第79話:決闘③

 ダメコンチームからの報告を聞いた日下は眉を潜めて橋本の方を向いてこれは難儀だなと伝える。


「幸いに外側装甲は問題ないが急減速した影響で速度が最大30ノットまでしか出ないばかりか2番5番7番発射管のシステムが破損して使用不可か……」


 日下の言葉に吉田技術長がタブレットで各区画の状況を確認していたが表情がとても険しくなってきたのを橋本が見つけると何か大変な事が? と吉田に聞く。


「……艦長! 悪い時には際限なく悪いことが起きるものです! この艦の不沈たる要素の一つであるプラズマシールドを展開する電力が足りません! 数発程度なら特殊装甲で魚雷の直撃にも耐えられますが……核融合炉の出力が大幅にダウンした結果です。完全修理する為にはどこかの施設でないと……しかも時間はかかるかと? それにCICシステムにも制限がかかります……総合的に判断すると平成初期の海上自衛隊潜水艦の性能だと思ってください」


 吉田の言葉に司令塔にいた全員が驚愕した表情をして吉田の方を見る。


 橋本も冷や汗ダラダラと流れて来るのを感じると共に日下の方を見ると彼は意外にも落ち着いていて何かを考えているところであったが直ぐに顔を上げて喋る。


「狼狽えるな! 元々は何の防御力もない普通の潜水艦で戦っていたのだ。しかも永久的ではないからそれまで大東亜戦争時の時に戦っていた状況に戻るだけだ。これより通常の戦いだ! ソナー室、これより俺達の命は貴官たちにかかっている! 心配するな、情報を貰えれば俺が必ずこの戦いに勝利する事を約束しよう」


 伊400潜水艦のトップたる艦長の力強い言葉に司令塔の皆がお互いに顔を合わせて頷く。


「それと今の現状況を全艦内区画に流すから無線のスイッチを切り替えてくれ」


 日下の言葉に橋本が吃驚してよろしいのですか? と聞くと日下は笑いながら頷くと橋本も頷き艦内無線を全区画に聞こえるように切り替える。


 日下の言葉に他の乗員達もやはり吃驚したが艦長の力強い自信溢れる声に皆がこれは大丈夫だと全員の想いが一致する。


「なあ、橋本君? これが一部だけの者しか知らない事なら他の乗員が疑心暗鬼に陥るからこういう事は包み隠さず言う事が大事なのだ。それに……この艦の乗員全員は家族なのだから」


 橋本も笑みを浮かべて力強く頷く。


「よし! 戦闘開始だ、ソナー室、敵はどの方角にいる?」


「はい、当艦の前方1600メートルの地点で停止しています! 丁度、睨みあっている状況です」


「……よし! 今度はこちらから仕掛けてやろう。速度20ノットで奴に向かって前進だ」


 一方、同時刻……Uボート司令塔内でライプチヒは伊400がこちらに前進してくるのを確認するとにやりとして艦をそのまま後退して20センチ反重力砲の発射準備を命じる。


「発射までどれぐらいかかるか?」


「は、はい! 60秒後には発射できますが爆発した時の安全距離が十分にとれていません! 3000メートルは離れないといけませんが?」


「奴のプラズマシールドにダメージを与えるには危険を承知でいかないと駄目だ。肉を切らせて骨を断つ! ふふふ、東洋の国に伝わる言葉だそうだ」


 一方、伊400司令塔内ではソナー員が反重力砲から音がしたことを報告すると日下は頷いて恐らく発射する準備に入ったと確信する。


「ソナー! 反重力砲が発射される寸前には建御雷神の矛と同等な音が聞こえる筈だ! 奴が発射したと同時にダウントリム45度及び30ノットに増速だ! 一気に沈降して後部レールガンにて奴を撃つ! 狙う場所は船体下部だ。そこにシールド発生装置が設置されている筈だ。俺達の命はソナーに預ける!」


 伊400とUボートの艦内ではお互い、緊張をしていた。

 最もライプチヒ以下の乗員は機械の体でもあるので直接には感じないが脳内では緊張していた。


「艦長、発射準備完了です! ご指示を」


 ライプチヒは頷くと醜悪な笑みを見せてこれで終わりだと呟いて発射ボタンを押す。


 伊400ソナー室では初期からの乗員である『上長道明』一等兵曹の耳が今正に反重力砲が発射された瞬間を聞き取る。


「こちらソナー! 発射されました!」


「ダウントリム45度! 最大速度で降下!」


 上長の言葉を聞いたと同時に日下が大声で命令すると伊400は日下の指示通り、急速に沈降していくと同時に伊400後部船体のギリギリを通過していく。


「Mensch!!! 馬鹿な!!??」


「今だ!! レールガン発射!」


 通常では海水の抵抗が邪魔して不可能なのだが特殊シールドに包まれているので空気中と同じ状態で発射できる夢のような装置であった。


 その瞬間、凄まじい振動が船体を襲うと同時にブラックホールシールド発生装置が破壊される。


「……何て奴だ! ……だがまあいい、振出しに戻っただけだ。ソナー室、奴の音を見逃すな!」


 だが、この時の海中では伊400が躱した反重力砲エネルギーが巨大氷塊にぶつかり大量の氷片が海中で砕け散ってソナーが使えなくなっていたのである。


「……止むを得ない! 恐らく奴も目クラ状態だろう。一旦、思い切り後退して仕切り直しだ!」


 だが、日下の頭の中でははっきりと現在の状況及び位置情報を捉えていて稼働状態の魚雷発射管に魚雷装填を命じていた。


「……残念だったな、俺達が何百年間この艦で戦ってきた事を知らないわけではあるまいに……亀の甲より年の功だ」

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