第14話
とても楽しみにしていた「恋人達の休日」の観劇の日。
アーサシュベルト殿下が我が公爵家に迎えに来られるということで、朝早くから上から下から大騒ぎ。
普段の休日はベットでゴロゴロしているわたしも朝早くに起こされ、髪の毛のセットに服の着替えにとお母様と侍女達がキャッキャ言いながら、支度を手伝ってくれる。
気合いを入れても、見目麗しい殿下の横に立ったら、絶対にわたしは見劣りするし、それに気合いを入れていると殿下に思われたら、すごく気恥ずかしいんですが…。
そうこうしているうちに殿下が到着された。
玄関で待つわたしは胸の鼓動が早くなり、だいぶ緊張している。
春が来たような微笑みで麗しい王子が登場された。
誰もが息を呑む。本当に格好いい。殿下の背景に百合の花が見えるわ。
父母に挨拶を済ませ、わたしをエスコートするのに側まで来られると、いままでの殿下なら、「馬子にも衣装」「猫に小判」ぐらいの毒をボソッと吐くのに、やっぱり最近の殿下はおかしいので「綺麗だ」とそっとわたしの耳元で囁き、甘い毒を吐かれた。
わたしは最速で胸打つ鼓動を抑えきれず、恐らく最速鼓動の記録を更新したに違いない。
会場に着くと、様々な人でごった返していた。想像以上の人混みだ。
殿下にエスコートをされながら、歩いていたがこのままでは人混みに流されそうだ。
エスコートをしてくれている手が突然、指をひとつひとつ絡めてきて、ぎゅっと握り直してくれた。
「これで俺たちは離されないからね」
アーサシュベルト殿下が優しくわたしに笑顔を向けられて、胸がキュッとなる。
「アーサー!!」
後ろから殿下の名を呼ぶ女性の声にふたり同時に振り向くと、見覚えのある少女のような可愛らしい女性がいらっしゃった。
「アーサーも観劇されるのですね」
猫のような可愛い声が歓喜に満ちている。
よく見ると先日、事務室と間違えて執行部の部屋に来た小さくて可愛いキャロル嬢だ。
「わたし達はいまから観劇を見るところですが貴女も?」
「そうですよ。アーサー、そちらの女性は?」
キャロル嬢は、アーサシュベルト殿下に昨日今日出会ったばかりのはずなのに、すでにアーサー呼びになっていることに驚いていると、矛先がわたしに向けられた。
「わたしの婚約者のエリアーナですよ」
「エリアーナ・ダスティンと申します。キャロル様、同じ学校でもありますし、仲良くしてくださいませ」
たおやかに令嬢らしくカーテシーをする。
「わたしはキャロルです。こちらこそよろしくお願いします」
キャロル嬢を改めて近くで見ると、小さなお顔で表情がくるくる動いて、可愛らしいご令嬢だ。
「今日はひとりで来ているんです。よろしければ、会場までご一緒してください」
断れる訳もなく、他愛もない会話をしながら、ごった返す会場に3人一緒に向かうことになった。
小さなキャロル嬢はごった返す人混みに流されて、しまいには埋もれてしまいそうだ。
「キャロル嬢、大丈夫か?」
利き手の右手は包帯をしていて使えないので、殿下がわたしの手を離し、人混みに埋もれそうなキャロル嬢に左手を差し伸べた。
「アーサー、ありがとうございます」
殿下が春が来たような微笑みをされ、キャロル嬢もカーネーションが咲き乱れたような笑顔をされた。
一瞬、ここに春が来たかと思った。
そしてわたしは、先ほどまで殿下と手を繋いでいた右手を見る。
まだ、繋いでいた時の殿下の温もりの余韻が残るのを感じながら、胸がチクッとするのと同時にモヤッとした。
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