第65話:サンティエゴ占領作戦③
「艦長、相変わらず“大和”の主砲は凄まじいですね? 既に海岸線に布陣していた陣地の八割は破壊されていますね? サンフランシスコ上陸戦と同じですね」
モニターで日本の攻撃を眺めていた日下は橋本の声に頷くと間もなく牛島・栗林両中将の部隊が上陸の為に無数の大発に乗り込んでいる頃だろうなと言う。
「未だ援護の攻撃を続けますか?」
「……いや、それはもういい。後は彼らに任せよう! 米軍の士気はガタガタになっているし命を懸けてまで上陸阻止するという事はないだろう」
「それは又、どうしてですか? 祖国ですよ?」
橋本の言葉に日下はコツコツと艦長席まで歩いて座るとその考えを言う。
「アメリカは多民族国家で元々はインディアンの土地を悪辣な方法で占領すると共に虐殺も行い多量の血の上に築かれたのがアメリカ合衆国だ。もう一つの世界、我々が未だ普通に生きていた時代では無能な外務省のせいで宣戦布告が遅れてしまいリメンバーパールハーバーという余計な感情を抱かせることになったのだ。その感情が一致団結してどんな犠牲を払っても騙し討ちした卑怯な東洋の黄色い猿を叩き潰す……すべては宣戦布告が遅れた事が始まりだ。だが、この世界では堂々と攻撃前に宣戦布告がされたので米国民たちは悪感情を沸かせることはなかった。これが私が考える意見だ。反対にこの戦争を画策したルーズベルトが叩かれることになるな?」
日下の言葉に司令塔の皆が確かにと頷く。
そして再びモニターを見た時、上陸用部隊を乗せた大発や二等輸送艦が海岸線へ向かって進んでいく。
「始まったな、それに……“瑞鶴”“翔鶴”から再び発艦した艦載機群が上陸部隊を掩護するだろう。まあ、万が一の為に“晴嵐”を待機させているから大丈夫だ」
♦♦
無数の大発や二等輸送船が波しぶきを上げて海岸線へ殺到していく。
「壮観な眺めだな! まさか生きている間にこんな景色を拝めるとは」
二等輸送船の先端で仁王立ちになって海岸線を睨んでいる栗林に牛島がやってきて横に並ぶ。
「……ああ、あの基地は確かに簡単に占領出来るがその後が問題だな? 補給は元より奪い返しに来るであろう米陸軍の圧倒的な数の暴力に耐えなければならない」
「残念ながら戦車戦は自殺行為に等しいな、我が軍の戦車は歩兵と共同してこそ力を発揮するからな、戦車隊同士の戦いになれば一方的な殺戮になるな、勿論、我が方だが?」
二人の会話に背後から誰かがやってきて割り込んでくるが二人が振り向くとそこには両名とも付き合いが深い人物が立っていた。
「バロン西じゃないか、盗み聞きはよくないぞ?」
栗林のおどけた表情にバロン西は童のような笑みを浮かべながら二人に喋りかける。
「何やら難しい話をしておられる様子ですが先ずはあの巨大な基地を制圧してから考えればよろしいかと? まもなく上陸予定地点ですよ?」
バロン西の言う通り、海岸の浅瀬に乗り上げた大発等から先発の日本兵たちが飛び出していく。
「そうだな、私達も行こうか!」
日本軍が鬨の声を上げて海岸線に向かっていくが米軍からの反撃は殆どなく時折単発に機関砲で応戦してくるが直ぐに上空から99式艦爆が急降下してきて爆弾を落としていく。
既に日本が制空権を握っていた為、米軍三個師団という強力な軍団も上空から爆弾の雨を降らされると共に“大和”の46センチ砲弾の破壊力に次々と文字通り粉砕されていく。
歓声を上げて日本軍がサンティエゴ基地に殺到していくが正面切って反撃できない米軍は建物の陰等に隠れて応戦する。
栗林中将率いる軍は一気に“コロナド”一帯を制圧して“コロナドブリッジ”を確保して軍港へ突入していく。
勿論、米軍はコロナドブリッジを破壊しようとしたがその工兵部隊も上空から99式艦爆やゼロ戦の餌食になり達成できなかったのである。
二個師団の内、牛島中将の軍団はそのまま南下してナショナルシティー一帯を制圧する。
強力な師団を持っていたサンティエゴ守備軍であったが空と海からの二正面による猛攻撃で壊滅状態になっていたのである。
「そろそろ降伏勧告を出すか。窮鼠猫を噛むという事もあるからな? 敵の司令官が物わかりがよければいいのだが?」
空母“瑞鶴”艦橋で南雲中将は横にいる草鹿龍之介の方へ顔を向けると草鹿もそれでいいですねと言う。
「先日、山本長官を通じて樋口大将からある程度、叩けば降伏勧告を試みてほしいとの事だからね?」
二人は頷くと大量のビラを撒くように第三次攻撃隊の一部に命令する。
97式艦攻と99式艦爆10機ずつにビラを持ち込む。
30分後、サンティエゴ上空から大量のビラが撒かれてそれを読んだ米兵たちは激しく動揺して戦意を落としていく。
ビラの内容はこの戦争を画策して日本を戦争に引きずり込んだのはルーズベルト大統領で彼こそ元凶だという内容で最後に無駄な抵抗をしなくて名誉ある降伏を受け入れたしと英語で書かれていた。
このビラを読んだフィッシャー中将は溜息を付くと参謀達も降伏に傾いていることを伝える。
「抵抗しようにも海上からはマンモス戦艦の砲撃、上空からは爆弾の雨が降ってくるがその対抗手段は全くなしでこのまま何もしなくても全滅するのは火を見るより明らかですし第一、ジャップとの戦争って何か意味あるのかわかりません!」
「私は特に日本人に対して悪感情をもっていませんし極東の小国が強大な我が国に堂々と宣戦布告をして戦いに来たのです。大したものだと考えます」
フィッシャー中将はやっと決心して通信で降伏を伝えると共に司令部の屋根に白旗を掲げるように命令する。
空母“瑞鶴”艦橋内の南雲司令に無電が入ってくる。
「敵司令部の屋根に白旗が立ちました!」
大歓声が南雲艦隊全体から沸き起こる。
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