第7部:新たな潮流そして歴史の転換点

第81話:歴史の転換点

 昭和18年1月中旬、山形県飽海郡高瀬村に一台の自動車が止まり一人の人物が車から降りてきて運転手に一時間ほどしたら戻ってくると言い村の中に入っていく。


「これはこれはこんな辺鄙な村にようこそ、東條英機閣下」


 村長が丁寧に頭を下げて東條英機に挨拶すると彼も軍人らしく深々とお辞儀して少しの間、お邪魔しますと言う。


「……では、行きましょうか? 目的地へ……と言っても歩いて10分程ですが」


 そういうと村長は先に歩いていく。

 その後を東條は黙って歩いていき10分後、目的地について村長はこの墓がそうですと言う。


 東條はお礼を言って少しの間、二人きりで話をしたいと言うと村長は笑みを浮かべて頷いて終わった後、お茶でも入れましょうと言い、ゆっくりと元来た道を歩いていきその姿が見えなくなったのを見届けると東條は墓の方を向いて花束を置く。


「石原よ、遅くなったが来たぞ? 本来なら生涯、来ることはなかったかもしれないがな?」


 東條は直ぐそこに石原莞爾がいるかのように色々と喋る。


 出会った時や自分の部下となったこと、そして意見の食い違いで追放したこと、そしてそのまま予備役で歴史の隅に埋もれながら忘れられていく存在だと思った時、突然に世に出て布哇諸島制圧を唱えて海軍の山本長官を巻き込んであれよこれよと言うまま米軍の前線基地である布哇を無血占領したかと思えばその米国本土に侵攻してサンフランシスコを陥落せしめると言う前代未聞の事を成し遂げた事を。


「……しかし、まさか陛下に直接会って承認を得ると言う不敬罪同然な事を貴様はやってしまったのだぞ? 俺はそれを聞いた時、卒倒しかけたものだ。ああ、元上官として俺も腹を切らねばならないと覚悟したがな?」


 そう言うと東條は暫く無言となって次に何を話せばいいか頭の中で整理していて数分後、再び喋る。


「追放して予備役に入った後の貴様は満州事変を起こした時の覇気はすっかりと無くなっていたが再び会った時にはそれ以上の覇気が貴様から出ていたのを見た時は正直言って腰を抜かしたほどだ。貴様を変えたのは……時を漂流する一人の男……『日下敏夫』少将との出会いだったのだな? 何百年も無数にある並行世界での日本の危機を救う旅をしているという潜水空母“伊400”に乗船して……」


 東條はそこまで言うと再び目を閉じて色々な事を思い出しながら何を喋ればいいか頭の中で構築して再び喋る。


「日下少将の話では大東亜戦争に負けた日本はかつての誇りある日本ではなくて金儲けにしか目に入らない汚職が蔓延る堕落した日本になるとの事だ。戦争に負けた後、私は東京裁判にかけられて絞首刑となり、A級戦犯として長年、靖国にも祭られないで悪名のみ広まったという。そして不思議な事に、何故か知らないがA級戦犯として死刑となったのは陸軍のみと聞く。海軍の高級将校たちは一切、罪を問われないで戦後を安泰に過ごして天寿を全うしたと言う。私はその内容が解せないのだが今はそれを考えるときではない。私は……靄となっていた大東亜共栄圏構想を真剣に実現しようと決意したのだ。その為には海軍の連携が必須となる故、俺は……ある考えを纏めて内地に帰ってくる山本連合艦隊司令長官と刺し違える覚悟で協力を申し出ようと思う。陸軍・海軍の垣根を取り払わなければ大東亜共栄圏は幻と化すだけだ。それに……日下少将の話ではある並行世界では本土決戦に突入した時代に来たが見事、連合軍を打ち破って大東亜連邦国として成功したとの事だ。その世界では貴様も私も存命で畳の上で天寿を全うしたと言う。なあ、石原? 俺はな最近、夢を見るのだよ。戦争に負けた日本はGHQというマッカサーの指導の下、復興していくが本質は米国の属国として表向きは独立国だが……日本各地の米軍基地は治外法権で好き放題していてそれを改善しようとする気概ある人物はいなく賄賂に目がくらんで祖国日本の事を真剣に考えないばかりか技術を外国に売り飛ばすと言う売国奴な糞が現れてもそれを有罪にできないという国に成り下がるという夢だ。日下艦長の話では正に戦争に負けた日本の未来を現していると言う。そんな日本を俺は見たくもないし貴様もそれを望んではいないだろう? 戦況が悪化すれば神風特攻隊と言う悲惨な戦法が主流となるというではないか? だから敗北と言う事は決してさせないと決意したのだ。今日、ここに来たのも貴様に私の考えと決意を伝えるためだ。もしかしたらその決意空しく失敗して無様な屍を晒すことになるかもしれないがな? その時は、笑ってくれ。……さてと、長々と話をしたな? 俺は戻るが最早、ここには二度と来ないかもしれないが……この世界に未練があるなら見ていてくれ」


 東條はそういうと腰を上げてもう一度、手を合わせて拝むとバケツを手に持ってくるりと踵を翻して去っていく。


「東條閣下、色々とありましたが貴方なら成功すると思っていますよ? 日下艦長や樋口大将に栗林・牛島中将にもよろしくと伝えてください」


 東條の背後から間違いなく石原莞爾の声が聞こえて後ろを振り向いたが勿論、誰もいなかったが東條は間違いなくこの俺を歓迎してくれたことを悟る。


「……必ず、この国の未来は護って見せる」

 そして東条英機は村長の家でお茶をふるまわれて帝都に帰っていく。


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