第67話:急転! (第5部終了)

 ナチスドイツ国首都“ベルリン”総統官邸の大広間にてアドルフ・ヒトラーは上機嫌で定例会議に臨んでいたのである。


「先程の知らせでロンメルがエル・アラメインで残存英軍と交戦して完膚なきまで叩き潰してトブルクを完全制圧したという。そしてそのままカイロへ進軍してスエズ運河を占領すると言う事を言ってきた! ロンメルの戦功に報いる為に元帥の称号を授けようと思うだが異存はあるか?」


 このヒトラーの言葉に反論を唱えようとする者は誰一人ともいない。

 この時点で既に決定事項となっているのである。


「では賛成という事でロンメルに元帥杖を授けるがベルリンにわざわざ引き返すのも酷と言う物だから誰かを遣わそう」


 こうして論功行賞は行われてこれからの行動を話す時間が来た時、ゲシュタポ長官『アドルフ・アイヒマン』中佐が立ち上がり発言の許可を求める。


「うむ、アイヒマン君、何かね? 遠慮なくいいたまえ」


 誰が見ても邪悪な雰囲気をプンプン出しているアイヒマンが言葉を発すると皆が驚天動地の表情をする。


「ほう? 君は……ドイツの足枷となる障害を排除せよと?」


「はい、ロンメル元帥がスエズ運河攻略するとなればイタリアが邪魔になります。百害あって一利も無しです、ここは思い切って……」


 アイヒマンの言葉を遮ってヒトラーが不気味な笑みを見せながら彼が言いたい事を言うとアイヒマンはナチス式敬礼で褒め称える。


「確かにムッソリーニーがいると邪魔だな? 足を引っ張る事しか能がない奴だからな。いっそのこと表舞台から永久に退いてもらって傀儡政権を建てるのが我が国にも良い事だと思う。よろしい、アイヒマン君! せめてもの情けだ、名誉ある死を偽装させてでも完成させるのだ」


 アイヒマンはナチス式敬礼をすると再び無言状態になって着席する。


 彼が着席した後、ヒトラーの秘書官『マルティン・ボルマン』が立ち上がり先日、米国のルーズベルトから非公式で米独軍事同盟を結びたいとの事についてを話す。


「ふん、ルーズベルトめ、予想外に日本にこてんぱんにやられて首が回らないのだろうが総統のお考えはいかがでしょうか?」


 ボルマンの質問にヒトラーの言葉は意外にも……それは非常に嬉しい申し出だが米国内のユダヤ人はどうするのか? と尋ねるとボルマンが答える。


「はい、米国からの提案ですがユダヤ人迫害を直ぐに辞めて人道的な配慮を願いたいとの事です。しかも続きがありますがもし、この提案を受け入れてくれれば伝説の秘宝中の秘宝“ロンギヌスの槍”を渡すとの事です」


 ロンギヌスの槍と聞いたヒトラーはとても興味深そうな表情をして笑みを浮かべるとそれは本物だろうな? 聞く。


 何しろ、過去に偽物が沢山出現していたのだがボルマンは自信満々にこれは正真正銘の本物でロックフェラー財団の宝物なので間違いないと太鼓判を押す。


「……仮に米独同盟を結ぶとして米国内のユダヤ人共を納得させる理由が必要では? 急に解放すると言っても半信半疑だろうからな?」


 ヒトラーの言葉にボルマンは何も心配はありませんと言い、自分が考えている代案を出すとヒトラーを始めとする出席者達が感嘆の声を上げる。


「パレスチナ地方をユダヤ人にくれてやり彼ら独自の国を建国させるという事か。首都はエルサレムになるのかな? 何しろ、あの土地はユダヤ王国があった処だしバビロンの捕囚で崩壊したからな? 良い代案だがあそこにはアラブ人が既に住んでいるがどうするのだ?」


「はい、ユダヤ人にこの土地を明け渡す代わりにアラビア半島の砂漠一帯の地を渡せばよいかと? 只の広大な砂漠しかありませんがそこに自分たちの国を作らせるのです。勿論、援助はしないし放っておくだけですが? あの地は資源が何もないですから自然と立ち枯れるでしょうが?」


 もし、ここに並行世界から来たライプチヒ艦長がいたらその地の地面の下には想像を超える大油田が存在していて100年経っても枯れることはない天文学的な埋蔵量を誇っていると教えるのだが彼はメンテに入っていたのである。

 何しろ、脳以外は機械の体である故に……。


「よし、ロンギヌスの槍が本物であるならばルーズベルトの泣き言を受け入れてやろうではないか? そうなれば日本と戦端を開くことになるがそれもやむを得ないだろう。Uボート軍団全隻を太平洋に向かわせて通商破壊を開始しろとデーニッツに連絡するのだ。ライプチヒ艦長にも出陣してもらおう! 来年にはV3ロケットと円盤型戦闘機が完成するがそれを米国に供給する代わりに新兵器の設計図等を戴こうか?」


 ヒトラーの提案にボルマンを始めとする閣僚は頷く。


「では、直ちに米国に今の一連の話の内容を伝えるのだ! 向こうが了承してロンギヌスの槍が本物と断定すれば速やかに米独同盟を結んでユダヤ人全てを解放してパレスチナの地へ向かわせようではないか」


 ヒトラーの指示事項は直ぐに米国に伝えられてルーズベルトはロンギヌスの槍をロックフェラー財団から譲り受けると共にロスチャイルド総帥にユダヤ民族千年以上の悲願である失われた地を与えると言いそれに吃驚したロスチャイルド財団は大いに喜び世界中に散らばっているユダヤ民族に伝えろと部下に指示を出す。


 そして密かにヒトラーとルーズベルトはヤルタの地にて直に会い後にヤルタ会談と呼ばれる極秘の会議をするがユダヤ民族が建国する国を両国で支援する事が決定となったのである。


 ヒトラーは米独同盟締結後、直ぐに占領下にあるユダヤ人収容所を全て廃止してユダヤ人全てを解放しろとの命令を出す。


 余談だがアンネ・フランク一家全員は無事に解放さるのだがそれは別の話である。


 この電撃的な内容を伊400艦長『日下敏夫』は元より日本の誰もが未だ知らないのである。

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