第3話

 夢の中なのだろうか。

 見たこともない世界だ。


「この小説、ベタで王道だけど、暇つぶしにはいいわよ。コミックにもなっているの。どっちがいい?」

「ありがとう。じゃあ、小説の方を借りて帰るね」

 わたしは1冊の小説を誰かに借りたらしい。

 その小説の内容は…


 公爵令嬢エリアーナはレークライン帝国の王太子殿下アーサシュベルトと幼馴染であり、そして婚約者だ。ふたりは同じ学園に通っていて、周りも認める恋人同士で仲睦まじかった。卒業まであと1年となったある日、キャロルという女子学生が転校をしてくることにより、ふたりの関係が変わっていく。エリアーナの婚約者であるアーサシュベルト殿下とだんだんと仲を深めていくキャロル。そのため、エリアーナは激しく嫉妬をし、キャロルにあの手この手で様々な嫌がらせをしてしまい、悪役令嬢エリアーナとなっていく。

 そして、卒業パーティーの日にアーサシュベルト殿下からとうとう婚約破棄と国外追放を言い渡され、絶望したエリアーナは崖から海に身を投げてしまう。



 そうそう、悲しい話なのになぜか気に入っちゃって、何度も読んだんだ。


 えっ?いつ、どこで読んだっけ?

 なにかを思い出しそう…で。

 

 この登場人物って、わたし?なのか。

 これって、なんだ…


「……リ…ナ、エリアーナ!」


 名前を何度も呼ばれて、目を開けると心配そうに覗き込んでいる両親達と見慣れた自分の部屋が目に映った。


 両親の説明によると、わたしのドレスの裾を踏んで躓いたアーサシュベルト殿下がわたしを巻き添えに一緒に階段から落ちたらしい。

 その時、殿下は咄嗟にわたしの腕を引っ張り、殿下に抱え込まれ、守られるように落ちたとのこと。

 母が、咄嗟の殿下の行動が素敵だったわ〜と目を輝かせながら説明してくれた。

 きっとそれは、わたしをクッション代わりにしようと殿下が咄嗟にしたのじゃないの?と思ってしまう。


 アーサシュベルト殿下は階段から転落した衝撃で、しばらく動くことができなかったらしいが、自分の婚約者だからとフラフラしながらも、自らわたしを抱えて医務室に運んでくれたらしい。

 まぁ、自分の体裁を気にして、わたしを運んでくれたんだろうけど。


ドレスだけでも重いのに…殿下、お疲れ様。次にお会いした時にお礼ぐらい言わせてもらいます。

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