第15話 ドント・ルック・バック


「サナエ、ミツヤから連絡は?」

「まだ来てないね!」

「敵は多いぞ……!」

「ウワナ様、ラガタンの装甲をナメて貰っちゃ困るッス。人型ならともかく、戦車モードになったラガタンは迫撃砲の直撃でも無傷ッスよ!」


 兵士の放つライフル弾がラガタンを掠めていく。格納庫に侵入したウワナ達三人組は、ラガタンに乗り込もうとしているとろをネオアトの兵士に見つかり、包囲されていた。


 サナエがコクピットから頭を出し、ライフルの照準を合わせながら撃ち返す。銃弾は確かにネオアト兵に命中しているのだが、敵の数は多く、攻撃は一向に緩む気配もない。


「エンジン、どうだ?」

「臨界状態ッス。いつでも発進できるッスよ!」

「分かった。だがまだ待て。ミツヤたちを置いていくわけにはいかねえ。連絡が入ってからだ」


 そのウワナの言葉を待っていたようにタイミングよく、無線の呼び出し音が鳴った。


「来たか!」

『……こちらミツヤ。無事にフアラと機体を回収したよ。これから脱出する……そっちは?』

「こっちも大丈夫だ! 外で会おう! よしハナエ、発進だ。サナエは頭を引っ込めとけよ!」

「了解!」


 サナエがコクピットに転がり込むのを合図に、ラガタンは急発進した。

「格納庫の扉が邪魔ッス!」


 操縦桿を握るハナエが叫ぶ。それを聞いたウワナが怒鳴る。


「ようしサナエ、ぶっ放しちまえ!」

「ラジャ!」


 サナエはコクピットの天井から照準器を引っ張り出し、狙いを澄ませてラガタンの主砲をぶちかました。放たれた弾丸は格納庫の出口に直撃し、それを木っ端みじんにした。空いた穴の向こうに青空が見える。


「「「いやっほおぉぉぉおう!」」」


 三人の声が同調する。格納庫から飛び出したラガタンが大空に舞い上がった。


「って、ウワナ様、落ちてる落ちてる!」

「下は岩だらけの地面ッスよ! 無事じゃ済まないッス!」

「ま、まさかこんな高い場所だったなんて分からなかったからよ!」


 そう、ネオアトの基地は荒れ地ばかりの鉱山地帯に擬装してあったのだ。鉱山というだけあってそれなりの高度がある。そこからラガタンは後先考えず飛び出してきたのだから仕方がない。ぐんぐん地面が近づいてくる。


「ハナエ、ラガタンって空は飛ばねえのか? 気球とかさ!」

「そんなもの、ついてるわけないでしょッス!」

「サナエ、地面に一発撃ち込んだらどうにか……」

「射角が足りないよ!」

「ち、ちくしょーッ! 俺たちの命運もここまでか!」


 ウワナが諦めかけたその時、がくんと機体が揺れ、不意に体が浮いたような感覚に包まれた。


「…………?」


 三人はそれぞれに辺りをきょろきょろする。モニターに映る地面がどんどん遠ざかっていく。


「浮いてるッス……」


 ハナエが呟いた時、


『おーい、大丈夫かい? 結構ギリギリだったけどさ』

「ミツヤ!」


 ミツヤからの無線にウワナはコクピットから飛び出し、モニターの死角になっている下部を覗き込んだ。そこにはファルアリトの青い機体があった。バーニアを目いっぱい吹かし、両腕でラガタンを持ち上げているのだ。


「やっぱりその機体、すげえぜ!」


 唸りを上げる強風に負けないよう、ウワナは怒鳴った。



「……良かったんですか、エモト隊長?」


 基地から離れていくファルアリトとラガタンを、格納庫に空いた穴からエモトとその部下であるキラムは眺めていた。


「おいおい、別に俺は逃がしたくて逃がしたんじゃないんだぜ? あいつらに上手く逃げられちまっただけだ」

「格納庫に誘導するような追わせ方をさせといて、よく言いますね」

「部下たちには後で俺から謝っとく。ああそうだ、侵入者はどうなった?」

「上手く逃げられました。恐らくゼネビルの手のものでしょう」

「レーギンとか言ったな? ウチの部隊に欲しいくらいだ」

「……これから、どうなさるおつもりです」

「あいつらの目標は分かってる。北の遺跡だ。あそこのダルマサンを使って空へ上がるつもりだ」

「ダルマサン?」

「百年前の打ち上げロケットだよ。……ま、そろそろ俺たちも本気でやるか。これで捕まるようならあいつらの実力不足っつーことでな」

「それでは、出撃準備ですか?」

「当たり前だ」


 心底面白くて仕方ないという笑顔で、エモトは言った。



◇◇◇

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