第83話:衝撃的な内容

 山本と改めて向き合った東條は横に置いてある桐箱から数枚の紙を取り出して山本の前に置く。


 その紙を手に取って内容を見るとかなりの人物の陸海軍の高級将校や中間階級達の名前が記されていて山本はここに書いてある人物が何かの意味があるのですか? と質問する。


「ええ、おおありです……山本さん。このリストに載っている人物は全て売国奴と言っていい極刑に当たる人物です」


 東條の真剣な表情及び憤怒の表情に山本もこれは冗談で言っているとは思えないと確信する。


「……何か証拠がおありですか?」


 山本の質問に東條は勿論ありますと言うと横に置いてあった木箱から奇妙な機械を取り出して机の上に置く。


「……ラジオですか? にしても変な形ですな?」


 山本は敵性語である言葉を言ったが東條は別に気にすることなく同じことを言う。


「これはラジカセと言って音楽を録音したり出来る代物だがね? 例の日下艦長経由で石原に手渡されたという」


 まあ百聞は一見にしかずという事で実際にカセットをデッキにセットして再生ボタンを押すと多人数の鮮明な声が聞こえてくる。


「……なっ!?」


 流石の山本も流れてくる会話の内容に驚いたがその会話を発言している人物が己の上司に当たる人物もいる事に気が付いて絶句する。


 20分にも及ぶ会話は正に売国奴的な発言であった。


* 先ず、米国に駐留している陸軍を米軍に完膚なきまで叩き潰して全滅させる為に海軍戦力を全て本土に引き上げる。

* 海軍の空母や戦艦を意味のない戦いに繰り出して撃沈してもらう。

* 休息を許さないで46時中、航空隊を出撃させて疲労の極みに追い込んで消耗させる。

* 暗号文を事故に見せかけて米国に渡す。

* 陸軍の協力者には補給を無視したどうみても失敗に終わるような作戦を実施して  もらい餓死に追い込み弱った所を攻撃して殲滅してもらう。

勿論、規模は数万規模である。

* 戦後、勝利者たる連合軍による裁判が実施されるであろうが我らは口裏を合わせて陸軍が全てこの戦争を仕組んで日本を敗北させたことをアピールする。

* 最近、我らの同志であった者が裏切りをしている感じだから査問会を開いて糾弾すること。


 大まかな内容に山本は身動きせずにじっと最後まで聞き終わっても無言であった。


 東條も同じく無言であったが身体が怒りに震えてあえて我慢している様子がひしひしと伝わっていた。


「……未来と言うかこの先の時代ではこういった物が当たり前のように出てくるのですな。本当に技術の進歩は著しい」


 山本の言葉に東條も無言で頷くと口を開く。


「山本さん、聞くに堪えられない内容はまだまだ沢山ありますが最早、そのような事は置いといて重要な事があります」


 東條は改めて姿勢を正して山本と対面して真剣な表情になると言うか固い決意をしている事が手に取るようにわかる。


「……お聞きしましょう」


 何となく山本は東條が次の語句の内容について予想していたが正にその通りであったのである。


「ここ三日以内に私の管轄する全ての憲兵隊や警察を総動員して国賊を逮捕してその後は、背後関係を徹底的に洗い出してこの日本国内から一掃します。手段は選ばないで拷問も許可する決意です」


 やはりそうかと思った山本は海軍省等にもまさか押し寄せるのですか? と聞くと東條はしっかりと頷く。


「統帥権等の問題があるがそんな事は最早、どうでもいい! 国賊を逮捕する事ならそんな統帥権と言った下らないものを無視するだけだ。それに……今回に限り、陛下より特別に勅命に匹敵するお墨付きの書付を賜ったのだ」


 東條はパンパンと手を叩くと後ろの襖が開かれて一人の従者らしき者から菊水の紋章が刻印されている桐箱を丁寧にテーブルの上に載せるとそれを開けて中から紙を取り出して山本に手渡す。


 山本も陛下直々の自筆という事で恭しく手に取るとその文面を読む。


「こ、これは……! し、しかし……どのような手続きを? 普通はとても無理だ!」


「伊勢神宮の斎王様……祭主様にお願いしたのだ。本当かどうかは分からないが伊勢神宮の内宮奥の祭壇には高天原と直通している異界トンネルがあるそうだ。天照様から直々に管理するようにと指名されているので皇室に対する力も尋常ではない」


 山本はじっと無言でそれを眺めていたがやっと次の会話に話せる内容を口にする。


「東條さんが今からやろうとしている事ですが……本気なのですね?」


「そうだ! だが、今や英雄たる山本五十六聯合艦隊司令長官に黙って実施するのは悪手だと思ってな? それにだ、私は山本長官と手を組みたいと思っている。海軍とか陸軍とかの垣根を取り払って。山本長官、私は明日にでも帝都へ帰り一斉摘発の準備に取り掛かる予定だ。そうなればこの私の命を狙う事も取ることも出来なくなる。今の時点でこの私の心臓に弾丸を打ち込めばそれも幻と終ろう。この私を殺せば粛清の暴風を無くすが奴らの陰謀で陸海軍の戦力を磨り潰されていくのが目に見える。それともこの私に賛同してくれるのか? 山本さんのお好きなようにすればいい。その意味での白装束で来たのだ」


 そう答えると山本の目を見てどんな決断をするのか見据えていた。


「……東條閣下、いずれ分かるかと思いますが私も米国の脅威を大いに実感して戦争を回避する手段として海軍戦力をわざと減らそうと考えていた時がありました。ここのリストにある会のメンバーでもありましたがそれでも私を粛清するつもりはないと?」


 爆弾発言であったが東條は特に驚くこともなく薄々は気付いていたが石原莞爾や日下敏夫といった人物と邂逅して考えを改めたという事を分かっているので問題視していないことをいう。


「……東條閣下はこの粛清が終わった後、どのような政策を実施するおつもりか?」


 山本の質問に東條は直ぐに答えると山本も吃驚する。


「先ずは中国国内から9割以上規模の遠征軍を本土に帰還させて国力の基幹となる熟練の技術者を始めとする産業に必要な人材の徴兵を免除させて永久的なことから始める。勿論、海軍にもやってもらう考えだ」

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