第8部:日米陸海大決戦!

第92話:極東英国軍の決意

 英国軍東洋艦隊基地“シンガポール”にて最新鋭戦艦“プリンス・オブ・ウェールズ”と巡洋戦艦“レパルス”が停泊していたが基地全体の雰囲気が恐ろしく暗くお通夜状態であった。


 艦首に翻っているユニオンジャックも元気がなさそうにユラユラとはためいている。


 “プリンス・オブ・ウェールズ”艦橋でZ部隊司令長官『トーマス・フィリップス』大将は浮かない表情で甲板で作業をしている乗員達を眺めていた。


 そこに前任の司令官であった『ジェフリー・レイトン』大将が表敬訪問をしてきたのである。


「トーマス提督、浮かない顔をしていますね? まあ、無理はありませんが……」


 レイトンは私服で来ていてシルクハットを脱いでお辞儀する。

 トーマスは振り向いてレイトンにソファーを薦めると彼は頷いて座る。


「卿は確かマダガスカル島で情報収集をしていたとお聞きしていましたがナチスが来たのですか?」


「いや、奴らは未だ北アフリカ一帯で補給を完了して一気に南下する事だろう。その証拠にUボートの数が増えてきている。今回、ここに来たのは我が英国が敬愛する王家の事を伝えに来たのだ」


 王家と聞いたトーマスは表情を厳しくするとレイトンに何かわかったのか? と聞くと彼は頷いてエリザベス様お一人が生き残られて現在、ロンドン塔に軟禁されているとの事を言う。


「おいたわしや、伝統ある我が英国王朝がドコゾノ髭の伍長に蹂躙されるとは何と嘆かわしい。スコットランドを始めとする地域もナチスに降伏したそうではないか」


 トーマスはかなり憤慨しているがこの東洋艦隊だけでは何も出来ないばかりかトップである東インド総督も本国の状況を知って寝込んでいる有様だったのでインド全般において攻守ともども脆くなっていたのである。


「チャーチルも大西洋の藻屑と化してしまったからな。これからの方針はどのようにすればいいか分からない。このままだと二月ほどしたらナチスの海軍が押し寄せてくるだろう。本国艦隊H部隊の大半の艦船を接収したそうではないか! 正規空母2隻・戦艦2隻・巡洋艦及び駆逐艦が12隻だ!」


 そんなトーマスの言葉にレイトンは更に悪い状況を言って来るが今の状態ではまともに戦えないばかりか士気が激減しているのであった。


「インド独立戦線のチャンドラー・ボース率いる自由インド軍が暴れまわっているのだな。いまいましい奴め!」


 レイトンはトーマスの怒りの言葉を無視してある事を提案すると彼も驚愕して暫く開いた口が塞がらない状況であった。


「単独で日本と講和を結んで最悪、日本海軍の指揮下に入ったらどうかだと!?」


「その通りだ! 卿も知っていると思うがあの日本が明治時代に大帝国ロシアを打ち破った力が未だ健在でしかもあの世界最強と言われていた米国海軍を壊滅させたばかりか布哇を制圧してあろうことかサンフランシスコをも占領したではないか」


 レイトンの言葉にトーマスも実は単独で日本と講和を結んでナチスに立ち向かってみてはどうかと思っていたのである。


「連合軍の盟主であった米国がナチスと同盟したお陰で奴らに対抗できる味方がいないからな」


「講和と言っても未だ日本とは交戦を一切していないので十分にいけるかと思う。本当は2年前に日本軍は南方進出を考えていて部隊編成までしていたが布哇を占領したお陰でこちらに目がいかなくなったのは幸いだったな」


「だが、それでも我々だけでは薦められないぞ? 総督も寝込んでいるしな? ……いや、待てよ? 確か総督はランカスター朝の直系に当たる血筋だった筈?」


 レイトンはトーマスの言葉にこれはやってみる価値はあるぞと思う。


 現在のウインザー朝はエリザベス一人のみ生き残った存在だが軟禁されていてイギリス国民には行方不明と発表されていたのである。


過去にグレート・ブリテン王国を収めていた王朝の血筋を引く高貴な人物が総督としていたのに気づいたのである。


「彼を説得して日本の傘下に入って本国奪回の機会を待ってみてはどうかと言えばいいのでは?」


「まあ、仮に総督が決意されたとしても日本に渡す土産がないぞ? 何の見返りも無しとは我が国の沽券にもかかわる」


 レイトンはトーマスの質問に答えると彼も仰天する。


「……我ら英国軍が全面撤退すると同時にインド方面全般における権益を日本に譲渡する……う~ん……確かに土産としては素晴らしいと思うが東インド会社も終焉と言うわけだが?」


「どうせこのまま放っておけばナチスのクソ野郎共が押し寄せてきて蹂躙されるだけだ。それならいっそ昔は同盟をしていた日本に渡すのが正解だ」


 結局、レイトンの提案にトーマスも同意して東インド総督『メリダ』伯爵に面会を通してもらいこれからの方針を提案すると共に日本と手を組んでエリザベス女王をお救いして英国本土の奪還を目指すことを言うが最初は乗り気でなかった伯爵も最後は同意してそうと決まれば直ぐに行動しようではないかと言う。


「日本の権力者と言えば……東條英機だな? 日本政府とコンタクトを取って極秘でも公開でもいいから一刻も早くこの内容を提案したい」


 こうして海外における最大の植民地を所有する大英帝国の残党は日本と手を組むことになったがこの日、パナマ沖で日米大海戦が勃発したのである。

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