第3話 三人組
◇◇◇
一方、落下してきたファルアリトを遠くから双眼鏡で眺めていた三人組がいた。彼らは岩陰に横一列に並んで、ファルアリトの様子を窺っていた。
「なんだありゃ? 見たこともねえSFだ」
真ん中の男が驚きの声を上げると、
「少なくとも市場に出回ってるやつじゃないッスね、ウワナ様」
「どうします? 今のうちに奪っちまいますか」
その両端に並ぶ女が口々に答えた。背の低い方が言う。
「ウチらのラガタンがあれば、あんなひ弱そうなSFいちころッスよ!」
「そうそう、あたしに任せてもらえりゃ一発で撃ち抜いてやりますよ」
「そんなこと言って、サナエはすぐ砲身を駄目にするッス。交換する方のことも考えて欲しいッス」
「何だって? ハナエこそラガタンの主砲は連射がきくようにしてくれって言ってるのにやってくれないじゃないか。扱う方のことも考えて欲しいね」
「な、なにをーッス!」
「あたしとやろうってのかい? いい度胸じゃないか」
「も、もう許せないッス! 今日こそコテンパンにしてやるッス!」
「うるせえぞ二人とも! ちょっと黙ってやがれ!」
ウワナと呼ばれた男の怒鳴り声に、言い争っていたハナエとサナエの二人はしゅんとなった。
「ごめんなさいッス」
「そんなに怒らないでくれよ、ウワナ様」
ウワナは何かを考えるように腕組みをして動かない。そして、
「よし、今日のところは引き上げだ」
「「え?」」
サナエとハナエの声がハモる。
「あ、さてはウワナ様、この前の仕事で慌ててミスしたのを思い出したんスね?」
「散々遺跡を掘り散らした挙句、出てきたのは使い道も分からないでかい鉄の塊だったからねえ。あの時はラガタンも壊れかけたし、大変だったよ」
「馬鹿野郎、俺が失敗を気にするようなタマかよ」
「ええ? それじゃどうしてッス?」
「ふん、そんなことも分からねえとはな。夜な夜な仕掛けるってのは卑怯でいけねえだろ。やっぱ白昼堂々攻めてこその男ってもんだ!」
そう言って、不敵な笑みを浮かべたウワナは胸を張った。
「さすがウワナ様! カッコいいッス!」
「やっぱりあたしらのリーダーは男の中の男だよ!」
「わっはっはっは。やっぱりそう思うかお前たち。それじゃ明日に備えてラガタンの調子を絶好調に仕上げようぜ! 退却だ!」
ウワナは勢いよく身を翻すと去っていった。その背中をハナエとサナエが追っていく。
◇◇◇
降り注ぐ朝日に目を覚ましたフアラは、自分が見慣れないベッドに寝かされていることに気が付いた。驚いて体を起こすと、頭を天井にぶつけ、思わず頭を押さえる。少し涙も出た。
周りを見て見れば、あまり広くはない車の中で、自分の他に人はいないようだった。
体にかけられていた毛布を脇へ畳んだフアラは、今度は頭をぶつけてしまわないように中腰のまま、ベッドから前部座席へ移りドアを開けて外に出た。
外は一面、終わりのない地平線が続いていた。フアラは感動した。
ふとフアラは、なぜ自分はこんなところにいるのかと疑問に思った。着ているものはパイロットスーツのままだが、ヘルメットと肝心の機体が見当たらない。
「やあ、目が覚めた?」
突然の頭上からの声に顔を上げ振り返れば、車の屋根に上ったミツヤがフアラに人懐っこい笑みを浮かべていた。そこでようやくフアラは、自分が大型トレーラーの運転席で眠っていたのだということに気が付いた。そして、そのトレーラーの荷台にはフアラの乗っていたSFが、幌を被った状態で載せられていた。
「あ……ファルアリト……」
「ファルアリト? それって、あの機体の名前?」
フアラが頷く。
「夜のままにしとくと、他の回収屋に見つかっちゃうかもしれないからね。ああして隠したんだ」
ミツヤはフアラの顔に不安げな色が浮かんだのを見て、少し焦った。
「ご、ごめん。勝手に触っちゃって、嫌だったかな?」
「どう……動かしたの?」
「トレーラーの荷台にはクレーンが付いてるからさ、あれでやったんだけど」
「そう」
フアラの表情がいくらか和らいだのを見て、ミツヤが、
「君、この辺の子? もしそうならすぐに送ってあげられるけど」
「……私、は……」
フアラが口ごもる。大きな瞳が揺れる。再びフアラの顔が不安でいっぱいになっていく。
「何か、言えない事情でもあるの?」
首を振るフアラ。
「……思い、だせないの」
「え?」
「覚えてない。ただ頭に残ってるのは、うちゅうに戻らなきゃってことだけ」
「うちゅう……。そう言えば昨日も同じこと言ってたけど、うちゅうって一体何のこと? 君の家の名前?」
「空の向こう。私は多分、そこから来た」
◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます