第66話:大統領の怒り

 アメリカ合衆国首都“ワシントンD.C”ホワイトハウス大統領執務室にてルーズベルト大統領は顔を真っ赤にしながら定例会議に出席している閣僚に怒鳴っていた。


「サンフランシスコを奪われてしかも西海岸最大の海軍基地をもいとも簡単に占領されるとは何事だ!? しかも殆ど抵抗しないで全面降伏したそうだが? 我々の祖先が西部開拓をしたあの獰猛な気概がないのか?」


 ルーズベルトの怒鳴り声に海軍長官ノックスが手を上げて立ち上がりこれからの作戦を説明する。


「大統領のお怒りは最もですが反撃の手段を考えねばなりません。来年の春ごろには海軍の再建が出来ます。新たに戦艦30隻・正規空母40隻・護衛空母80隻・その他巡洋艦や駆逐艦が400隻が完成して戦力配置になります。航空機も4~5万機もそろいます」


 ノックスの言葉の後に陸軍参謀のスチムソンが立ちあがりマンハッタン計画が一年早く実験が出来ることなので実験成功後、直ちに原子爆弾の製造を開始する事を説明する。


「オッペンハイマー博士やアインシュタイン博士にテラー博士が昼夜を問わず働いてもらっているので計画を前倒しできます」


 そのあと、会議に出席する為に急遽、ワシントンに戻ったアイゼンハワー元帥が立ち上がり主力を以てサンティエゴを奪回することを説明する。


「敵はどうやらロッキー山脈突破を諦めたようでサンフランシスコ各地に陣地を構築しています。私の見立てではある程度戦力の編成が整えればロスアンジェルスへ侵攻するかと」


 それぞれ軍に関して色々な話がしているが今まで何の発言もしていなかった人物が手を上げて立ち上がる。


「大統領、米国内における支持率は過去最低となっていますがこのままいけば共和党に取って代わられるかと?」


 商務長官『ハリー・ポプキンス』がルーズベルトに辛辣な言葉を掛けると彼は不快そうな表情をして吐き出すように言う。


「本来の予定では我が国に協力してくれている日本の大使館員が真珠湾攻撃の後に宣戦布告をする手順になるはずだったのだが天皇のせいで全てが御破算になったのだ! 本当にいまいいましい存在だ! 日本を降伏させたら真っ先に処刑してやるのだが」


 ルーズベルトの言葉にアイゼンハワーが噛みつくように声のトーンがおちて先程の言葉の意味を確認しようとした時にルーズベルトも自分が今言った失言を自覚して口を閉ざす。


「……大統領? 今、貴方は真珠湾攻撃後に宣戦布告と言ったが……噂通り、わざと知っていてアメリカの若者を無駄死にさせるつもりだったのですか?」


 ルーズベルトは開き直った表情になるとその通りだと言うが何を思ったかキンメルが真珠湾内の戦艦を始めとする太平洋艦隊を出撃させたことも予定外だったことをいう。


「元帥、これは高度な政治の駆け引きなんだよ? 騙し討ちという事にして国民を一致団結させようとしたが天皇とキンメルの愚か者が勝手に出撃させたお陰で全てが狂って太平洋艦隊全てを失った。しかもカリフォルニア州が陥落? 何と言う事」


 アイゼンハワーは内心、腸が煮えくりかえそうになったが自分もいつかは政治の世界に入り大統領を目指したいと考えていたのでその件についてこれ以上、言わないようにしようと。


「とにかくここらで日本軍と一度は雌雄決戦をして勝利せねばなりません! パナマ運河もほぼ使用できますのでノーフォーク基地の艦船全てを太平洋に回して日本艦隊を叩き潰す事です」


 ポプキンスの言葉にルーズベルトも頷くが例の未確認飛行物体やこの時代ではない謎の潜水空母の事を切り出す。


「ここ数か月で未確認飛行物体による米本土における我が方の航空機損害が5000機にも及んでいるというが例の潜水艦の行方も気になるがそれ以降の報告はないのか?」


 大統領の質問にノックス海軍長官が頷いてあれから全然、姿を現していませんが未確認飛行物体もその例の潜水艦かもしれないと言う。


「本当に忌々しい存在だ! 万が一の話だが再建した我が大艦隊がパナマ運河を抜けたと同時に攻撃されれば一巻の終わりだぞ?」


「……大統領、それならば日本と講和すればいいかがですか? 例え、その潜水艦が優れていても国一つを占領することは不可能です。それよりも日本と講和して日本に三国同盟から脱退させて連合軍の一員として迎え入れればその潜水艦も敵にならずに味方になるかと?」


 アイゼンハワーの言葉に他の閣僚も確かにそれも一理あるなと賛成の意見が出たがスチムソンとポプキンスが顔を真っ赤にしてそれは出来ないと言う。


「何故、我ら白人が東洋の黄色い猿と講和しなければいけないのだ? 屈辱そのものであろう! それよりも……大統領、思い切ってヒトラーと講和してお互いにジャップを叩き潰しませんか? と提案してみれば? ヒトラーもジャップのことは疎ましく思っている筈です」


 二人の言葉に他の閣僚はギョッとするがルーズベルトは無言になって何か試案をしていたがやがて決断したようで答える。


「スチムソン君、ポプキンス君と協力してヒトラーにこの件を提案してみてほしい。奴が乗ってくれば良し! 駄目ならそのまま敵対することになるが」


 スチムソン達が頷いて執務室を出ていくとアイゼンハワーを始めとする軍人たちは顔をしかめるが何も言えずであった。

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