第10話
「私が協力しましょうか?」
今、目の前の男はそう言った?
「兄様の事はアリアよりも私の方が熟知していますし、何よりあの人の好みをよく知っています。屋敷に帰った後のことなんてアリアは知らないでしょう?
いつもの笑顔に戻り淡々と語るリュディガーの言葉に、私はそれもそうだと納得しつつも、リュディガーが味方になってくれる事に驚いた。
仮にも兄の婚約者である私が婚約破棄したいと言えば、普通は止めるはず。しかもヴェルナー有責で……
確かに、この兄弟は幼い頃からお世辞にも仲が良いとは言えなかったが、悪くもないはず。
基本的にヴェルナーがイライラしていた記憶しかないけど。
「……協力するって、根本的に何をしてくれるの?」
とりあえず協力をお願いするかどうかはさて置き、何をしてくれるのかを聞く。
「そうですね……例えばですけど、兄様の好みの女性を部屋に二人きりにさせて一晩閉じ込めてみるとか?何も無くとも未婚の男女が一晩一緒にいたという事実は出来ますから。アリアには有利になるでしょう?後は……」
私が考えもしなかった事を次々に口していく。
いつの間にか切れ者になっていたリュディガーが急に頼もしく見えてきた。
「──……とまあ、こんな感じですがどうでしょうか?」
「す、凄いわ!!流石リュディガーね!!完璧な作戦だわ!!」
パチパチパチッと手を打ちながらリュディガーを褒め倒し、私は即決でリュディガーと組むことに決めた。
その様子を見ていたエリザは何処か困惑した顔をしていた。
「……まあ、わたくしは止めませんけど、
所々強調するように言うエリザを不思議に思いながらも承諾した。
エリザが言う通り私がお茶に誘ったし、元よりエリザは協力する事を嫌がっていたから別に無理強いするつもりは無い。
「……こんな事がヴェルナー様にバレたら──」
「エリザ嬢」
エリザの言葉を遮るようにリュディガーがエリザを呼んだかと思えば、エリザはビクッと肩を震わせ顔色を悪くして黙り込んでしまった。
「エリザ様?」
「い、いえ、なんでもありませんわ。……これは、まずいですわね……」
「え?」
「いいえ、お気にならさず。こちらの話ですわ」
私が心配して声をかけたが誤魔化すようにお茶を口にした。
その表情は何やら困惑と言うか焦りが垣間見えた。
その後は普通に世間話をして別れた。
時折エリザがヴェルナーの事を口にしようとすると、リュディガーが口を挟んで来たりしてきたが楽しい一時だった。
こんなに和やかなお茶会は初めてだったから。
私がお茶会に行けば、陰口やら嫌味を言われて最後までいた事ないし、うちでお茶会をやったのは今回が初めて。
だからエリザが来てくれて凄く嬉しかった。
まるで付き合いたてのカップルの様に「次はいつ会えるかなぁ~」なんて、別れてすぐに次に会うのを楽しみにしていた。
「……アリア、兄様とは本当に婚約を破棄するつもりですか?」
スキップしながら屋敷に戻る私の背後からリュディガーの落ち着いた声が聞こえた。
振り返ると、真面目な顔をしたリュディガーが私を見下ろしていた。
あまりに近くにいたもんだから反射的に後退ろうと一歩足が後ろに下がった所で腰を引かれ逃げれなくなってしまった。
「えっ……?い、いや、本気も何も本気じゃなきゃリュディガーに協力頼まないよ?」
リュディガーの胸に手を置き、出来るだけ距離を取ろうとするがビクともしない。
──あぁ、やっぱり何だかんだ言っても兄が有責にするのは反対なのかな?
今更私を説得しようとしてるのか?それともヴェルナーに告げ口するとか?
まあ、リュディガーに限って後者はないと思うけど。
色んな憶測が脳内で飛び交う中、私の身体がゆっくり離れた。
ようやく解放されたと、ホッとしたのも束の間リュディガーの顔を見てゾッとした。
「……そうですか……では、本気でやらせてもらいますね」
──ヤバい……人選ミスったかも……
私の顔を一切見ず明後日の方向を一点に見つめ言い切るリュディガーを見て、やっちまった感をヒシヒシと感じた瞬間だった。
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