第7話

ヴェルナーの弟であるリュディガーもおじ様と同じ道を歩むべく騎士の道を選んだ。

リュディガーは早く一人前になりたいらしく、誰よりも訓練を詰み三歳年上のヴェルナーと並んで見習い騎士になったのだ。

とは言っても、兄であるヴェルナーにはまだ一度も勝ててないらしい。


昔一度何でそんなに早く一人前になりたいのか聞いたことがある。

その時は「守りたい子がいる」と言っていたが……

その子が誰なのかは教えてはくれなかった。


「アリア?」

「──ぬ゛おっ!?」


自室の机で物思いに耽っていた所に、リュディガーが顔を覗き込んできたので椅子ごとひっくり返る所だった。


「ふふっ……自分の世界に入り込んだら周りが見えなくなるのは変わっていないですね」

「……リュディガーは大分変わったわね……一瞬、誰だか分からなかったわよ」


体勢を戻しながらリュディガーと何気ない会話をしているが、内心バクバク。

こう言ってはなんだが、私はヴェルナー以外の成人男性にあまり免疫がない。

いくら幼い頃から知っている仲でも急に大人の男の顔をしてこんな間近に顔が来たら心臓が飛び跳ねるのは不可抗力ってもんだ。しかも色気ダダ漏れ、垂れ流し状態の奴がね。


「……ねぇ、先程の言葉は本音ですか?」

「え?」


先程……?先程、先程……………

あっ!!もしかして『リュディガーと婚約したかった』ってやつか!?


リュディガーは距離を詰め、その碧眼の瞳で私の目をじっと見つめながら言ってきた。

もうこの時点で私の心臓は破裂寸前。


──近い近い近い!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!


こんな状態でまともな判断が出来るわけがない。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」


必死に顔を逸らそうとするが、それをリュディガーが許してくれない。

せめて距離だけでも取ろうと抗ってみるがビクともしなかった。

あんなに幼く泣き虫だった子が、こんなに逞しく育ったことは嬉しく思うが……これは違う!!!


「……ねぇ、教えて?」


耳元で優しく囁かれ、その行動は私のキャパを優に超えてきて遂にはプツンと意識を失ってしまった……



❊❊❊❊❊



次に目を覚ました時には自分のベッドの上で、横にはクスクスと笑うリュディガーの姿があった。


──完全に揶揄われてる。


布団の隙間から顔を少し出し「小さい頃は可愛かったのに」と睨みつけながら精一杯の強がりを言ってみたりした。


「そんな可愛い顔して言われても怖くありませんよ?」


嘲笑いながら返り討ちにされたけどね。

流石はおじ様の息子で、ヴェルナーの弟……女の扱いに慣れてる。


──血は争えないわね。


「よいしょ」とベッドから起き上がり、リュディガーと向き合った。


「改めて、宜しくお願いします。リュディガー」

「こちらこそ。私の命にかえてでもお守りしますよ?姫」


さっきはちゃんとした挨拶が出来なかったと思って右手を出すと、リュディガーが握り返してくれた。

しばらく見つめあっていると、どちらかとでもなく笑い声が湧き上がった。


「あはははははは!!!私は姫って柄じゃないわよ!!」

「いいえ。私の姫はアリアだけですから」


涼しい顔をして当然のように言い切るリュディガーに呆れた。

幼い頃から私の後をついて回ってきて離れなかったリュディガー。

ヴェルナーが何度も離そうとしたけど、リュディガーは泣いて嫌がり、最終的には私もヴェルナーも諦め三人で遊ぶ事が多かった。

これは俗に言うシスコンってやつだ。リュディガーも私の事を本当の姉だと思ってくれているんだなと思うと凄く嬉しかったのを覚えてる。


「──本当に、大きくなったわね」


私がリュディガーの頭を撫でると、リュディガーはボンッと顔を赤らめた。

予想だにしていなかった反応にこちらも驚いたが、狼狽えるリュディガーが可愛くて、面白くてついつい悪戯心に火がついてしまった。


「おや?おやおやおや?どうしたのかね?リュディガー君?お顔が真っ赤ですよぉ?」


顔を手で覆って必死に隠そうとしているリュディガーを揶揄いながら覗き込んだ瞬間、視界が反転した。

ポスンと柔らかい感触を背中に感じて、その感触からベッドの上に押し倒されたのだと思った次の瞬間、ギシッと私の上にリュディガーが乗りかかってくる気配がした。

ここまで来ると流石にまずい。警告音が鳴り響いている。


「ご、ごごごごめん!!お姉ちゃん、ちょっと調子に乗っちゃったかなぁ~?……なんて……」


必死に取り繕うとするが、リュディガーの目は獲物を狩る目で私を見下ろしている。


──まずいまずい!!!変なスイッチ押したか!?


第一ボタンに手をかけながらペロッと舌なめずりをする姿は息を飲むほど妖艶で思わず目が奪われてしまった。


えげつないほどいい男だなぁ~……なんて思ってたら、息がかかるほどの近い距離まで顔が迫っていて「……アリア……」なんて囁きながら私の頬に手が触れたもんだからビクッと身体が震えた。

いよいよまずい!!と思った時


「アリアちゃ~ん!!!………………ん?」


勢いよくドアが開かれ、笑顔のおば様と目が合った。

そして、その顔は一瞬にして般若のような顔に変わった。


「……っ己は人様の大切なお嬢さんに何してくれてんねん!!ウチの男共は猿以下か!!??」

「は、母上……!!これはごか──……!!」

「誤解も蚕もありゃへん!!──こいっ!!兄弟共々そのだらしのない下半身教育したる!!!」


リュディガーはおば様に襟首を掴まれて引き摺られる様にして部屋を出て行った。


──た、助かったァ。

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