第78話:決闘②

 伊400とUボートの静かな鬼ごっこは会敵してから一時間が過ぎたが特に何も起こらない状態であった。


 魚雷攻撃が無効になる故、後部15センチ超音速レールガンによる徹甲弾を使用したいのだが海底地形が回廊のような形状をしているため、左右にも展開できない状況であった。


「艦長、不気味ですね? 奴もあれから何も攻撃してこないでただひたすら進んでいるだけです」


 橋本がモニターを見ながら摩訶不思議そうな表情で日下に喋ると日下も無言で頷くと何か色々な事を考えていたようで橋本に言う。


「奴にとってこの伊400を沈めるためには何が有効なのか奴の立場になって考えていたのだがどうやってもあのUボートではこの艦を簡単に沈めることは不可能だ。奴が元々いた世界では最新鋭の潜水艦だがこの伊400との性能の差は100年の差がある」


「確かに奴の推進装置は核融合でスクリューですが最大可能深度は8000メートルですがこちらは10000メートル以上でも安全潜航深度ですのでその点は勝っています。しかし20センチ反重力砲は対処を誤ればこちらも甚大な被害をもたらします」


「奴のU905は反重力砲が前部に付いているからな? だが、奴は初めて会敵した時も当艦に背後を取らせていたからな? 結局、膠着しているのだが何を企んでいるのだろうか?」


 日下と橋本はお互い顔を見合わせるが的確な答えが出ないまま時間が過ぎていったがその静寂を鮫島が壊す。


「艦長! ここから20海里前方に垂直な崖があり一気に水深6000メートルまでですが下方・左右共に自由な運動が可能です」


「よし、奴も恐らくそこで何かを仕掛けてくるかもしれない。最も何もしてこないこともあるかもしれないが」


 日下がそう言った時、ソナー室から報告が入る。

「艦長! 奴が速度を急速に上げました! 50ノットを越えます」


 橋本が日下の方を向くと無言で橋本に頷く。

「こちらも速度を上げろ!」


 伊400機関室では核融合炉出力を上げるために起動レバーを下に押すと出力が上昇していく。


「現在の出力80%、110%まで上昇させます」


 機関室からの連絡を受けた日下は頷くと例の水深が一気に深くなる地点に達した時に一気に追い抜いて砲撃で片を付けると言う。


 伊400が速度を上げて行き後、数十秒で例の場所に出ると言うときに日下は急に背に悪寒を感じる。


 今まで経験したことがない悪寒だった。


 他にも橋本以下数人の乗員が同じ反応をするのを確認した日下は大声で機関停止を命令すると総員、何かに掴まれと怒鳴る。


 70ノットの速度に達して進んでいた伊400は一気に緊急減速を実施した為、核融合炉に負荷がかかり粒子加速器に不具合が発生する。


 例の崖から船体が出る寸前で停止した時、完全体の装甲が悲鳴を上げると共に司令塔内の潜望鏡システム内パイプの一つのネジが吹き飛ぶ。


「か、艦長!! 例の崖から広がった海域全体に5万気圧の超重圧力が! 幸いにこちらの船体は4千気圧です」


「艦内及び全システムの障害及び被害状況を確認して報告だ!」


 冷や汗を大量にかきながら日下は思い切り安堵した表情をして橋本に顔を向けると橋本も頷く。


「艦長……危機一髪でしたね? このまま行っていれば……」

「ああ、間違いなく無敵を誇ったこの伊400もぺしゃんこに圧壊して俺達は全員、跡形もなく……」


 吉田技術長が血相を変えて司令塔に飛び込んでくると急に艦の外側の圧力が急上昇したとの事を言うと日下は先程の件を初めから簡潔明瞭に話すと吉田も真っ青な表情をする。


「重力コントロール装置をあらかじめ仕掛けていたとしか思われないですね。奴がいた世界なら最高機密兵器の一種になりますがそれを持っていたのでしょう」


 吉田の言葉に日下は頷くと改めて吉田に再確認する。


「吉田技術長、確かこの伊400は3000気圧までは大丈夫だったはずですね?」


「ええ、水深で言えば3万メートルですが地球上にはそんな地点がありませんのであくまで計算した状態ですが実際には4千気圧に耐えることが出来たので限界圧力が4千だという事ですね」


 そこまでの会話が進んだ時、通信室から連絡が入り、敵からの通信が入りモニターに切り替えますと言ってくる。


 正面モニターにライプチヒ艦長が現れるが相当、憮然とした表情をしていた。


「よくぞ私の罠を見破ったな? 日下君?」


「悪辣な贈り物、この日下……誠に感謝する、ライプチヒ君?」


「腑に落ちない! この罠を回避する確率は0.00001%だがお前達も相当に優秀なコンピューターを持っているとみた」


 ライプチヒの言葉に日下は不敵な笑みを浮かべると彼の言葉を否定する。


「我々潜水艦の乗員が一番信頼することは高性能のコンピューターではなく長年、現場で培ってきた集大成でもある己の経験値と勘だ! 生憎とコンピューターは0か1だが戦闘は生身で生きている人間がやるのだ! 己の人間を捨てたお前達には永遠にわかる事がない物だな?」


 日下の言葉にライプチヒが怒りの表情で宣言する。

「たかが勘の一つで何が出来る!? まあ、いいだろう。戦闘開始だ」


 一方的に通信が切れた時に日下はこちらも戦闘態勢に入ると言った時に艦全体の損傷具合等の報告が入ってきたのである。


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