第6話 昨日の敵は――。

◇◇◇


 ファルアリトを積んだ大型トレーラーは荒野を走っていた。


「まずはフアラの服を買わなきゃ。その妙な格好じゃ人目を引くから」


 ミツヤが助手席のフアラに話しかける。今もフアラは体に密着するパイロットスーツを着たままだ。


「でも、どこで」

「そりゃ市場でさ。この辺ならリーアの街が一番近い……ほら、見えて来た」


 ミツヤに促されるように正面を見たフアラは、丘の向こうに街並みがあるのを発見した。背の低い石造りの建物が立ち並んでいる。


「すごい」

「そうかい? 回収屋軍団の本部があるラグウの街はもっとすごいぜ」

「回収屋軍団?」


 フアラの顔が自分の方を向くのをミツヤは感じた。彼はちょっと得意げに、


「回収屋の緩い集まりさ。獲物の情報を共有しあったり、でかい仕事の協力を頼んだりできるんだ」

「ふうん」


 フアラが再び正面に視線を戻す。リーアの街はもうすぐそこだ。



 一方、先日ファルアリトを襲ったあの三人組もまた、リーアの街を訪れていた。三人は市場のある大通りを歩いていた。


「ウワナ様、この前のあいつは何だったんスかねえ?」


 背の低い少女―――ハナエがウワナに訊く。


「さあな。そういうマシンの性能みたいな話は俺よりもお前の方が詳しいだろ。主砲の修理、あてにしてるぜ」

「任せて欲しいッス! いやあ、どっかのバカが無理に連射なんてしなきゃ、壊れなかったッスけどねえ……」


 ハナエにじとっとした目で見られたサナエは、ふんと鼻を鳴らした。


「仕方ないじゃないか。まさか主砲を弾き返されるなんてあたしも思わないさ。それよりももっと主砲の威力をあげてくれよ、ハナエ。次あいつと戦うときは仕留めてみせるから」

「これ以上強くするなら、弾丸の方をどうにかしなきゃいけないッスねえ……。難しいッス……」


 と、突然ウワナが立ち止まる。


「どうしたんだい、ウワナ様」


 サナエの声に振り向いたウワナは、


「ここで俺はお前らとちょっと別行動を取らせてもらう」

「ええ? どうしてッスか?」

「あのマシンを倒すために助っ人を呼んであるんだ。俺はそいつに会いに行くからよ、ハナエとサナエはラガタンの整備をしといてくれ。日暮れまでには戻る」

「一人で大丈夫なのかい?」

「おいおい、あんまり俺をナメちゃいけねえ。泣く子も黙る悪徳回収屋のウワナ様たぁ俺のことだぜ!」


 それじゃラガタンを停めてあるところで落ち合おう、そう言い残してウワナは人ごみの中へ消えていった。


「ウワナ様、大丈夫ッスかねえ……?」


 ウワナの背中が見えなくなって、ハナエがぽつりと呟いた。サナエはため息をついて、


「あの人ならたとえ太陽が降ってきても死にやしないよ。あたしらはラガタンの整備をしなきゃね。ほら、行くよ」

「め、命令するなッス!」


 すたすた先を歩いていくサナエを、頬を膨らませて追いかけるハナエ。二人もまた、市場の賑わいへ消えていった。



「名前は?」

「ミツヤとフアラ、二人です」

「積み荷は?」

「SFが一機」

「分かりました。どうぞ」


 門番による入場審査を終えて、ミツヤはレンガ造りのゲートをくぐっていく。入場審査といってもほとんど手続き上のもので、特に意味を成しているわけではなかった。


 ゲートの先には舗装された道が続き、そしてようやく車両を駐車するスペースに出た。


 ミツヤは器用に大型トレーラーを道端に停める。


「さ、着いたよ。行こう」

「でも、ファルアリト、盗まれない?」


 フアラはさっきの簡単な質疑応答だけで人を通す門番を思い出しながら言った。あれで街の治安が守られているとは思えなかったからだ。


「そんなに心配はいらないよ。ウワナみたいな悪い奴はそうそういないから」

「本当?」

「それに、こういうところで盗みをした奴は『ネオアト』にやられるんだ」

「ネオアト?」

「治安維持組織さ。回収屋にも下手をやってネオアトに連れていかれた奴がいるって聞いたことがある。さ、行こう。降りて」


 ドアを開けて運転席から降りたミツヤに続くように、フアラも車を降りた。


「それと、これ」


 フアラはミツヤから大きめの布を渡された。広げてみる。


「これ、なに」

「あんまりじろじろ見られるのも嫌だろ? マント代わりにはなると思ってさ」


 体に巻いてみれば、ちょうど体全体を覆うくらいになった。フアラは歩きやすいように布を少し折り、脚部だけ布の外に出るようにした。


「うん。これならそんなに変じゃない。ついてきて」

ミツヤは石造りの街を慣れた風に歩き始めた。フアラは時々不安そうに後ろを振り返りながらもその背中についていく。


 路地を抜けるたびに人通りが多くなっていく。やがて二人は大通りに出た。道の両脇に露店のテントが並んでいる。


「ここが、市場?」

「そう。はぐれないようにしてくれよ」

「分かった」

「と言っても、俺も女の子の服を売ってる店なんてあんまり知らないんだよなあ……」


 ミツヤが辺りを見渡してそれらしき店を探していると、前から背の高い女と低い女の二人組が歩いてきた。ウワナと別れたサナエとハナエだ。サナエは鉄材を、ハナエは細かいパーツの入った袋を抱えている。


「ん、あんた、何か探してるのかい?」


 サナエがミツヤに声をかけた。


「ああ、この子に服を買ってやりたいんだけど」

「うん? 可愛い子じゃないか。お姉さんに任せなさい」

「そうそう。困ってる人には親切に、がウチらの合言葉ッスから」

「へえ、このご時世に良い人もいるもんだな」

「そりゃそうだよ。あたしらも悪いことはするけど、それだけ良い事もするんだ」

「ウチはハナエ。で、この背が高いのがサナエ。よろしくッス」

「よろしく。俺はミツヤで、こっちはフアラだ」

「ミツヤ? 不思議と知っているような名前ッスね……?」

「きっと何か縁があるんだろうさ。よろしくね、ミツヤ」


 ミツヤとサナエは握手を交わした。お互いに先日戦った相手だということを知らずに。



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