第8話 ヴェルナー視点
僕には幼い時から両親の決めた婚約者がいる。
二つ年下の笑顔が可愛く、綺麗な亜麻色の髪をしている女の子アリア・レーベルだ。
アリアと初めて会ったのはアリアがまだ赤ん坊の頃。
両親同士が仲が良く、度々こうして遊びに来ていたのだが会えたのはアリアが生まれて半年になった頃だった。
この当時、僕には兄弟がいなく、人見知りしなかったアリアは僕の顔を見てキャッキャッと笑いながら僕の指を掴んだ。
その瞬間、感じたことの無い感情に溢れた。
目の前の小さな生き物が堪らず愛おしく、この笑顔を誰にも渡したくない。この小さな手を誰にも触れさせたくないと。
「どお?初めて婚約者に会った感想は?」
アリアの母親が僕に声をかけてきて、現実に戻された。
「……おばちゃん、この子がホンマに僕の婚約者……?」
「そうよ」
僕の肩に手を置き、愛おしいそうに我が子を見ながら僕に言った。
「じゃあ、今すぐ僕にくれんか!?」
「あら?」
「僕が育てたる!!だから僕にちょうだい!!」
「あらあら、まあまあ……ふふっ」
アリアの母親は微笑ましいと笑っていたが、僕は本気だった。
本気でアリアが欲しいと思った。
まあ、その後すぐにうちの親が来て思いっきり殴られたけどな。
それからの僕はアリアに会う為にレーベル邸を訪れる様になった。
アリアは僕を見ると笑顔で擦り寄ってきて抱っこを求めてくる。それが堪らなく嬉しくて、愛らしくて、一生抱きしめていたい気持ちだった。
幼いながらに芽生えた恋心は一般的に言われている淡いものなんて可愛いものじゃなかった。
アリアしかいらない。アリアだけが僕を見てくれればいいと、自分で解るほど酷い独占欲が頭の中を駆け巡った。
僕はこの気持ちを隠しつつ、いい幼なじみ、いい婚約者を演じた。
アリアに近づく男を牽制しつつ。いくら使用人だろうが許さなかった。
大人達はそれを微笑ましいと笑いながらみていた。
まずは周りの人間から固めようと思っていたから、この反応は好都合だった。
アリアとの関係も順調で、このままいい関係が続くと思っていた。
僕の弟、リュディガーが生まれるまでは……
生まれたばかりの頃はまだ良かった。特に何も出来ないからな。
半年を過ぎ、自分の意志を持ち始めた頃からが問題だった。
レーベル邸に行こうとすると必ずリュディガーが付いてくるようになったのだ。
僕は何度か一人で行こうとしたのだが、その度母に見つかり拳骨をもらった挙句、リュディガーを連れてレーベル邸を訪れるという事をくりかえした。
アリアはまだ赤子の雰囲気が残っているリュディガーをひどく可愛がった。
アリアは弟として可愛がっているんだと頭では分かっていた。分かっていたが、今まで僕だけに向けられていた笑顔が
その苛立ちをあろう事かアリアにぶつけてしまった。
「ヴェルナー、面白い本あるんだけど……」
「子供騙しの小説がおもろいの?」
「ヴェルナー……一緒に遊ばない?」
「僕は今忙しいねん。一人で遊んどき」
完全な八つ当たり。
そんな事を繰り返した結果、アリアとはことある事に言い争うことが増えていった。
そんな僕らをリュディガーがほくそ笑みながら見ていたことは気づいてる。
リュディガーがアリアを狙っているのは知っている。
その為に、自分に言いよってきた令嬢を僕に仕向けているのも知ってる。
僕は良くも悪くも父親似で、女を無下に出来ない体質なのだ。
それに比べてリュディガーは上手く足らい、こちらの思うように仕向けるのが上手い。この母親譲りの口の上手さは心底羨ましい。
そんな僕だから婚約者のアリアが疎まれていることぐらい容易に想像できる。
危害を加えようとした令嬢は先手を打って
話し合った令嬢は
だが、その網をくぐり抜けて遂にやらかした令嬢がいた。
初めての事にアリアは震えて僕の腕の中で泣いた……
そんなアリアを見て、ギリッと唇を噛んだ。
──絶対許さへん。
すぐに犯人捜索の為に動いたが、塵一つ見つからなかった。
報告する為にレーベル邸を訪れると、アリアに護衛を付けると言い出した。
それは僕的にも賛成だったが、問題はその護衛につく騎士だ。
「なんで、こいつがおんねん!!アリアの護衛なら婚約者の僕がやるんが普通やろ!?」
思わず叫んでいた。
まさかリュディガーを出してくるとは思いもしなかった。
しかも、しばらくアリアに会うなとまで言われた。
両親はリュディガーもアリアに好意を寄せているのは知っているし、僕がアリアを心底愛しているのも……
それなのに何故!?
絶望と悲壮感に飲み込まれそうになっていた時
「婚約するならリュディガーが良かった……」
耳を疑う言葉が聞こえたような気がした。
そこからは良く覚えてない……
けど、部屋を出る時リュディガーが勝ち誇ったような顔は忘れない。
──絶対渡さへん。
アリアは僕のもんや……!!
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