第84話:決断! そして
「何と思い切った事をされるのですね? まあ、東條さんの権力ならだれも反対は出来ないでしょうが大陸にいる頑固な方達はどうするのですか?」
「まあ、そこもきちんと考えている。とにかく根本的に変えていかなくてはいけない事は確かだな? 民間人も積極的に取り込もうと思っている。新潟出身で面白い男がいるので今度、面接でもするつもりだがね?」
東條の凄まじい考えの変わり方に山本も唖然としたが本気でこの日本を変えようとする事の決意を感じたのである。
そして山本も決断することにする。
「……東條さん、私も東條閣下の日本国改造に賛同します! 所で提案ですが混乱を極めた海軍の方の説得は私にお任せくださいませんか? 海軍省や軍令部を流石に陸軍が雪崩れ込めば後が大変ですので海軍としては陸軍の行動を支持すると表明します。それが私の決意で一蓮托生という事ですが?」
山本の真摯な言葉に東條は感激して改めて姿勢を正して正座のまま深々とお辞儀する。
「この東條、百万の味方の軍勢を得たようなものだ。海軍省や軍令部の方は山本閣下にお任せします。その後の戒厳令等の発動はこちらで既に準備完了していますので御安心を」
東條の先を読んで次々と手を既にうっている辣腕ぶりに山本も改めて東條英機と言う人物の評価を改める。
「東條さん、提案ですが私と肩でも組んでいる姿で演説をするのです。日本全国及び世界に流しませんか? 本気で海軍と陸軍が共に手を組んでいこうと言う決意で?」
山本の意外な提案に東條も驚いた表情をするが直ぐに頷くと笑みを浮かべて頷く。
「それは本当に良い事だと思う。それでは今夜は成功を祈ってささやかだが酒でも飲んで英気を養おう」
こうして山本と東條はお互いの事を深く語り合い、翌日、山本は帝都ではなく横須賀に帰還していく。
それを見送った東條は頬をパンと両手で叩くとカミソリ東條と恐れられた表情になると服部大佐が迎えに来た車に乗り込む。
「さて……と、売国奴共を一網打尽にして日本国を改造すると共に大東亜共栄圏設立に向けないとな」
東條のメモにはインドネシアの『スカルノ』やインドの『チャンドラボース』等と言った植民地宗主国に反逆している党首を支援する方法が書かれていたのである。
東條が乗る車は一路、帝都東京に向かっていく。
♦♦
一方、横須賀に戻った山本は直ちに全艦隊に抜錨を命じて目標を東京湾に変更することを命令する。
「長官! どうしたのですか? 聯合艦隊を東京湾に侵入させるとは?」
黒島参謀長の質問に山本はここ数日のうちに帝都で何かが起こると言う情報を得たので先程、海軍省と軍令部に報告すると同時に万が一に備えて聯合艦隊を東京湾に侵入させていつでも行動に移すことを報告したとの事。
「……まさか、2・26の再来が起きるとか……?」
山本は特に返事もしないでとにかく東京湾に急行することを命令すると同時にトラック諸島で修理碇泊している第一機動部隊に布哇方面の援護へ向かうように指示しろと言う。
「現在、布哇には空母“鳳翔”と駆逐艦数隻しかいない状態だ。守備している陸軍も僅か数百名で米軍の一斉攻撃を浴びればたちまち陥落することは一目瞭然でそうなれば補給路を失った陸軍7個師団は孤立して全滅は必須だからそれは絶対に阻止しなくてはいけない」
山本のいつにもなく真剣な表情に他の参謀長たちもそれにつられて頷く。
横須賀から次々と聯合艦隊の艦船が出港していくのを市民達は大歓声を上げて見送る。
戦艦“武蔵”艦橋で山本はそれをじっと眺めていて頷く。
「(……東條さん、やってみせましょう! 誇りある大きな国を創るために)」
聯合艦隊は威風堂々と東京湾へ向かっていくのであった。
♦♦
東條と山本がそれぞれ行動開始した同時刻、遥か彼方の米国西海岸サンフランシスコでは極度の緊張が高まっていたのである。
「デンバーに集結していた軍団の一部である20個師団がこちらの方面に進軍を開始したと連絡が入ったが恐らくは陽動で本命はもちろん、サンティエゴだろうが……」
サンフランシスコ市周辺の地図を見ながら防衛司令官『今村均』中将はボヤキに似た愚痴らしき言葉を発するが山下中将は豪快な笑いを上げて豊富な資材を元に防衛施設を構築したのだからそれを信じて戦うまでだと言う。
「それにしても……本土の連中は何を考えているのだ? 海軍を全て引き上げたらどうなるか分かっている筈だ」
「なあに、海軍如きがいなくても大丈夫だと見せつけてやろう!」
色々と意見が出てくる中、今村中将はそれぞれ各々の持ち場に配置して大和魂をヤンキーに見せつけてやろうと檄を飛ばすと皆が応!! と勢いよく叫ぶ。
各師団長が持ち場に戻っていき今村中将ただ一人になった時、緊張の尾が切れたかのように椅子に座りこむ。
「ああは言ったが……時間が長引けば壮絶と言うか全滅は必須だな。制限ある武器弾薬だから弾幕を半永久的に撃てないし」
そう呟くとふと、あの海軍最新鋭潜水艦“伊400”のことを思いうかべる。
「彼らは今、何処にいるのだろうか?」
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