第89話:伊400の休息⑤

 海軍区域に入るとそれもまた、とてつもない広大な広さだが移動手段は動く歩道で目的地をタップすればそこまで自動的に送ってくれるというシステムであった。


「はあ……凄まじい世界だな。流石は天照様が管轄する所と言うわけか……。ふむ、案内看板によると潜水艦用兵器はここから10ブロック先か」


 日下は動く歩道の横にある行き先を告げるタブレットに潜水艦用兵器の場所をインプットすると歩道の上に魔法陣みたいなのが出現してそれに乗ると自動的に動いていきスピードも設定できたのである。


「過去と未来と現代の技術が混ぜ合わっているのだな、良い趣向だ」


 変な感心をしながら物思いにふけっていると間もなく到着の合図とみられる鈴の音が鳴る。


 魔法陣は“潜水艦ブロック”と書かれた看板の前で止まって魔法陣が消える。


「……さて、入るかな」


 日下が建物の中に入ると地平線が見えるぐらいの大きさの敷地に所狭しと無数の兵器が展示されていた。


 日下は一つ一つ説明を読んでいくが中には全く未知の技術でさっぱりわからない物もあるが結構、驚きの目で見ていた。


「さっぱり何の兵器か分からないのもあるが相当、やばい兵器だとわかるな」


 そう呟いた時に誰か分からないが日下艦長ではありませんか! との声が聞こえてきて何処かで聞いた声だなと背後を振り向くと中年のイケオジが手を振っていた。


「……もしかして……吉永一等水兵か?」


 日下が中年の男性に聞くと彼は大きく頷いて元、伊400水雷科魚雷発射管担当員で『吉永幹夫』一等水兵だった。


 日本本土決戦が行われる世界に行くとき、この世界(朝霧翁がいる世界)に残った半数の乗員の一人だったのである。


「おお! 久しぶりと言うか……私にとっては約600年ぶりか? あの時の君は確か……18歳だった筈だがもう立派なおっさんになったのだな?」


 日下の笑みを含んだ声に吉永は頷いて現在は成人した息子と娘がいて自分も結婚して40年が過ぎましたと言う。


「もうそんな時間が経ったのだな? 他の皆も元気なのか?」

「ええ、皆全員が元気で結婚して子供を産んで家庭を築いています」


 吉永の言葉に日下はそうか、それはよかった、よかったと何度も言いながら薄っすらと涙が浮かんできた。


「日下艦長の御活躍は朝霧会長様を通じてお聞きしていますがお元気そうで何よりです。良い土産話が出来ましたよ」


 吉永の話によると朝霧グループはいつ好きな時にこの要塞世界にいけるのであり一種の福利厚生のひとつでもあったのである。


「……全く、いつでも想像を絶する話だな? 所で今日、ここにきたのは伊400に搭載できる兵器を見に来たのだが何かお勧めがあるかな?」


 日下の言葉に吉永は暫く考えていたが首を横に振って説明してくれる。


「現在、朝霧工廠は潜水艦用の兵器を作ってないし設計もしていませんので御期待には添えられません。ここにある展示製品も特に目新しくもありませんが別世界での朝霧グループと同じ規模を持つ閏間重工業が出展している物の中に潜水艦搭載用の兵器がありますのでそこに行かれてはいかがですか?」


 そう言うと吉永はスマホを取り出して何処かに掛けて話していたが数分後、スマホを切って日下に言う。


「閏間重工業の担当に連絡しましたので会ってくれるそうです」


 日下は吉永と固い握手をしながら又、何処かで会うときがあれば他の皆達のそれぞれの話を聞かせてくれといい、その場から離れる。


 吉永は日下の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれたのである。


 そして、1時間ぐらい歩いた所に例の閏間重工業の看板が立っていてその入り口に一人のサングラスをかけた男性が立っていた。


「大東亜連邦国建国の父たる一人の日下艦長でいらっしゃいますね? 御高名で伝説と言われている閣下にお会いできて至極、感激しています」


 ??? の日下にその男性が説明してくれた内容が何と彼の世界は、伊400とそれを補助する輸送艦“さがみ”が転移してきた世界だと言う。


「何と……はは、人の縁と言うのは凄い事だな? 私は死んだことになっているのだがあれから何年経った世界から来られたのですか?」


 その男性によると300年の年月が経っていて宇宙世紀の時代でもあり人口が増えすぎた地球から外宇宙へ進出して移住するプロジェクト中であると説明してくれる。


 あまりにも大きなスケールに日下は苦笑いするが彼に潜水艦搭載用で良い物があるかと聞いたら男性は胸を叩きながら頷く。


「どうぞ、こちらへ! 我が閏間重工業が前年に開発して量産化に入る事が決定した新型魚雷をお勧めします」


 その男性の案内で倉庫らしきものの建物の中に入ると数沢山の種類の魚雷が展示されていた。


「これはいかがでしょうか? HG34魚雷です。簡単に言うとワープ魚雷で魚雷管制官かCICにて出現ポイントか標的を入力します。その後、発射管から発射された瞬間にワープして目標に命中します。威力は数十万トンクラスの船でも爆発した圧力で爆散しますよ? 文字通り粉々に」


 日下はほほーと頷くとこれはこれからの戦況に大いに役立つのではないかと考えて念の為に吉田技術長に連絡して詳細な内容を言うと彼からも素晴らしいですねと太鼓判を押されこれを購入することにする。



「量産前で在庫全てをお渡し出来るのが20本になりますがいかがですか? あ、そうでした! あれを忘れるところでした。少しお待ちを」


 そう言うと男性は倉庫を出て行ったが5分ほどで戻ってきて魚雷が丸ごと入る桐の箱を台車で持ってくると説明してくれる。


「実はこの箱ですが今から10年前、特殊異次元空間が発見されてこれを利用できる実用化に成功したのです。その技術をもとに収納ボックスが製作されてこの箱に魚雷なら1000発を収納できる容量があります。これもお付けしましょう。いかがですか? それならここにある700本の各種魚雷を収納出来ます」


 今まで各種並行世界を行き来していた日下でもこの内容は流石に理解を得るのに時間がかかったがとんでもない代物だとわかる。


「ちなみにこの収納ボックスは魚雷以外でも?」

「残念ながら魚雷のみです」


 それから数分間、交渉に入って最終的に商談は締結されて伊400のドックに搬入されることが決まった。


 最期に日下が去るときに男性から握手を求められて日下と固い握手をした男性は自分の名を名乗る。


「私の名は『有泉幸之助』。初代『有泉龍之介』の直系の子孫です。日下艦長や伊400のことをずっと聞いて育ってきました。本当に会えてよかったです」

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