第11話 乱入者
『武器の使用はナシだぜ、ミツヤ!』
「何を今さら! 使ってたのはそっちでしょ!」
操縦桿を握る両手に力がこもるミツヤ。しかし、質量で劣っているはずのラガタンを押し崩せない。
『ほら、搦め手だ!』
不意にラガタンが力を抜いた。そのせいで前の方へつんのめるファルアリトに、ラガタンは足を引っかけようとする。
「まだまだっ!」
ミツヤは転びそうになるファルアリトを踏みとどまらせ、そしてその足を軸にラガタンに渾身の左ストレートを放った。が、ラガタンはそれをホバーで悠々回避する。
『はっはっは、ミツヤ、そんなものかよ!』
「チッ!」
ミツヤは高速で移動するラガタンを必死にモニターに捉えながらも、死角を狙って攻撃してきてはすぐに離脱する敵の動きに翻弄されていた。それはいつ撃墜されるか分からないという恐怖である。
その様子を見てウワナは、やはり相手は素人だと悟った。それならばこのまま押し切れば勝てる、そう踏んだのだ。だが、それはちょっとした油断であり、隙である。緊張状態にあるミツヤがそれを見逃すはずがない。
ウワナはラガタンをファルアリトの死角に潜り込ませ、再び一撃加えようと接近した。が、その瞬間信じられないことが起こった。ファルアリトが振り向いたのである。
「読まれていた!?」
彼は自分の動きが無意識の内に規則的になっていたのに気付かなかった。いくら一撃離脱と言えど、その動きが予測可能ならば、先回りして叩くのは難しくない。
「ウワナ、覚悟っ!」
振り向き様のファルアリトの蹴りがラガタンの腹部、つまりコクピットのある部位に直撃する。ウワナは機体の激震に何とか耐えながらも、しかし、ラガタンが倒れ込むのは防げなかった。
「やりやがるぜ、ミツヤ!」
起き上がろうとするラガタンに、ファルアリトが馬乗りになる。そしてそのままラガタンの頭部にパンチの雨を降らせるのだ。
「モニターが……! この、退けってんだよ!」
ブラックアウトしていくモニターに本能的な恐怖を覚えたウワナは、ラガタンの足をファルアリトのコクピットめがけて思い切り振り上げた。直撃する。そしてその衝撃でファルアリトがのけぞった隙に、その場から機体を急速離脱させた。
ウワナはラガタンの反応が鈍くなっているのに気付いた。このまま長引けば、装甲や質量で劣るラガタンが不利になるだろう。ウワナはあと一撃ですべてを決める覚悟を決めた。
一方のミツヤも、自由にさせたラガタンに再び一撃離脱の攻撃で嬲られるのを恐れていた。奇しくも、ミツヤもあと一撃で決めるしかないと思ったのだ。
向かい合う二機。奇妙な静寂。
そして二機は息を合わせたように同時にお互いに向かって加速し始めた。
「うおああああああっっ!」
「ああああああッ!」
近づいていく二機。その速度は爆発的に増していき、そしていよいよ接触の瞬間、お互いがお互いに対して振り上げた拳を下ろそうという時―――電磁力によって亜音速に達した弾丸が、二機の合間を縫うように大地を焼いていった。
爆発。
「な、なんと!?」
「これは!?」
巻き起こる爆炎に弾かれたように転がるラガタンとファルアリト。ミツヤとウワナがそれぞれの機体を立ち上がらせたとき、自分たちの周りを見たこともないSFが取り囲んでいることに気が付いた。それは鈍い銀色の、曲線的な形状をしていた。
「こいつは……なんだ?」
ウワナはそう呟きながらも、モニターのまだ生きている部分で謎のSFの画像を拡大し、そこに見覚えのあるマークがあるのを見つけた。
「ネオアトなのか?」
その時、ファルアリトのコクピットの中でミツヤは、フアラの呼ぶ声を聞いた気がした。咄嗟にフアラのいるトレーラーの方を振り返ってみれば、数名のネオアトの制服を着た男たちに取り囲まれるフアラの姿があった。
「フアラ!」
「野郎、サナエとハナエを!」
ウワナもまた、ネオアトの連中に捕縛されるサナエとハナエを見つけたのだ。二機は同時に動き出した、が、丸っこい銀色のSFに行く手を阻まれた。ウワナの推察通り、ネオアトのSFである。機体名をシルモといった。
「クソ!」
ミツヤが行く手を遮るシルモをどかそうとするよりも早く、ラガタンが肩の主砲を発射した。発射された弾丸がファルアリトの脇を潜り抜け、シルモに直撃する。
『ミツヤ、決着はまた別の機会だ。ここはひとつ共同戦線と行こうじゃねえか!』
「で、でも」
『デモもストライキもあるか! 意地より守らなきゃならねえものがあるだろうが!』
「わ、分かった! 任せる!」
ミツヤはファルアリトのバーニアを目一杯吹かし、煙を上げるネオアトの機体を飛び越えた。そして背後でラガタンが援護射撃をする音を聞きながらフアラへ駆けていく。
「フアラぁ!」
男たちに囲まれるフアラが自分の方を見た。ファルアリトが手を伸ばす。モニター越しに目が合った。恐怖と不安が入り混じった表情で、フアラの口が動く。
もう少しで届く―――そうミツヤが思った時、突然ファルアリトの背部に痛烈な衝撃が走った。
「な……っ!?」
地面に叩きつけられるファルアリト。
背後に受けたダメージはラガタンの主砲やヴァシルのバズーカ砲などの比ではなく、コクピットのショックアブソーバーでも殺しきれないほどだった。
結果として、ミツヤの意識は飛んだ。
「フア……ラ……」
どこまでもついて行くって言ったのに。暗くなっていく視界の中、ミツヤはフアラを一人にしたことを後悔した。
背後からファルアリトを撃ったのは、エモトの乗るSF、ゴルモだった。そのシルエットこそシルモと同じだが、そのボディは、他が銀であるのに対し金色をしていた。
「相当な装甲だな。ゴルモの携行レールガンの直撃を受けてあの程度とはな……」
コクピットの中で一人、エモトが呟く。モニターには倒れ込むファルアリトの姿があった。
『エモト隊長、人型戦車の捕縛、完了しました。パイロットはどうしましょう?』
「ウワナとかいう男だったな? とりあえず牢に入れとけ。処分は後から考える。それよりあの娘だ。どうなった?」
『無事に回収しました。他に二人ほど捕えましたが……』
「そいつらもとりあえず保留だな。用があるのは上の連中が言ってた娘だけだ。青いSFの回収が終わればすぐに撤収する。急げよ」
『はっ!』
「ああ、それと、戦車もどきの直撃を受けた奴は大丈夫か?」
『はっ、あのシルモなら無事であります』
「そうか。ただの悪ガキが扱うにしちゃ威力の高い砲弾だと思ってな。無事ならいい。撤収だ」
『はっ!』
無線が途切れる。エモトはネオアトの輸送車両に収容されていくファルアリトを眺めながら、ため息をついた。
「意外とあっけないもんだな。空の向こうの機体だってんで、少しは苦労するかと思ったんだけどな」
エモトは携行レールガンをゴルモの背中に固定すると、撤収を始めたシルモの部隊を追いかけるように機体を発進させた。
◇◇◇
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