第82話:密談
山本五十六率いる聯合艦隊が横須賀港に寄港すると民衆達が歓声を上げて迎えてくれる。
やはり一番目立つのが戦艦“武蔵”であり、次に永遠のアイドル戦艦“長門”“陸奥”であった。
「長官、やっと戻ってこられましたね? これから軍令部へ報告に行くのですか?」
黒島参謀長が尋ねると山本は頷くがその前に宿舎に寄って私服に着替えてある人物と約束しているから明日にでも軍令部へ行くとの事。
「では、長官もゆっくりとお過ごしください。私は自室に閉じ籠ってこれからの作戦を考えます」
そして山本はゆっくりとラッタルを降りて陸地に足をつけるとそのまま迎えの車に乗って宿舎へ向かい、そこで私服に着替えると改めて迎えの車に乗ってある人物と約束している場所へ向かっていくのである。
♦♦
山本が迎えの車に乗り2時間ほど走った所で車は停車して運転手がお着きになりましたと言いドアを開いてくれる。
山本は辺りを見回して成程なと頷く。
「多摩山中の山奥だな? こんな辺鄙の所でお話しするという事は余程の事だな」
山本が車を降りると一人の陸軍の軍人がやってきて厳正な敬礼を以て迎える。
「聯合艦隊司令長官『山本五十六』大将閣下、我が上司がお待ちかねです。ご案内させていただきます」
「……貴官は服部大佐かね? 東條閣下の秘蔵っ子と言われている?」
山本の言葉に服部大佐は無言で頷くと一言だけ喋る。
「御心配には及びません、どんな事が起きようと閣下は明日には帝都東京へご無事に送り届けますので」
泣く子も黙ると言われている恐怖の象徴である憲兵隊及び特高警察全てを統括している東條英機の一番の部下でもあり、信頼されている服部大佐は服部機関と呼ばれる組織を立ち上げて数々の策を以て実施しているのである。
10分ほど歩くと質素だが武家屋敷みたいな風格を持つ別荘らしき建物に案内されて座席に通される。
「我が上司である東條閣下が直ぐにお越しになられますのでそれまで粗茶ですがどうぞ」
歴史ある木製のテーブルには女中が入れたお茶が湯気を立てて置かれていた。
山本はゆっくりと腰を下ろして座るとお茶をすする。
「ほう……中々、いけるな」
そう言った時、目の前の襖が開いて一人の人物が入ってくるが真っ白な白装束みたいな恰好をしていた。
「お忙しいところ、申し訳ありませんな。東條英機です、日本海軍の英雄である山本閣下とこうして直にお会いできることは光栄です」
東條は先に手を出すと山本も笑みを浮かべて自己紹介をして握手をする。
二人はゆっくりと腰を下ろすと暫しの間、無言のまま時が過ごしていったが先手で口を開いたのが東條であった。
「山本長官、この私が貴方と会いたいと言うある目的が予想できますかな?」
東條の意地悪そうな質問に山本は暫しの間、瞑想してこれしかないだろうと確信をもって答える。
「海軍・陸軍が手を取り合って国難に立ち向かう事ですか? この答えに自信がありますね? 賭けてもいい」
山本の言葉に東條も笑みを浮かべると流石は勝負師の顔でもあるなと感心しながら頷く。
「奴が……石原が戦死する三日前に私宛に奴から手紙が送られてきたのだ。内容は万が一、私がいなくなってもこのようにすれば必ず道は開けると……な」
石原が記した手紙の内容は、この世の理を無視した伊400という並行世界を行き来きするという稀有な存在でここまでいけたが彼らがいつまでもこの世界に留まる事はないと断言できる。
残された我々がやらなければいけないがその為には陸軍は元より海軍の組織も一度は完膚なきまで破壊して新たに組織を立ち上げる必要があると書いてあったことを山本に言う。
「……確かにそうだな? 布哇占領からサンティエゴ制圧を含めて南雲君率いる機動部隊と樋口大将率いる駐留軍とは手を取り合って協力しているという」
「それを日本軍と言う全体に当て嵌めようとしているのだがまあ、今の状態では難しいというか不可能に近い」
東條の言葉に山本も頷いてこの状況は日露戦争から続くもので意識改革をするのは大層な事だと言う。
「だが、それでもそれをやらねばならない」
そう言うと東條は懐から拳銃を取り出して銃口を自分に向けて机の上に置くと山本の方へ拳銃を押し出す。
「今から私が言う事はとんでもない内容で正気を失って気が狂ったかと思われるかもしれないがその時は、遠慮なく私の心臓へ撃ち込んでくれたまえ。何、心配はいらないぞ? 服部には厳しく言っているので長官は安心して帝都に帰還できる。この私は急死したという事で処理されるように手配しているから遠慮はいらない」
東條の表情は正に本気でカミソリ東條と言われるのは本当だと思える迫力であることが山本にもひしひしと伝わってくる。
「……東條閣下のお覚悟はこの山本にも伝わりましたがそこまでしてでもですか?」
「ええ、これからの日本の将来に向けてです。このままこの戦争に負けて悪夢通りの日本になる事を考えれば悪寒が走って落ち着くことが出来ない」
実は山本も理不尽な命令を不満に思っていて何とかしてでも再び戻りサンフランシスコ一帯を制圧している陸軍に加勢することを考えていたのである。
「……お聞きしましょう、そしてこの私も命を懸けねばなりませんね?」
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