第12話
今日の放課後は執行部のお手伝いの日だ。
そして、メンバーはいつもアーサシュベルト殿下とセドリック様、マリエル様だ。
他の役員の方々は別の日に活動をしているらしい。
わたしは他の方がいらしても大丈夫なのですが、わたしは執行部では部外者。いろいろ気遣っていただいているみたい。
「今日はこのあと、街に行ってみませんか?オシャレな雑貨屋さんが新しく出来たんですよ」
今日の執行部はそれほどの仕事もなく、早々に解散かなと浮き足立っていたら、マリエル様が突然の提案をされた。
「いいね。ダブルデートをしようよ」
セドリック様がめっちゃ食いつく。
いやいや、婚約者同士のセドリック様とマリエル様おふたりで行っちゃってくださいよ。
殿下とわたしがいると、逆にお邪魔でしょうーよー
とは、空気を読むわたしは言えず、
「いいですねー」
と目を細めて棒読みで同意した。
チラリとアーサシュベルト殿下を横目で確認すると、ニコニコと頷いている。
満場一致かいっ。
マリエル様お薦めの雑貨屋にみんなで向かうことになった。
レンガ造りの外壁に赤い扉の外から見ても、とても良い雰囲気のお店で、平民でも手が出る安価な髪飾りやアクセサリーに、ぬいぐるみなどが置いてある可愛い雑貨屋さんだった。
王都にはいくつか雑貨屋はあるが、ここも間違いなく人気店になりそう。
「ねぇ、セドリック。この髪飾り可愛い!」「マリエルの髪の色にはこちらのも似合うよ」
甘い甘い会話をされながら、セドリック様とマリエル様は当然の如く、仲良く手を繋がれ、楽しそうにいろいろと店内を見て回られている。
わたしはそれを微笑ましく見ながら、アーサーシュベルト殿下とは少し距離を取りつつ、殿下の後ろをついていく。
色とりどりのリボンが置かれている棚で、あるリボンが目に留まり足を止めた。
深いグリーンのベルベット生地で、銀色の刺繍が施してある。
「素敵…」
手に取ろうとしたら、隣から大きな手が伸びてきてそのリボンを取った。
「このリボン、エリアーナの月に照らされた雪のような白銀の髪に似合いそうだ」
えっ?殿下は以前、わたしの髪の色を「老婆の白髪」のようだとおっしゃっていましたよね?
「あ、ありがとうございます」
「しかもこのリボンの生地が俺の色だな。エリアーナはこのリボンが気に入った?」
そういえば、その深いグリーンのベルベット生地が殿下の深いグリーンの瞳と同じ色ですね。
「…はい。このリボン素敵ですよね」
殿下の顔が少し赤くなるのがわかった。
「これ、いつも手伝ってもらっているお礼にエリアーナにプレゼントしたいんだけど、いいかな?」
は?プレゼント?
殿下がわたしにプレゼント?
婚約して3年間、一度もなにも贈ってもらったことがない、プレゼントですよ。
「お礼だなんて、婚約者として当然のことをしているだけですので、プレゼントを頂くわけにはいかないです。」
慌てて、首を横に振る。
「俺がエリアーナにプレゼントしたい。僕の色のリボンをこの銀糸のような綺麗な髪につけて」
殿下は、わたしの髪をひと束掬って、そっと髪に口づけをした。
「殿下!」
「アッシュだよ。」
またしても、愛称呼びに訂正される。
いま、わたしの髪に口づけた!!
人目があるので動揺をなんとか抑える。
「アッシュにそんなことをして頂いたら、申し訳ないです」
「いままで、君になにも贈って来なかったことをいつも申し訳なく思っていた。本当はエリアーナにいっぱい贈り物をして、君の喜ぶ顔をそばで見たい。駄目かな?」
そう言われると、なにも言えなくなる。
「駄目じゃ…ないです」
俯きながら返事をした。
「…夢みたいだ。ずっと…一緒に選んでプレゼントしてみたかったんだ」
消え入りそうな声で殿下は呟くと、わたしの頭の上に優しく口づけた。
わたしは首から上から、ポンっと音がするように熱くなった。
間違いなく脳細胞がいくつか死んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます