第93話:出撃前夜①
米国西海岸カリフォルニア州南部にある米国海軍最大規模を誇る基地の一つ“サンンティエゴ”は大日本帝国軍の占領下にあり現在、出撃の為の準備が行われているところであった。
その中で一際、目立つのが第一桟橋に停泊している世界最大最強戦艦“大和”の巨大さであった。
その横に山と積まれている四六センチ砲弾の搬入が行われている最中であった。
それと同時に艦内から可燃物となるありとあらゆる物が代わりに搬出されていた。
その巨大戦艦の艦橋で海軍中将の肩章を付けた軍人がじっと作業を眺めていた。
「……いつ見ても聞きしに勝る戦艦だな、ずっと水雷戦隊を率いていた俺にとってここは相当の場違いだと思うのだがな……」
その中将の言葉に背後から和やかな声で彼に喋りかけてくる。
大佐の肩章を付けている歴戦の軍人であった。
「そんな謙遜をしなくてもいいと思いますよ? 中将の素晴らしさは南雲長官も御存じですしね? 『木村昌福』中将」
木村中将と呼ばれた木村が振り返ると“大和”艦長の『有賀幸作』大佐がにこやかな笑顔で立っていた。
「有賀艦長ではありませんか」
そう言うとお互いに敬礼して続きを話し続けているとふと何かを思いついたように有賀に喋る。
「そういえば、近頃……奇妙な夢を見るのですよ」
「奇妙な夢?」
有賀の言葉に木村は頷くとその夢の内容を話す。
「アリーシュン列島のキスカと言う島に孤立している陸軍兵を救助すると言う夢で濃霧の中を水雷戦隊で進んで味方の被害がなく全員、救助したと言う夢だがどういう事だろうか?」
木村の言葉に有賀も首を傾げるが自分も最近、変な夢を見ると言う事でその内容を木村に話す。
「この“大和”と同じだが兵装が大幅に変わっていて駆逐艦と軽巡のみの10隻の艦隊で沖縄に特攻するという夢を見たのですよ。結局、その途中で米軍による無数の航空機の攻撃により“大和”は撃沈されて私も艦と共に運命をしたという内容だな。ちなみに“大和”には『伊藤整一』中将も乗艦されていたが“大和”と運命を共にしたことだ」
二人は暫く無言状態であったが自分達なりに意味を見つける。
それは未だ布哇を占領した直後、石原莞爾達の陸軍幹部と共に酒を酌み交わしたがその時、並行世界の話をしたことを思い出す。
もうひとつのよく似た世界では日本は敗北の坂を転げ落ちていてその世界での私達が経験した事が何かの事情で夢の中で再生されたのだと。
「まあ、私はその戦争を生き残ったみたいだがその時の気持ちはきっと無念だったかもしれない」
木村の言葉に有賀は今、正にこの世界で私達は生きているので何処かの世界であったろう日本の敗北へと繋がる事は絶対に阻止しないと言うと木村も頷く。
「その通りだ! その為にも準備は入念に行なわなければいけないな? では、私は艦内を見回ってみようかな? あまりにも巨大な船なので迷子になるかもしれないが?」
にやりと笑った木村に有賀も笑いながらその時は艦内にある無数の伝声管で救助要請をしてくださいという。
二人はそう言うと再び甲板の方を見るが乗員達皆が士気旺盛で気合と笑顔を振りまきながら作業をしている姿を見るとお互い顔を見合わせて頷く。
「彼らの為にも無様な指揮は出来ない。所で現在、米艦隊はパナマ運河を続々と渡っているそうだが全隻通過するまで後、二日程度かかると言うので出航は明日の0600時にしようと思う」
木村の言葉に有賀も頷くと後5時間後に行われる出撃艦船の艦長との最終会議を開催する事になっている事を言うと木村も頷く。
「この“大和”と“第6駆逐隊”・“第27駆逐隊”・“第16駆逐隊”及び軽巡洋艦“由良”“阿武隈”の15隻だ。後、控えの“第30駆逐隊”がいるが見事に軽巡と駆逐艦だけだ」
言葉だけ聞けば百隻以上の米艦隊と戦うのに悲壮な覚悟の言葉だが彼の表情は生き生きとしていた。
「ま、水雷戦隊の指揮は『田中頼三』少将にお任せしているから私はこの“大和”の椅子に座って皆の奮闘を見るだけだがね?」
「大将はでんと構えているだけで皆が安心できますからね?」
有賀の言葉に木村は頷くと艦橋から出ていき艦内を見回る事を始める。
木村を見送った有賀は艦長席に座ると衝撃的な事だったことを思い出す。
布哇攻略後、日本海軍最新鋭潜水艦だと紹介された軽巡並みの潜水空母伊400を見た時に自分が別世界で生きた一生を思い出したのである。
「あの時の衝撃は忘れることが出来ないな。断言できるがあの潜水艦と日下敏夫と言う艦長は無数の並行世界と言われているよく似た世界を渡り歩いて日本の危機を救う旅を永久的にしているのだろう。ある意味、羨ましい一面もあるが」
有賀がそう独り言を言った時、参謀がやってきて後、一時間で46センチ砲弾の積み込みが終了する予定でその後、戦闘食の積み込みを開始することを報告する。
「了解した、前も言ったが今回の出撃は戦闘のみの出航である故、炊事兵等を含む戦闘及び機関を始めとする整備以外の人員は全て下艦させるがそれは徹底されているのだな?」
正に今回の出撃はある意味、帰ってこられないかもしれない死出の旅になるかもしれないので一人でも多く残してやりたい気持ちだったのである。
だが、その件で外された者達が凄まじい程、怒りを見せて俺達も連れて行け! と大騒ぎになって木村司令に直訴するとの勢いだということを報告してくる。
「……やはりそうなったか、分かった。私が直々に彼らに話そう」
それから数十分後、有賀は彼らの説得に数時間もかかってしまうのだがそれは又、別の話である。
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