第4話


 わたしを心配する両親や侍女達が嵐のように過ぎ去ってようやくひとりになれた。


 ふぅと一息つく。

 階段から転落して気を失っている時に見たあの夢。


 不思議な世界だった。

 見たこともないものばかり溢れていて、あれは一体どこなのだろう。


 そして、夢の中で借りた小説の登場人物が自分だった。


 小説の中のわたしは、アーサシュベルト殿下と恋愛をしていた。

 幸せそうな描写がいくつもあった。

 キスまでしてたよ。

 その先も少しあったね。


 現実は、エスコートされる以外では、手すら握ったこともないけど。


 キャロルという転校生がきてからは、よくもまあ、あれだけの意地悪をよく思いつくわと逆に感心するぐらいだったが、それぐらい嫉妬をするなんて、よほど殿下のことが小説の中のわたしは好きだったんだろうね。


 恋人であった殿下に裏切られ、卒業パーティーだなんて楽しいだけのイベントの最中に婚約破棄。

 小説の中のアーサシュベルト殿下よ。空気読もうよ。

 全く関係のない人は巻き込んじゃダメだよ。

 パーティーの盛り上がっている雰囲気をぶち壊してどうするの。

 大事な話をするときは、部屋に呼ばなきゃ。帝王学でも習ったよね?


 そして、最後は崖から海に身を投げてしまうのはあまりにも切ない。


 浮気をして、二股をかけるようなアーサシュベルト殿下が本来なら断罪されるべきだろう。


 でも、この夢はただのヘンな夢だろう。貴族令嬢の間で流行っている小説に心当たりはないし、わたしは頭を打ってヘンな夢を見ただけなのだろう。

 

 だって、まず殿下とわたしは幼馴染でも、愛し合っている恋人でもなんでもない。最初から全然違っている。


 わたしは名前だけの婚約者だ。


 殿下と恋愛だなんて、わたしの心の奥底に眠っている願望?

 ないない。

 1分でも早い婚約解消を願うだけ。


 身体がまだあちこち痛いせいか、酷く眠い。頭を激しく打ったためか、頭の中がモヤっとしている。

 考えもまとまらない。


 わたしは気がつけば再び眠りについた。

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