第11話

ヴェルナーと会わなくなってから早二週間。

時折ヴェルナーの様子をリュディガーに聞いたりしていたが


「別にいつもと変わりありませんよ?」


いつ聞いても同じ答えが返ってきた。

最初の内は「まあ、私の事なんてその程度よ」なんて思っていたが、一週間を過ぎた頃から何故か苛立つ様になってきた。


考えてみればヴェルナーと二週間も顔を合わせないのは初めての事かもしれない。

軽く挨拶程度だった時もあるが、ほぼ毎日と言っていいほど顔を合わせていた。


──なんで私がイライラしてんのよ。


私が苛立つ理由なんてないし、むしろ喜ぶべきところなはず。

それなのに……


「……守ってくれるって言ったじゃない……」

「え?」


思わず心の声が漏れていたらしく、リュディガーが振り返った。

その瞬間、聞かれていた恥ずかしさと自分の口から思いもよらない言葉が出た戸惑いにどうしていいか分からず、顔を逸らし誤魔化した。


「な、何でもない!!」

「……へぇ~……」


リュディガーはそれ以上は追求してこず、ホッと安心した。


「──そう言えば、今度王太子の誕生祭が行われるじゃないですか?前日の夜会のエスコートを私が承ります」

「えっ!?だって、それは……」


王太子の誕生祭の前日は前夜祭として夜会が行われるのが恒例なのだが、婚約者であるヴェルナーと行くのがいつもの決まりだったはず。ってかそれが普通。


婚約者じゃなくて婚約者の弟にエスコートされるなんて、いい注目の的じゃない。


ヴェルナー側の人間は喜び馬鹿にしてくるし、リュディガー側の人間には妬まれる。

どちらにしても地獄でしかない。


「兄様はアリアの接近禁止命令が解けてません。アリアを一人で行かせる訳には行きませんしね。因みに、この事は父上にも許可をもらっております。当然アリアのお父上にもね」


やられた……

父様とおじ様の許可を取ってしまえば私は何も言うことが出来ないと言うことを分かってて先手を打ったのね。


──私が困るって分かっててやってるんだからタチが悪い。


頭を抱えながら溜息を吐きながらリュディガーを恨めしそうに見てみるが「ん?」と、とぼけた顔をしているのがなんとも憎らしい。


「──あぁ、それと、兄様に見繕う令嬢が決まりましたよ」

「えっ!?もう!?」

「えぇ、早い方がいいと思いまして。相手は伯爵家のご令嬢ですが兄様の事を相当好いているらしくて、二つ返事で快く了承してくださいましたよ」


「良かったですね」と微笑むリュディガーだったが、胸の奥底がモヤとなんか嫌な感じがした。


──……あれ?嬉しいはずなのに、嬉しくない……?


戸惑っている私に「どうしました?」とリュディガーが問いかけてきた為、慌てて「何でもない」と取り繕った。


リュディガーの計画はこうだった。


夜会で護衛を務めているヴェルナーに仲間の騎士が声をかけ会場の外に出す。

そこにお相手の令嬢が具合悪そうにしゃがみこんでいる。

女性を無下にできないヴェルナーは休める場所へ令嬢を運ぶはずだ。令嬢には前もって部屋を指定あるので上手く誘導するように指示しておく。

あとは、二人が入ったのを確認して中から開けれないようにして、朝まで二人きりの状態にする。──と言うもの。


──いや、これ引っかかる?


確かにヴェルナーは女性に優しいが、警戒心は人一倍あるけど?


私が疑念の目で見ていると、リュディガーが悪戯に笑った。


「大丈夫ですよ。兄様の事は何でも知っていると言ったでしょう?部屋に仕掛けを用意しておくので安心してください」


この時この仕掛けが何なのか、聞いておけばよかったと後々後悔する事になるとも露知らずに……



❊❊❊❊❊❊



ヴェルナーと会わなくなって一月が経とうとしていた。

今日は前夜祭当日。


上手く行けば待ち望んでいたヴェルナーの婚約者と言う肩書きは無くなる。

それなのに、何故だか気分が乗らない。


──張り紙事件の犯人も未だに掴めぬままだし……


溜息を吐きながら前夜祭に向かう準備を進めていると、ノックする音が聞こえた。


「アリア」


そこには礼装服を身にまとったリュディガーが立っていた。


「わぁ~……リュディガー今日は一段と輝いてるねぇ~」

「ありがとうございます。アリアも素敵ですよ?」


いつもは下ろしている前髪も、今日はしっかり整えられ顔面丸出し。これはもう今まで前髪で隠されて軽減されていた色気がMAXの状態。


それと比べられる私の気にもなって欲しい。

今日の私はリュディガーに合わせて、いつもよりシックな色合いで落ち着いた女をイメージしたドレスを選んだ。

少しでも色気を出そうと胸元が空いているものの卑陋にならず、大人の女性を感じさせられるものだ。……多分。


──私に大人の女性を演じさせるのがそもそも間違ってんのよね。


不貞腐れながらリュディガーを見ると、相変わらず目が眩しい。


「あぁ~……行きたくない……」

「おや?それはいけませんよ?」

「いや、行くけど行きたくないの」

「また訳の分からないことを言い出しましたね……」


リュディガーは眉間にしわを寄せ困惑した顔をしていた。

そりゃそうだ。私の気持ちなんて分かるはずもなかろう。


「さあさあ、駄々を捏ねている場合じゃありませんよ。もう出ないと時間がありません」

「えっ!?もうそんな時間!?」


気づけばもう夜会が始まる時間が迫っていた。

慌てて身支度を済ませ、慌ただしく外へ出た。


遂に婚約破棄に向けて歯車が動き出した。

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