第94話:出撃前夜②
戦艦“大和”が46センチ砲弾の積み込み作業をやっている間、他の艦艇も呆けているのではなくそれぞれ忙しく動いていたのである。
第6桟橋では第6駆逐隊の“暁”“響”“雷”“電”の4隻が縦横で並んでいて魚雷を始めとする各武器を搬入していたのである。
戦艦や空母と違って駆逐艦や潜水艦は全乗員数が圧倒的に少ない人数なので意思疎通もスムーズに行う事が出来るばかりか家族同然みたいな付き合いになるため非常に団結力が凄かったのである。
駆逐艦“雷”では『工藤俊作』中佐兼艦長自ら他の乗員と共に作業に没していたのである。
「よし、酸素魚雷の規定数の積み込みは終わったが今回の戦いは想像を絶する厳しい戦いになるだろう。だから危険は承知だが余分に酸素魚雷を積み込むことにするから保管方法には気を付ける事だ」
61cm3連装魚雷発射管3基9門を持つ“吹雪”型駆逐艦であるが一番、有名なのが先日、行われた布哇沖海戦で米海軍艦艇乗員400名を救助して布哇まで送り届けた事であった。
従来なら軍法会議間違いなしで非国民の烙印を押されたかもしれなかったが時の最高司令官『石原莞爾』大将は大いに褒め称えて感謝状までくれたのである。
工藤はふとそれを思い出すと優れた方の戦死を惜しむ。
作業の手が止まった事に工藤が気付くと背後から自分を呼ぶ声がして振り向くと米国遠征軍第1水雷戦隊司令官『田中頼三』中将が立っていたのである。
「これは司令! 御見苦しい姿を見せて申し訳ありません」
直立不動で田中に敬礼する工藤を田中は笑みを浮かべながらとんでもない、こちらこそ貴官達の奮闘に期待していると言い各駆逐隊を見回っているところだと言う。
「工藤中佐、今回の戦いは……生きて帰る事が出来ないかもしれない戦いになるかもしれない。何しろ、相手は我が艦隊の10倍の戦力だと言うからな? だが、その戦力をひっくり返してわが日本海軍の大勝利に導く故、貴官達の活躍が必須となる。詳しい内容は会議で発表になるだろうが頼むぞ」
田中はそう言うと工藤に敬礼をすると工藤も慌てて敬礼を返す。
そのまま田中は“暁”の方に向かっていく。
「……恐らく全ての駆逐艦へ向かうのだろう。厳しい戦いになるだろうがこれは特攻ではないと木村司令もおっしゃられた。だから私達も正々堂々と戦い抜こう」
そして工藤は引き続き乗員達と共に武器弾薬の搬入作業を開始する。
♦♦
第10桟橋に接弦している駆逐艦“雪風”でも武器弾薬を搬入しているところであった。
艦橋では艦長『寺内正道』中佐が陽気な声で皆を鼓舞していた。
「いいな、俺が思うにこの艦は最高の強運を持っていると断言できる! それにだ、この艦を女性に例えると天真爛漫な元気な女の子だと思うがどうかな?」
寺内の言葉に皆が笑って頷く。
「まあ、欧州では戦艦や空母も彼女とか女性に例えますね? それならば戦艦や空母は凄い美人さんに例えられるのでしょうね」
副官の言葉に皆も頷くと誰かが現在、内地にいると思われる“赤城”“加賀”の一航戦が女性なら凄いプライドを持っているに違いないですというともう一人が常に誇りという言葉を発するのでは? という。
皆が笑いあっている所に伝令員がやってきて最終会議の場所が“大和”で行われるので1600時に集合との内容を伝える。
「了解した! 後、二時間と言うところか。よし! 再度、最終点検を全員で実施だ」
寺内の号令で館内放送を以て再度の最終点検を実施っする旨を言うと皆がそれぞれの持ち場で最終点検を実施する。
「まあ、大丈夫だ! この“雪風”は絶対に沈まないし沈む事につながる馬鹿な事はしない」
工藤・寺内中佐がそうであるように各駆逐艦では同様に魚雷や砲弾の搬入が行われると共に可燃物を次々と降ろしていく。
あまり目立たないが支援艇と言われる小型船も広大な湾を縦横無尽に走りまわって最終整備等の補助をしていく。
正に一丸となっているのがよく分かる状況であった。
♦♦
そして……最終会議の時間となり各艦長一同、“大和”艦橋の司令長官室に集合したが密度が凄く、立っている者もいる中、遠征艦隊第一艦隊司令官『木村昌福』中将が声を発す。
「忙しいところ、よく集まってくれた事……この木村、貴官達に礼を言う。今回の内容を話す前にいう事がある」
木村はそう言うと各艦長達を見回して言葉を発す。
「君たちの命、この木村に預けてほしい。勿論、誰一人欠けることなく勝利して凱旋するがこの戦いの意気込みをこの木村に示してほしい」
木村の言葉に全員が一緒のタイミングで勿論、閣下に預けますと見事にはもる。
場が一瞬、沈黙すると爆笑が起こった。
木村も笑みを浮かべると何度も頷いていたが有賀艦長が手をパンパンと叩くと一瞬で静かになる。
「では、今回の作戦を伝える。至極簡単な事でこの“大和”が先陣を切って米艦隊に突入して46センチ主砲をお見舞いする。“大和”が狙うのは戦艦だがアウトレンジで出来るだけ叩き潰す。その後、近距離砲戦に持ち込んで敵を混乱に貶めた時、田中中将率いる水雷戦隊が突入して魚雷戦で決着をつける。これが大まかな作戦だ。後、初弾全弾命中で100%を目指す!」
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