしい。

 ヒーローの美学がわかってなかったのは自分も同じかもなと思いながらも、とりあえずは絡んできた卑怯な輩を撃退することはできたぞと思い直したユーゴは、フィーを抱えると大慌てでその場から逃げ出しつつ、心の中で自分の戦い方を反省するのであった。

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