第80話:決着!      *第6部終了

「艦長! 伊400から魚雷が発射されました!」


 ソナーからの報告でライプチヒはデコイを発射すると同時にダウントリム40度を命令する。


 艦橋上部ギリギリに魚雷三本は通過していく。

 それを確認したライプチヒはにやりと笑う。


「日下、何をしている? ホーミングではないのか? この俺を甘く見ているのか?」


 その言葉と同時に艦尾に凄まじい衝撃が走り、爆発音が聞こえると共に乗員の絶叫の言葉がマイクから飛び込んでくる。


「後部船体に魚雷が命中! 機関室に海水が濁流となって流れ込んできます!」

「核融合炉は無事か!?」


 ライプチヒの言葉に機関室からは何も返事がない……。

 機関室内カメラが作動してそこに映ったのは核融合炉が無残に破壊されていた姿であった。


「……奴の魚雷は確かに上を通過していったのだぞ!?」


 そう呟いた時、操縦士から機関停止しましたと連絡が入ると共に後部機関室部分は完全に破壊されたことを言うとライプチヒは隔壁閉鎖しろと命令する。


 何とか隔壁閉鎖をしたのでこれ以上の浸水はしなかったがアップトリム30度の状態で停止してしまう。


「か、艦長!! 通信です。パネルに表示します」


 ライプチヒの正面にあるパネルに日下が出てくるとライプチヒはモニターに向かって吠える。


「日下! 貴様、なにをやった?」


 興奮して喚くライプチヒに日下は冷静な表情をしながら種明かしをするが単純な事で信管を抜いたただの魚雷で点火もしていないただの筒にしかない物で故障した魚雷発射管で発射したもので使用可能な魚雷発射管で撃った魚雷こそ本物であったことをいう。


「何もない単純な事がうまくいくことがあるのですよ? ライプチヒ君、今度こそ貴方の葬式だが念のために聞いておく。苦しんで死ぬか苦しまないで死ぬかどっちがいいかな?」


 日下の笑みに突然、ライプチヒは降伏するから命だけは助けてくれと懇願してくる。


 流石の日下も以外だったようで驚きの表情をする。


「助けてくれたら私が今までこの世界で掴んだナチスの情報を全て渡すから命だけは助けてくれ! 私はまだ死にたくないのだ! 正直に言う、私が元々いた世界に帰れる装置があるのだ! 情報を渡したら直ぐにその装置を起動するから頼む!」


 ライプチヒの言葉に何百年間も色々な人物と接してきた日下には噓をついている様子が見られなかった。


「……ライプチヒ艦長、貴官には家族はいるのですか?」


 日下は彼の呼び名を艦長に直して質問をするとライプチヒは妻は数年前に亡くなったが双子の兄弟がいて二人とも、生身の身体だという。


 日下はじっと考えていて橋本の方を見ると彼も艦長の判断に全てお任せしますと目で語る。


 艦内の雰囲気もそう感じたので日下は頷いてライプチヒの要請を承認する。


「有難い! 情報だが今から送る座標の小さな無人島に全て納められているからそれを回収すればいい! 本当の事だ、海の男同志、信じてほしい」


 通信室から詳細な座標が送られてきましたと言いその座標の場所がマダガスカル島を示しており情報が隠されている場所の空中写真のデータも送ってくる。


「艦長、この場所は……100年前にマダカスカル島に寄った時に皆で探検した場所では?」


 100年前、ある並行世界で欧州連合国との戦いのときに秘密基地として数週間いた場所であった。


「……成程、あの場所なら隠すのに最適だな……。ライプチヒ艦長、確かに情報は受け取った。二度と会う事がないと願っている」


「……こちらも同然だ! 一つ忠告しておく、ヒトラーには私達の世界の技術を渡しているが恐ろしいものもあるが奴がそれをしないことを祈っておくがよかろう! ではさらばだ」


 そういうとモニターが切れると同時に伊400の前方にいたUボートは突如、存在が消滅してしまう。


「目標、ロスト!」


 日下は無言で暫く仁王立ちになっていたが新たに命令を出す。


「薄氷を探して海面に浮上する! 艦の状態を目視だ!」


 数分後、浮上可能な場所を確認したことが伝えられると日下は微速前進を命令して伊400はゆっくりと動いて薄氷を突き破って喫水線ギリギリまで浮上すると防寒着を着てハッチから艦橋甲板に出る。


 吹雪もやんでいて凄まじい寒さであったが天気は快晴であった。


「艦長、寒いですね?」

「ああ、冷えるな?」


 橋本は時計の機能の一つであるカレンダーを見ながら西海岸を離れて3週間が過ぎてしまった事を言う。


「……時間がありませんね? 艦長」


「……ああ、時間がないな、だが……艦の状態が非常に悪い。装甲もそうだがシールドの破損もあり本格的な修理が必要だが時間が足りない」


 その時、吉田技術長がやってきてそれなら時間の概念がない並行世界の海を行き来する“並行世界移動要塞『高天原』に寄港する要請を出してみませんか? という。


「……並行世界を行き来するのは俺達だけではないし色々な船を始めとして人のみだけでもいけるという伝説と言われている要塞か。選ばれし存在のみ許されている要塞だが俺達はその資格があるのかな?」


「やってみるのもいいかと? そこに行ければ何百年・数千年間いても元の世界に戻れば一秒も経っていないといいますね?」


 日下はじっと考えていたが頷くと直ちに手続きを取ってくれないか? という。


 半日もあればその資格があるかどうか分かりその要塞に行く手段が分かると言う。


 日下は空を見上げながら呟く。

「樋口大将、そして栗林閣下を始めとする方達、必ず戻ります」


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