第69話:日本混乱

 米独軍事同盟の知らせを受けた米国派遣軍司令部では皆が驚天動地の表情をすると共に誰もが息を呑んで口を開かなかった。


「……その報告は本当か? ガセネタか策謀ではないのか?」


 やっと衝撃的なショックから抜け出た樋口季一郎が口を開くと他の将軍達も口々にまさか米国とドイツが? という事しか出なかったのである。


 連合艦隊司令長官『山本五十六』も苦虫を噛んだ表情で腕を組みながら珍しく口を閉じていたが他の者達の視線に気づいて意見を言う。


「ルーズベルトとヒトラーは真剣に同盟を考えていない筈だ。恐らく我が軍を太平洋に蹴り落として布哇を奪取した時か日本本土に侵攻した後には必ず袂を分かつと断言できる」


「最高指揮官たる樋口閣下はどのようにお考えですか?」


 海軍きっての変人参謀と言われている黒島亀人に質問をぶつけられた樋口は特に動揺もすることなく淡々と表情を変えずに答える。


「山本長官と同じく私もこの同盟の奥底には政治的な深い意味はないと考えられる。米国が停滞している現状況及び敗北状況を打破する為にヒトラーに打診したのだろう。だが、あのヒトラーがユダヤ人を全て解放するばかりかパレスチナと言う土地を与えて国を興す手伝いをするばかりか公式にユダヤ民族に対して詫びを入れる……とても信じられない。それに関してだがユダヤ資本が米国は元よりドイツにも流れることは予想できる」


 世界中の資本を裏で握っているユダヤ組織は莫大な資金を持っていて樋口が言った通り、資本がナチスに流れるばかりか優れた頭脳を持つ著名なユダヤ人の科学者もナチスドイツに協力することになる。


「一番、恐れていることは……原子爆弾と言うたった一発で広島や長崎クラスの都市を消滅させることができる爆弾の完成が早まる事だ」


 樋口の言う原子爆弾と言う言葉に大多数の軍人は噂には聞いていて日本も開発していると聞いたがそこまでの威力なのか? という半信半疑が大半だった。


「場所も分かっているがそこまでの距離へ行ける航空機は無いので無理だが本国とも相談してみるつもりだ。今の東條閣下はお人柄が変わったようだからな? そして、私は直ぐにでもサンティエゴに飛んで防衛体制を築きたいと思っているがこのサンフランシスコの地を守護する司令官を決めておきたいのだが『今村均』中将にお願いしたいのですが?」


 樋口の後任として選ばれた今村が立ち上がり敬礼をして承りました! この地を米帝からきっちりと守護しますと笑みを浮かべて言う。


 樋口と固い握手をした今村は所でどうやってサンティエゴまで行かれるのですか? と聞いてくる。


 石原大将の二の舞は絶対に回避しないといけませんと言うと他の者達も頷き山本長官が艦隊のゼロ戦を全機護衛として出撃させようと言うと新たに司令となった今村が隼戦闘機を出すと言うと樋口は頭を下げてお礼を言う。


 二日後、飛行場に用意された一式陸上攻撃機に樋口以下4名が乗り込む。


 この一式陸上攻撃機は徹底的に防御重視を図られて風防や側面の装甲及びエンジン装甲を強化された。


 発動機が回り快調なエンジンを響かせて一式陸攻がゆっくりと滑走路を走りだすと見送りに来ていた各将校たちが敬礼をして見送る。


 無事、離陸して上空に舞い上がった時、護衛としてゼロ戦50機・隼90機が防衛編隊を組んでサンティエゴ方面へ向かっていく。


♦♦


 米独同盟が結ばれたとの報告が入った日本本土では当初は、陸軍省・海軍省及び大本営は大混乱に陥っていて再度確認しろと等、阿鼻叫喚の状態であったが東條英機の喝で一瞬で冷静さを取り戻す。


「……石原が言っていた通りになったな。やはりあいつは天才だったな」


 東條は黙々と各省に的確な指示を与えると共に外務省に現在のドイツ本国の状態等を報告しろと命令するが少しも信頼も信用していなかったのである。


「閣下、海軍の米内大将がお越しになられましたが?」


 東條は客室に通すように言い、10分後に伺うと伝えてくれと言うと伝令兵は敬礼をして出ていく。


 10分後、東條と米内は握手をして向かい合って座り今回の報告についてお互い意見を言うが最初に自分が三国軍事同盟に反対していたがそれが正しかった事だったことを言うと東條は頷いて頭を下げて流石は先見がある海軍さんだと褒める。


 米内は東條の動作に面食らったようだがここに来た目的を言うと東條も頷いてまさにそれを陸軍も考えていたという。


「聞けばドイツ陸軍のロンメル元帥がスエズ運河を完全に手中に収めたというがドイツ主力艦隊が運河を通りインド洋に進出してくるのは間違いないが海軍としては何かの対策がおありか?」


 米内はドイツ海軍は水上艦においては特に脅威は無く現在、日本の各港に停泊している艦船で十分、対峙できるという。


「一番、恐れているのはUボートと言われる潜水艦だが商船等小型艦艇しか攻撃できない小さな潜水艦だから駆潜艇や駆逐艦で十分だと認識している」


「……だがその潜水艦が千隻クラスで押し寄せてきて補給線を叩いてくれば脅威なのでは?」


 違う並行世界での日本の危機を知っている東條は、南方から本土へ運ぶ輸送船が米軍の潜水艦によって次々と撃沈されて干しあがったことを思い出して危機を覚えるが輸送船を護り海路を守護すると言うのを軽視している海軍と言うか日本軍全体であった。


米内はまあそんなに心配しなくてもいいですよと気軽に言う。


 東條は自分も前世? を知らなければ補給線と言った概念は間違いなく軽視すると思っていたので特に何も言わなかったが陸軍独自で動こうと決意する。

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