第95話:いざ、出撃!!

 昭和18年1月下旬、サンティエゴ基地一帯に出航を知らせるラッパの音が響き渡る。


「出航用意!!」

戦艦“大和”艦橋にて有賀艦長が号令をかける。


「ラッパを鳴らせ!」

航海科の乗員が甲板に出て力一杯吹くと清らかで雄大な音が響き渡る。


「出航用意! 各索放せ」

甲板乗員が次々とロープを外していき最後のロープを取り外す。


艦橋では「両舷前進微速、面舵!」


有賀艦長が操艦号令をかけると艦長の操艦号令を艦橋内に伝達されて操舵員が操艦号令のとおり舵を取る。


 戦艦“大和”はゆっくりと桟橋を離れていきその桟橋には見送りの人達でいっぱいであった。


「でかいな! 流石世界最大の戦艦だな」


 基地を護る陸軍兵の一人が感嘆の声を上げる。

 その情景は他の桟橋でも同じ景色が見られている。


 第6駆逐隊“雷”でも工藤艦長以下、手が空いている乗員達が甲板に並んで敬礼すると答礼として陸軍兵も敬礼する。


 他の艦艇でも全く同じことが起こっている。


 司令部が置かれている建物の屋上で樋口大将・栗林中将・牛島中将が“大和”を見送りながら敬礼していた。


「いよいよ……雌雄を決する時が来たのだな。最初で最後の戦いで終わり講和が結ばればいいが……こればかりは保証できないし一寸先は闇だ」


「仮に海軍さんが勝っても私達が敗北すればどっちみち講和は夢の又の夢になるでしょうね?」


「情報筋に寄るとアイゼンハワー率いる軍団が到着するのは明後日だとの事です」


 最期に言葉を発した栗林が答えると樋口は無言で頷くと防衛設備はほぼ完成状態でギリギリで作動させることが出来ると言う。


「ヤンキー魂を我ら大和魂で打ち破ってやりましょう」


 牛島の言葉に他の二名も頷く。


「この戦いに負ければ我らは間違いなく生きて祖国に戻れないばかりか歴代の勇士たちが眠る靖国の皆にも顔向けができないし……石原元帥に胸を張って報告できない」


 三人が再び湾内を見ると速度を上げて行く“大和”を始めとする駆逐艦隊が次々と速度を上げていく。


「……よし! 我らも負けていられないぞ? アイゼンハワーの尻を蹴飛ばしてやろうではないか」


 そう言うと再び最終点検のために各防衛施設を見回るのであった。


♦♦


 広大な湾を出て太平洋に躍り出た“大和”以下の艦隊は隊列を組んで南下する針路を取り速度を上げる。


 だが、直ぐにある問題点が発生して艦橋で会議が始まる。


「このまま直進すれば超巨大台風に直撃します。ああ、この地域ではハリケーンと言われているのですが日本の台風と規模が全く違います」


 気象班長が説明すると皆も唖然とする。


 何しろ、中心気圧830ミリバールで風速90メートルの前代未聞の嵐が吹きあれているのである。


「司令官に具申します! このままハリケーンを迂回していきましょう」


 航海参謀の言葉に有賀艦長もその他の参謀達も頷くが木村はじっと目を瞑って何か考えていたが目を開けると予想を遥かに超える内容を話す。


「いや、“大和”単艦のみでハリケーンに突入して敵艦隊のど真ん中に躍り出る。他の艦艇は全速力でハリケーンを迂回して“大和”が全艦艇を相手している背後から突撃するのだ!」


 この案に他の皆が唖然としていたが直ぐに反対の声が上がったが木村はドスの効いた声で再び喋る。


「我々は戦争しているのだ! 子供のチャンバラごっこではない! それに相手は我が艦隊の十倍の戦力だ。正攻法では完勝は無理だが敵が全く予想していない事を成し遂げて初めて勝利の女神も微笑むという事だ。なあに、この69,000トンの世界最強の戦艦がそう簡単に嵐で沈むわけはないし沈んでたまるか。必勝の信念を以てすれば鬼神をも叩き潰すだろう」


 木村の言葉に皆がお互い顔を見合わせると頷きあい有賀艦長が木村司令のお言葉に従いましょうという。


「長官のおっしゃる通りです! 我々はこれから雌雄を決する戦いに赴くのです。やりましょう! 確かにこの“大和”であれば突破できると私も確信します」


 艦長の言葉に他の参謀達も頷き、作戦変更内容が他の艦艇にも伝えられる。


 水雷戦隊司令官『田中頼三』中将も珍しくムムムの表情をしたが直ぐに高笑いすると面白いではないか! あの“大和”なら大丈夫だと頷く。


 各駆逐隊でも驚きの声で支配されたが直ぐに歓声を以て応援に入る。


 “大和”以外の軽巡を含む駆逐艦は針路を変更して“大和”から遠ざかっていくが皆が帽子を振って見送ってくれている。


 それを見ながら木村達も敬礼を以てそれを受け入れていた。

「ふふふ、大和魂の神髄をヤンキーにぶつけてやろうではないか!」


♦♦


 この“大和”の進路変更を見ていた伊400では日下艦長が笑みを浮かべながら橋本に流石は木村司令に有賀艦長だと絶賛する。


「その判断は本当に正しいね。このままハリケーンを突破すれば米艦隊の中枢に出現するのだからな? アウトレンジで砲撃すれば敵は大混乱に陥いり背後から迫ってくる水雷戦隊に気が付かない確率は100%に近いと確信できる。そのまま狩場として暴れまわれば敵さんは壊滅するのは確実だな」


「ではこのままパナマ方面の敵艦隊は木村司令官にお任せして我々は予定通りに南雲機動部隊の援護に回るのですね?」


 橋本の言葉に日下は頷く。

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