悲運な口裂け女

「そこの綺麗なお姉さん」

 男は街灯の下に立つ女に声をかけた。

「…私?」

「そうだよ~他に誰がいるのよ。もし暇してるんだったら俺と遊ぼうよ」

「…私…そんなに綺麗かしら?」

「綺麗じゃなかったら声なんてかけないよ。こんなにスタイルのいい人なかなかいないよ」

「…そう…こんな顔でも?」

 女が振り返りマスクを外すと、耳のあたりまで口が裂けた恐ろしい顔が現れた。

「ひ…ひえ~!化けもんだ!助けてくれ~!」

 男は大声で叫びながら走り去っていった。


 私は都市伝説でも有名な口裂け女。男なんて皆バカでスケベな生き物。最低よ。そんな男たちを驚かすのが私の生きがい。さっきの男の驚いた顔ったら本当に笑えたわ。あと何人バカな男が私に声をかけてくるかしら?

「お嬢さん」

 そんなことを考えていると、五十代後半ぐらいの三人組の男が声をかけてきた。

 さっそくきたわね。口裂け女はニヤニヤしながらいつものように言葉を返した。

「…私?」

「その通り。こんなに綺麗なお姉さんが夜道に一人でいたら危ないよ」

「…私…そんなに綺麗かしら?」

「ああ。本当に綺麗だよ。おじさんたちの今晩のお相手してもらいたいもの」

「…そう…こんな顔でも?」

 口裂け女はマスクを外し、恐ろしい顔を見せた。

「ほぉ、こりゃ珍しい」

 男たちは意外な反応をみせた。

「私の顔を見ても、驚いたり怖がったりしないの?」

 口裂け女は不思議そうに聞いた。

「私たちは動物学者なんだよ。君のような珍しい生き物を見るのは初めてでね。是非とも君を私たちの研究所で研究したい。おい、お前ら。この女を捕まえろ」

「嫌よ!やめて!」

 口裂け女は男たちに連れていかれてしまった。

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